幼い花と無邪気な子
村にほど近い、弱い魔物のみが住む小さな森の中。
白銀色の髪をした2人の少女は、仲良く並んで山菜を採っていた。
「ねえ、ミラちゃんはこの後何したい?」
水色のワンピースを着た方の女の子は、もう片方の子にそう尋ねた。
「うーん、何しよっか。……ユナちゃんのお家、行ってもいい?」
ミラと呼ばれた子はそう返して、桃色のスカートについた茶色い土を手で軽く払って立ち上がる。
ユナは手に持っていた山菜を背中の籠に入れてから、ミラに続くように立ち上がって、それからまた言葉を返した。
「いいけど……ウチに帰っても何にも無いと思うよ?」
「なら、行く。少しだけ、気になってることがあるし……」
ユナは、ミラのいう“気になってること”が何なのかは分からなかったが、特に考えることもなく「そう?」とだけ返して、それから2人は帰路についた。
ユナの家には昼間は誰もいない。母は『ぎるど』というところで働いていて、父は『とっても遠く』へと数年前に行ってしまったからだと、ユナはそう聞いていた。
そんなわけで、一つ屋根の下、ユナとミラの2人は、並んで座ってお喋りしていた。
始めの暫くは普段と変わらないような話をしていたが、一区切りがついたところで、ミラはユナに尋ねた。
「……ねえ、ユナちゃんはさ、『ちゅー』したことある?」
そう尋ねる頰には朱が差していて、幼い子がするには少し艶っぽい顔をしていた。
そしてユナはミラの様子を不思議に思いながら、いつもの調子で返す。
「『チュー』ってなあに?」
「好きな人とすること、だよ」
「好きな人と、するの?」
ユナはよくわからない、といった表情でそう聞き返した。
するとミラは「うん」と頷いて、隣で支え合っていたユナの方へと顔を向かせて、ユナの方へと少しだけ擦り寄って。
それからまた、口を開いた。
「……ユナちゃんは、私のこと、好き?」
ミラの顔は先程よりも赤くなっていた。しかしユナはそれに気付かないかのように、今までと同じ調子で返した。
「私はミラちゃんのこと大好きだよ! ……ミラちゃんは私のこと、好き?」
「……好き」
「ふふっ、良かった!」
無邪気に笑うユナを見て、ミラは少し寂しそうに息を吐いた。
それからミラは先ほどと同じくらいのところへと擦って戻って、天井を見上げながら聞いた。
「……ねえ、私が10年後に同じ質問をしても、ユナは好きって答えてくれる?」
その言葉に、ユナはまた少し不思議そうにした後、満面の笑みで答える。
「私はずっと、ミラちゃんが好きだよ!」
ミラは少し目を細めて、「なら、良かった」と小さく笑った。