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はなうた  作者: くろばね
4/7

4.

 久々に帰ってきた家も、やっぱり何も変わってはいなかった。

 なんだかんだで気を遣ってくれたのか、単に面倒くさかったのか。

 そのまま残ってた俺の部屋で寝転がって、ぼーっと天井を見る。

 先生と別れて、何を馬鹿なことをって、響の家に行ってみたけれど。


『来てくれてありがとう。連絡するなって、本当にそればかり言われてたけど、響も喜ぶと思うから』


 そんな、おばさんの言葉が全てだった。

 きれいに飾り付けられた台の上で、写真の中の響は笑ってて。

 けど、おばさんは頬がこけるくらいにやつれていて。

 治療は大変だったけど、最期は全然苦しまなかったらしい。

 いつもみたいに寝ぼけたまま、起きるのを忘れたんじゃないかって、そうおばさんは笑ってた。

 つまり、なんだ。

 俺が一緒にいたと思ってた響は、妄想かなんかだったのかな。

 駅で降りて、誰か知り合いに出会って、響が死んだって聞いて。

 信じたくなくて、それで、一緒にいると思い込んだ、とか。


 こんこん。


「入るぞ?」

「返事の前に入ってくるなよ……」


 首だけを親父のほうに向ける。

 親父の言ってた大事な話っていうのも、やっぱり響のことだった。

 それを聞いてすぐに部屋に戻ったから、心配して来てくれたんだろう。


「そういえばお前、向こうで酒は飲んでるのか?」


 ……いや、単に口実が欲しかっただけだな、これは。

 起き上がって親父のくれた缶ビールの栓を開ける。


「響ちゃん、残念だったな」

「まあな」

「入院中もよくお見舞いに行ってたんだけど、お前には知らせるなってそればっかりでな。嫌われるようなことでもしたんだろ」

「してねえよ」

「帰ってくる頃には元気になって、お前のギターが聞きたいって。よく言ってたよ」


 そう言って親父がビールをあおる。

 ギターが聞きたい、か。

 響に聞かせられるような演奏、できるかな。

 あいつに胸張れるような、ちゃんとした生き方、できてたかな。


「ギターと言えばな、そこに新しく高校ができたんだけど」

「知ってる。うちの姉妹校で、そこの学祭に出たんだろ?」

「あれ、知ってたのか。誰に聞いたんだよ」

「誰って、ひび」


 はっとする。


「親父、その学校って、できたの今年だよな? で、学祭はうちの高校と共同で」

「お、おう。どうした突然」

「学祭の時、犬いなかったか? でかくて真っ白な」

「おう、猫と一緒に入り口に繋がれてたぞ」

「商店街のよく行ってたケーキ屋のバイトのお姉さんさあ、結婚したんだって?」

「お前が出て行ってすぐくらいだな。近所でも話題になって……って、この辺の話、友達にでも聞いてたのか? えらい詳しいな」


 そりゃそうだ。ここに来てすぐ、その話を聞いたんだから。


「今日の朝、ランニングしてたよな」

「会社でメタボって言われたからなって、それこそなんでお前が知ってるんだよ」


 さっきは響のこと、妄想じゃないかなんて思ったけど。

 俺の知るはずのないことを教えてくれたのは、誰でもない響なわけで。

 響が俺の妄想なら、俺の知らないことを知ってるはずがないだろう。

 つまり。

 幽霊なのか妖怪なのか、なにかまあ、わからないけど。

 いる。

 響は、確かにどこかに、いる。


「親父! ギター貸してくれっ!」

「どうしたんだ、急に。楽器の貸し借りはしないって約束だったろ?」

「頼む!」


 頭を下げる。


「……壊すなよ?」

「壊すか! ありがとう! あと俺ちょっと出てくるから!」


 ぽかんとしてる親父をよそに、上着を着て、親父の部屋に向かう。

 ギターをひったくって。靴を履いて。

 待ってろよ、響。

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