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1-8

 私がクレアに決闘を申し込んだということは瞬く間に学校中に知れ渡った。

最弱の私が、最強のクレアに挑むというのだから、話題性は抜群だろう。

そして、意外なことにミリアは私がクレアに挑戦すると言っても、特に反対はしなかった。


「リナリス、やるからには勝ちなさいよ」

「もちろんです。まぁ見ててください、みんなをあっと言わせてやりますから」


 そう胸をはる私に、ミリアは困ったように笑いながら頭を撫でてくる。

このやろう、私より身長が高いことを暗に自慢しているのだろうか。


「無茶は……しないと勝てないわよね。それでも、きをつけて」

「ありがとう、ミリアには感謝してますよ。それじゃあ、行ってきます」


 ミリアに別れをつげ、クレアの待つ訓練場へと向かう。

そこにはすでに話をききつけた学校の生徒達と、なぜか先生達まで集まっていた。

集まった人だかりをかき分け、私は訓練場の真ん中で待ち構えるクレアの前へと歩み出る。


「ありがとうございますクレア。私の挑戦を受けてくれて」

「……そろそろ来ると思ってたから」


 私たちはお互いに、魔法使いの正装であるマントと魔女の帽子を身につけ向かい合う。


「勝負はどちらかが気絶するか、負けを認めるまで。命の危険があると判断したら止めに入るのでそのことを心得るように。それでは始め!」


 審判役の先生が、試合の開始を宣言する。


 と、私はすぐに足元の石を拾い上げてクレアへと投げつけた。


「「「!?」」」

「アースウォール」


 周りから驚きの声が上がり、クレアも呆れたようにため息をついている。

石は土でつくられた壁に防がれ、コロコロと地面を転がる。


「一応、何がしたかったのか聞いてもいい?」

「自慢じゃないですけど私には魔法での攻撃手段がないですからね! 投擲も立派な攻撃です」


 そう言いながら、私はもう一度石を拾ってクレアへと走り出した。


「悪いけど、お遊びにつきあってあげる気はない。フレイムアロー」


 クレアが魔法を打ち出してくるが、精霊の眼で先読みができる私はそれを難なくかわす。


「リナリス、残念だけど私はあなたをこの学校の中で一番理解している自信がある」


 なにを、と言いかけたがクレアから溢れ出た魔力量の多さに、思わず口を閉じた。


「もちろん、あなたの干渉だって知っている。メテオシャワー」

「いきなり上級魔法……!」


 放たれた膨大な魔力は強力な魔法へと紡ぎあげられ、幾つもの火の玉が雨のように私へと降り注ぐ。

瞬時に避けきれないことを理解した私は、手に持った石を捨て一番弾幕が薄い場所めがけて走った。


「ぐうっ……!」


 直撃寸前に、左手を突き出し魔法に干渉する。

その威力を大幅に減らし、弾幕から逃れることには成功したが、左手は干渉の余波で焼け、激痛を放っていた。


「その干渉能力は確かに魔法使いにとっては脅威。もし知らなければ一回くらいは負けていたかもしれない」


 そういいながらクレアは次の魔法を紡ぎ出す。

本来、上級魔法なんて学生が使えるものではなく、使えたとしても切り札となるようなものだ。

だがこの天才は汗ひとつかかず、再び上級魔法を繰り出してきた。


「エクスプロージョン」


 干渉するよりはやく、私の手が届く前に、魔法による爆発が引き起こされる。

距離が離れていたため直撃はしなかったが、爆風に煽られ私は地面に叩きつけられた。


「げほっ……」


 口の中に酸っぱいものが溢れてくる。

吐きそうになるのを必死にこらえて、ボロボロになりながら立ち上がった。


「私の魔法を暴走させるには、魔法を放つ前に干渉しなければいけない。それなら、そもそも近づかせなければいいだけ」


 クレアの言う通り、近づくことができなければ干渉によるダメージは与えられない。

今のように、私が魔法に触れる前に強制発動されてしまえば、干渉で軽減することすら許されない。


 一方的な展開に、周囲の生徒からは悲痛と嘲りの声があがる。

今の私は非常に無様に見えるだろう。

皆の憧れであるクレアに、実力差もわきまえず喧嘩を売り、挙句触れることすらできず一方的に嬲られてるのだから。


「知ってますかクレア。物語の主人公というのは逆境においてこそ本当の力を発揮するのです」


 ボロボロになりながらも未だ立ち向かってくる私に、クレアは訝しげな表情をする。


