エピローグ
うー、寒い。今日もよくバイト頑張ったよ俺。
コンビニファイターに正月はない。クリスマス前に連休取って帰っちゃったし、三が日もがっつりバイトで、やっと明日から休みだ……二日だけだけど……
電気を点けて、暖房を付ける。電気代を節約したいところだけど、今日はつけないと死ぬ。さむい。
ぴー、と音がして、エアコンの電源が入る。
ぴー、と音がして、エアコンの電源が切れた。
「おい、いたずらすんな」
ピシッ! と窓が鳴ったあと、音もなくエアコンが動き出した。
あれからきちんと墓参りもして、響の家に行って、言ってたとおりの封筒を見つけて。
……帰ってきてから、怪現象が止まらない。
今みたいなのは初歩の初歩で、時間になると勝手にテレビが恋愛ドラマに変わったりとか、買ってたお菓子が半分なくなってるとか、しまってたはずの漫画が読みかけになってたりとか。
最初は怖かったけど、なんのことはない。
試しにと思って、ガトーショコラとモンブランを買ってきて、無造作に台所に置いてバイトに出た結果。
「わっかりやすいよなぁ、お前も」
モンブランだけが綺麗さっぱり、包み紙を残して消えていた。
ピシピシピシッ!
「うるさい! ああもう、出てこいよ! いるんだろ!」
「すごい、なんでわかったかな」
誰いないはずの部屋に、そんな声が。
「お前ガトーショコラ苦手だったろ?」
「罠! たばかったねかーちゃん! 私はかーちゃんをそんな風に育てた覚えはないよ!」
「育てられた覚えもねえよ! というか人の物を勝手に食うな!」
そして。
まるで最初からいたみたいに。
「やー、ばれたか」
俺の前に響がいて。
「ただいま」
嬉しそうにはにかんだ。
「いやここ、俺の家。お前不法侵入」
「またそういう事言って」
べしべしと俺を叩くけど、相変わらずすかすか透ける。
うん、幽霊だなこいつ。間違いない。つまり生き返ってはないわけで。
「で、どういうことなんだ? 成仏したんじゃなかったのか?」
「うん、それがね。何か向こうのえらい人から守護霊やらないかって言われてね。かーちゃんさあ、これから先の人生、運気最悪みたいなんだよ」
「うわぁ……なんだそれ……」
「だから、せめて結婚するまでは助けてやれって言われてね。かーちゃんと同じ飛行機だったんだけど気づかなかった? あ、おじさんとおばさんが飛行機代出してくれてよかったね!」
「帰れ」
「ひどい! あんなに行くなって言ってくれたのに!」
「なんだよ守護霊って! ずっと一緒にお前と生活かよ!」
「あ、それは大丈夫。通いのお仕事だから基本は9時5時だし、夜は向こうに帰るからね? えっちなことはできないよ?」
「そういうシステムなのかよ! というかおまえ相手にしないわそんなこと!」
うっわあ、墓の前で泣きながらギターとか弾いたの、馬鹿みてえ。
「あ、あの曲もよかったよー。涙をかみしめて演奏する男って感じだったね」
「え、なに、心とか読めるようになったのお前」
「単純ばかなかーちゃんのことだからわかるよ。あと、相変わらず人間には触れないけど、かーちゃんの物にだけは触って良い許可証ももらったよ」
「役所でもあるのか、死んだら……」
「まあまあ、それはゆっくり話してあげる。それよりね」
「ん?」
「また聴きたいな、かーちゃんのギター」
俺のギターのネックを掴んで、こっちに差し出してくる響。
「いや、この時間からは近所迷惑」
「もー、またそんなこと言って。ほら、一緒に歌おうよ、あの曲」
「例の三曲目か? お前、あんな良い曲なのにあんなタイトル付けて。何考えてるんだよ」
「えー、いい曲名じゃない」
「ふんふーんって感じだろ? ひらがななのが間抜けさ倍増しだよな」
「そっちじゃない!」
「ほらほら、ここ本当に壁薄いんだから、小さな声でな。一曲だけだぞ?」
「うん!」
それは、応援歌。
響が生きた確かな証で、これから生きる人に元気をくれる、そんな曲。
小さく小さく、けど確かな音が鳴るように、ギターの弦をつまびく。
これから音楽でやっていけるかなんてわからないし、どうなるかはわからない。
響ともいつまで一緒にいられるかはわからないんだけど、それでも。
この曲と、この歌詞と。
「春が来たらね 種を植えよう――」
響の歌を忘れないで、頑張るから、な。
しめっぽいのよりは、あほみたいなハッピーエンドにしたかったんです…!
切ない終わり方は他の方にお任せするとして…