Bitter day, but a little sweet.
今日の先輩はどこかおかしい。
僕にはそれが、何となく分かる。
先輩の見た目はいつも通り。
何も変わらない。
その長い髪を、頭の後ろで丸く束ね、
何かのロゴの入った白いTシャツに、
紺色のデニムのパンツ。
いつも通りの、ラフな格好。
何も変わらない。
研究室のデスクでパソコンを打ちながら、
ときどき、誰かの冗談に対して、
いつも通り、笑顔を振りまいている。
何も変わらない。
でも、どこかおかしい。
作り笑いのような、そんな気がする。
何か無理をしている。
僕にはそれが、何となく分かる。
「コーヒー淹れてきますけど、ほかに欲しい人いますか?」
自分のを淹れるついでに、研究室のみんなにも訊いてみる。
何人かがこちらを向いて、手を挙げた。
先輩も手を挙げた。
僕はその数を数えると、給湯室に向かった。
お盆の上に人数分のマグカップと、何本かのスティックシュガーを用意した。
熱いコーヒーを、そのマグカップに淹れていく。
先輩の様子を、何となく思い浮かべていた。
お盆を運ぼうと手を伸ばし、僕はその手を止めた。
少しだけ考える。
そして、スティックシュガーを1本だけ破り、
一振りだけ先輩のマグカップに入れて、
残りを全て、自分のものに入れた。
僕は、お盆を持って研究室に戻った。
そして、コーヒーの入ったマグカップを、
それぞれのデスクに置いていく。
砂糖が必要な人には、スティックシュガーも添えた。
いちいち訊かない。
誰が必要かは、もう覚えていた。
先輩のデスクにもコーヒーを置く。
スティックシュガーは置かなかった。
いつもブラックしか飲まない。
先輩はパソコンの画面から視線を外すと、
僕を見て、お礼を言った。
やはり無理をしている。
作り笑い。
僕にはそれが、何となく分かる。
僕はお盆を、研究室のいつもの場所に置き、
自分のデスクに戻った。
そして、パソコンでの作業を再開させる。
鼓動が少しだけ大きい。
名前を呼ばれた。
一呼吸おいて、僕はゆっくりと先輩の方を振り向く。
先輩はマグカップを片手で軽く持ち上げ、こっちを見ていた。
作り笑いではない。
僕にはそれが、何となく分かった。
2017/08/20
シュガースティック → スティックシュガー に修正。
書いてるときから違和感あったんだけど、
最近になって、ようやく分かった。
あー、恥ずかし。




