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はなうた  作者: くろばね
5/7

5.

 さっすが親父。ギターの手入れもチューニングも欠かしてないなぁ。

 というかこれはあれだな、さっきまで弾いてた感じだな。近所迷惑考えろ。

 ぺんぺんと音を鳴らして、チューニング不要なことを確認する。

 商店街を通る人がちらちらと、不思議そうに俺を見ていくのがわかる。

 そりゃまあ、こんな場所じゃストリートライブするやつなんていないだろうし。


 帰ってきて、響と出会った駅前。ちょうど商店街の中心で。

 俺はギターを担いで立っていた。


 響、お前、俺のギターが聞きたいって言ってたんだろ?

 だったらいくらでも、お前が嫌って言うまで弾き続けてやるから。

 歌だってお前にはかなわないけど、それでも練習したんだぞ?

 この三年の成果、情けないかもしれないけど、全部聞かせてやるから。

 だから、頼む。

 もう一回、俺の前に出て来てくれよ。


 ふう、と深呼吸。吐く息が白い。

 ええと、どうしようかな。まずは響が好きだった曲から……

 曲を決めて、もう一度深呼吸。

 絶対に響を見逃さないように、前を見て。


「おー! やるっぽい雰囲気! かーちゃんファイト! がんばれー!」


 そんな声が聞こえてきたら、絶対に聞き逃さないから。


「いやー、地元に帰って凱旋ライブだね! これは聴き逃せないね!」


 って。


「……はい?」


 普通に聞こえたぞ、今。


「え? あれ? ストリートライブとかじゃないの? 今から商店街を熱狂の渦に巻き込んでやるぜイエー! モッシュ! ダイブ! 飛び交う生肉! みたいなそういう」

「……響?」

「うん」


 めっちゃ目の前にいるんだけど、響。それもなんだ、超わくわくしてる感じの、きらっきらした目で。


「響だよな?」

「そうだよ?」


 うん、響だな。その赤いマフラーに茶色いコートにあほづら。間違いない、響だ。


「ってお前なあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

「わああああああああああああ!????????」


 道を行く人がびっくりしてこっちに注目する。

 ボイトレもしとくもんだなぁ。すごい声が出たぞ……


「おま、お前なあ!」

「わあ! ちょっとかーちゃん落ち着いて! 暴力反対! ノーモア!」

「いい! ちょっと来いお前! こっちこい!」


 むんずと襟元に手を伸ばす。


「あ! それだめ!」


 けど、俺のその手は、見事に響をすり抜けた。


「……つまりあれか、幽霊か」

「さすがかーちゃん、察しが早くて助かるね」

「死んだの?」

「いやー、私としてはいつもみたいに寝て、いつもみたいに起きるつもりだったんだけどね。なんか気がついたら」

「死ぬって超軽いのな。いいのかそれで」

「まあ、考えすぎても寿命縮まりそうだし」

「いやもう寿命ゼロだろ」

「そうだよ、寿命ゼロの幽霊って大変なんだよ? 物には触れないし、ほとんどの人には見えないし聞こえないし、たまに聞こえるか見えるかする人がいても相手してくれないし、幽霊になっても霊感がなかったら幽霊は見えないらしいから、基本ずっと一人だし」

「幽霊も霊感が必要なのか。すごいな」

「だからかーちゃんが私を見つけてくれて、声までかけてくれたんだもん、びっくりしちゃったね、ほんと」

「俺って霊感とかないんだけどな」

「あー、実は私に恋してて、愛の力とか?」

「それはない」

「早いよ」


 うーん、これが幽霊か。

 すり抜けてしまった手前納得するしかないけど、別に透けてないし、足あるし、普通に響だし、全然納得できん。

 何より本人がこんなんだ。もっと悲壮感とかないのかよ。


「って、ほらほらかーちゃん、見なよ。なんだかみんなが注目してるよ?」


 言われて通りのほうを見る。

 思いっきり叫んだからかと思ったけど。


「たぶん私、かーちゃん以外には見えてないからね。一人でぶつぶつ言ってる変な人だよ。通報されるよ」


 あー、だからなんか遠巻きに見られてるのな……


「ごめんね、さっきは急にいなくなってびっくりしたでしょ。けど、そういうことだから。先生には私が見えないし、話がこじれちゃうじゃん」

「いや、お前が消えたから思いっきりこじれたんだけどな、話」

「まあまあ! ほら、弾いてよ、ギター。そのために来たんでしょ?」

「うーん、でもなぁ」


 というか、響を探すために来たんだから、ここで弾く必要はなくなったんだけども。

「聞きたいな、かーちゃんのギター」


 そう言われたら、なあ。


「……下手でも笑うなよ?」

「下手だったら笑うよ、そりゃあ」

「お前なぁ。うっし、じゃあそこで聴いとけ!」

「うん!」


 べん! と、景気づけに弦を弾く。

 通りがかる人は、やっぱり不思議そうに見るだけで、誰も立ち止まろうとはしないけれど。

 どんな場所でやるよりも、上手く演奏できる気がする。


「じゃあ、一曲目!」

「がんばれー!」


 こんなに楽しそうな響の顔が、すぐそこに見えてるんだから。

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