「あなたは主人公にはなれないよ。……もう諦めて、私はこれ以上あなたを傷つけたくない」

「もちろん、そんなお願いは聞き入れられません」


 再び精霊の眼による先読みを駆使し、全力でクレアとの距離をつめる。

襲いかかってくる魔法を何度も打ち消し、どんどん傷だらけになっていくが構いはしない。


「ゴリ押しで勝てるほど、私は甘い相手じゃないよ」


 あと少しで手が届く、といったところでクレアの魔法が炸裂する。

眼を使っても避けきれないほど高速に展開された魔法をもろにくらい、私は再び吹き飛ばされた。


「はぁ……はぁ……」


 激痛に顔をしかめ、思わず私はうずくまる。

クレアは、もう勝負はついたとばかりに身を翻した。


「本当、あなたは最高ですよ。……こんな私相手にここまで本気で戦ってくれるんですから」


 おそらく、誰の目にも勝敗は明らかだろう。

だけど、この眼をもつ私にだけはまったく別の光景が写っていた。


「おかげで、勝機ができました」


ふらつく足で立ち上がった私に、クレアは止めを刺そうともう一度振り返る。


「集え、フラグメント」


けれど今日初めて、その目が驚愕で見開かれた。


「私が、何もせず今日まで過ごしてきたと思いましたか?」


 私の眼は、強力な魔法が何度も行使されたことによって場内に溢れかえった魔力が、私の魔力の断片によって完全に支配下に置かれたことを映し出していた。


「私の眼は魔力を観測できる。そして観測ができるなら干渉だってできる」


 焦りの表情をみせたクレアが、杖を向け詠唱を始める。

だがもう遅い、私の準備は整った。


「干渉ができるなら、……制御だって出来るんです」


 フラグメントは、正確には私の魔力の断片を魔法に対して埋め込み、それによって魔力の制御をのっとる魔法だ。

だから私は、死に物狂いで他人が放った魔法の残滓、使い終わった魔力そのものに対して制御を行う訓練をしてきた。


「あなたの魔力、使わせてもらいますよ」


 魔力の断片によって支配された膨大な量の魔力が、私の周りを渦巻いていく。


「いままで攻撃を受け続けたのは、私に魔力を吐き出させるため……!」


 妨害が間に合わないと悟ったクレアは詠唱をやめ、代わりにもっと強力な魔法を紡ぎ始める。

その顔を、楽しそうに歪めながら。


「やっぱり、リナリスは凄い。……だから、私の本気でこの勝負に決着をつけてあげる」

「受けて立ってあげます!」


 戦いを見守っていた観客たちは、声も出せずに目の前の異常な光景を見守っていた。

最弱の魔法使いである私が、初級魔法すら扱えなかった私が、最上級の魔法を紡ぎあげていく姿を。

幾つもの魔法陣が展開され、強大な力を生み出していく。

クレアも、すでに上級魔法を何度か使ったにも関わらず、同等クラスの魔法を紡ぎ始めた。

まったく、天才なんて可愛らしいものじゃない、あれはもはや化け物の域に達している。


 だけど、いまの私はそんなクレアにすら負ける気はしなかった。


「いくよ」


 クレアの声を合図とし、私たちはお互いに全力の魔法を撃ち放つ。


「マナバースト!」

「スーパーノヴァ」


 膨大な魔力がぶつかり合い、爆音と爆風が吹き荒れ、私たちの視界は真っ白に染め上げられた。





 コツコツと、魔法によってどこもかしこも荒らしつくされた訓練場に、足音が響き渡る。


「私の、勝ちだね」


 その声は、魔力を使い果たし、もはや立ち上がることすらできない私の頭上からかけられた。


「……これだけやっても、まだ届かないのですか」


 視界がぐにゃりと歪む。

知らずと、涙が流れていたようだ。


「そんなことない、十分届いたよ」


 そういうクレアの右腕は、私の魔法を受けきれなかったのか、ぼろぼろに傷ついていた。


「泣かないのリナリス。私はいつだって、あなたを待っているから」


 クレアは自分の帽子をとり、吹き飛んだ私の帽子の代わりに頭にかぶせる。


「二人で目指すんでしょ? 最強の魔法使いを」


 かつての約束を、クレアはもう一度口にした。

それを聞いて私は嗚咽を堪えながら、こくりと頷く。


「次は必ず勝ちます。……精々、それまで怯えて暮らすことです」


相変わらず憎まれ口しかたたけない私に、それでもクレアは。


「楽しみに待ってる」


そう言って笑いかけた。

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