1-7
クレア・バチェットは私の幼なじみだ。
魔法使いの名家であるうちには、よく他家の人たちが訪ねてきていた。
クレアはそんな家の一つであるバチェット家の息女で、私と同い年だからという理由でよく一緒に遊んでいた。
彼女は随分と気弱な子で、いつも私のうしろにくっついていた覚えがある。
あの頃から無駄に自信だけあった私は、よくクレアを連れ出して冒険ゴッコなどをしていた。
今思えば、あの頃が一番楽しかったように思う。
だが、そんな幸せな日々も、私が欠陥持ちだという事がわかってからは音をたてて崩れていった。
周りの大人は露骨に私への態度を変え、それはその家の子供にも伝わり、徐々に私の周りからは人がいなくなっていった。
けれどクレアだけは、何を言われようとも私の元から離れる事はなかった。
そしてそんなクレアが、一人ぼっちになった私の心の支えだった。
でも、現実は残酷で。
クレアには、皆が羨むほどの才能が眠っていた。
更に不幸だったのは、クレアも私も同世代の子供に比べて頭が良かったことだろう。
クレアは正しく、自分の存在が私に与える影響を理解してしまった。
大人たちはクレアを褒め称え、その代わりとでも言うように私をこけおろす。
自分がそばにいればいるほど私が傷つけられると思ったクレアは、ついに私から距離をとってしまう。
そして、私もその事を理解してしまい、離れていくクレアの手を離してしまった。
それ以降、彼女は稀代の天才として、一人その才能を開花させていった。
周囲の期待に応え、その重圧に小さな肩一つで、誰にも頼らず耐え続けながら。
あの泣き虫が、一度も涙すら見せずに。
誰よりも寂しがり屋だったあの子が、たった一人で。
そんな彼女を見てきたからこそ、私は夢を諦められない。
どれだけ彼女の才能に打ちのめされようと、周りの人々に嘲られようと私は上を目指し続ける。
そして、もう一度彼女の隣に立つのだ。
そこまでしてようやく私は自分の夢のスタートラインに立てる。
世界最強の魔法使いになるという、幼い頃二人で夢見た未来を目指すために。
ミリアからクレアが学校を卒業してしまうという話を聞いた私は、少し考えたいと言って一人家へと戻った。
彼女は何か言いたそうな顔をしていたが、私を気遣ってか何も言ってきはしなかった。
少々腹が立つこともあるが、基本的にミリアは良い子だと思う。
「……卒業されたら、きっともっと遠くへ行ってしまうでしょうね」
本当は、自分とクレアが卒業するときに勝負を挑もうと思っていた。
だけどこうなってしまっては仕方がない。
今更引き下がるなんていう選択肢は私にはないのだ。
今この機会を逃せば、本当にクレアに手が届かなくなってしまう。
私は確信を持ってそう思えた。
「待っていてくださいクレア。今、もう一度あなたの隣までいきますから」
勝算はないわけじゃない。
今まで散々馬鹿にされてきた私だが、それでも血がにじむような努力をしてここまできたのだ。
「さぁ、見せてあげましょう。出来損ないの意地というやつを」
負けるためではなく、勝って先に進むためにクレアに勝負を挑もう。
きっとミリアは反対するだろうけれど。
今まであの子が、クレアが卒業するかもしれないということを黙っていたのは、きっと私が馬鹿な気を起こさないようにだ。
魔力の少ない私が彼女に喧嘩をうれば、ただでは済まない。
「ミリアには、全部終わったらご飯でもおごってあげましょうかね」
あの無駄にお人好しの、私の大事な友人はきっと今も心配してくれているだろう。
そして、これからもっと心配をかけてしまうことになる。
けれどもう覚悟は決まった。
全てを一人で背負い込めると思いあがっている馬鹿な幼馴染の横っ面をひっぱたいてやるのだ。
「さぁ覚悟していなさいクレア。その高く伸びた傲慢な鼻を、私がへし折ってあげます」




