好きな人
ホームルームが終わると教室は喧騒に包まれた。部活に行く人、塾に行く人、放課後どこに行こうかと友人と連れ立ってなかなか帰らない人。
私は妙に孤独感を感じて動けなかった。理由は明白、好きな人ができたのだ。
それからというもの、幸福か苦痛かわからない感情は私の中でぐちゃぐちゃになっていた。このことはまだ誰にも言っていない。母親にも友達にも。誰ともこの感情を共有できない。孤独感の理由はたぶんそのせいだ。
私は気分を切り替えて隣の友達に話しかけた。
「御子ちゃん今日は部活?」
彼女は三宮御子といった。しばらく家の事情で学校に来れなかったらしく、登校するようになったのはゴールデンウィーク明けくらいからだった。最初はみんな腫れ物を扱うような雰囲気があったし、彼女も少し不思議な子だったけど、悪い人ではなかった。彼女の部活がない日はだいたい一緒に帰っている。
「ごめんね、今日は部活」
御子は申し訳なさそうに言った。彼女の部活は幸福部といった。何をする部活なのかはよくわからない。部活紹介のときに説明を受けたが結局何をする部活なのかよくわからなかったのだ。だが御子は学校に来るようになった途端、幸福部に入った。以前幸福部について尋ねたが彼女からも「よくわからない」と言われた。何だってよくわからない部活に入るのかそのときは聞けなかった。
御子はじっとこちらを見据えた。彼女は時折こうしてくる。前髪に