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幸福部
都立北高校はいったいどのへんが北なのかという世田谷区のど真ん中に立っている。そんな北高のまさに北に建っている北校舎はもっぱら部室棟として使われている。その部室というのはもっぱら物置として使われている。何しろ部室の一つ一つは都心のワンルームみたいな狭さだ。更衣室にしても使いづらいこれらを使っている部活動のほうが少なく、部室以外はカビ臭い資料室と陰気な空き教室があるだけで、北校舎というのは人気が少ない。
だがそんな北校舎に幸福部はあった。部室の前には楠で造られた立派な看板にいかつい筆で「幸福部」と書かれている。部室の中には部員が仕事をするスペースとして中小企業みたいなレイアウトで机が3つ突合されている。そんな部室で双葉正二郎はラッセルの「幸福論」を読んでいた。幸福に関係しているのだから立派な「幸福部」の活動である。その正面では1年生の三宮御子がやたらでかい赤リボンを揺らしながらノートパソコンで何やら打ち込んでいる。人差し指でたどたどしくタイプしているのは