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1-6

「帰りたいなぁ……」


 ざわざわと浮ついた雰囲気が蔓延するクラスメイトたちをみて、思わずはぁとため息がでる。


「露骨に嫌そうな顔をしてるわね、そんなに実習が嫌?」

「嫌にきまっているでしょう。何が悲しくて周りと自分を比べて悲壮感を味あわなければいけないんですか」


 この学校の生徒は大体皆魔法を使うのが好きだ。

だから実習の授業は普通、皆楽しみにしている。

もちろん魔法がろくに使えない私は、普通のカテゴリに入らないので実習は嫌いだ。


「まぁ今日は実習といってもメインは制御だから。魔力量の少ないリナリスでもいつもよりはちゃんと出来るんじゃない?」

「そうですね、制御ならまぁ……」


 自慢じゃないが魔法の制御には相当自信がある。

というか、魔力量がすくなすぎてやれる修行がそれしかなかったから、制御の練習ばっかりしていたというのが正しい。


 授業をはじめるぞーという先生の言葉とともに、皆が席に着く。

先生が一通り魔法の制御に関する振り返りと、実習における目標を手短に話し終えると、皆一斉に魔法を唱えて実習を始めた。

今日の目標は制御が難しい炎の魔法を、うまく球状の形に保つということらしい。


「ねぇみてみてリナリス! きれいにできたと思わない?」


 ミリアが手のひらに生み出した炎を、漏れることなく見事な球状に仕上げて私へと自慢げにみせてきた。


「うまいですね、さすが学年2位」

「その呼ばれ方ちょっと癪に触るんだけど。というかリナリスはやらないの?」

「これくらいは余裕ですからね」


 私は片手で炎の塊を生み出し、そのまま丸くする。

それだけでは終わらず、粘土のようにこねくり回して四角くしてみたりした。


「んー、さすがに四角は難しいですか」


 炎は少しの間形を保っていたが、すぐに崩れてしまう。


「あ、あなたそれ……」


 ミリアはよっぽど驚いたのか、私の方を指差してあわあわしていた。


「ふふん、あなた達と違って私はこればっかり練習してましたからね!」

 

 自分で言ってて虚しくなってきたが、珍しくミリアが悔しそうにしているので気にしないことにした。


「はぁ、リナリスは魔力さえあれば本当にクレアすら敵わないような魔法使いになっていたかもしれないわね」

「その言い方だとこの先も敵わないみたいなのでやめてください」


 今の魔法でだいぶ魔力を消費したため、また周りの生徒をぼーっと観察し始める。

ミリアも私に触発されたのか、どうにか四角くしようと炎をこねくり回していた。


「ん、あれはまずいですね」


 私の少し先に座っているクラスメイトは、どうやら制御にうまくいっていないようで、変に力をこめてしまったのか今にも暴発しそうに火の玉の表面が波打っている。


「フラグメント」


 その子の火球に対して、私は残っていた魔力を使い魔法を打ち込んだ。

魔法の制御を乗っ取り、暴発しないように魔力の流れを落ち着かせる。


「ふう、こんなものですか」


 クラスメイトはなんとか暴走が収まった自分の火球をみて、安堵のため息をついていた。

それを見届けてから、私は魔法を解除し、何事もなかったかのように周りを観察する作業に戻る。

魔力の流れを読める私ならともかく、他の人からは私が魔法を発動させたことすらわからないだろう。


「ねぇリナリス、ちょっといいかしら」


 だからきっと、私の方をガン見しているミリアの視線も気のせいのはずだ。




「リナリス、少し話をしましょうか」

「誤解です」

「まだ何も言ってないんだけど」


 強引にミリアに廊下へ引っ張り出され、壁際まで追い詰められる。

先生も勝手に生徒が教室からでてるんだから注意くらいして欲しい。


「あなた、あの子に何をやったの」

「……ちょっとばかり魔法の制御を乗っ取っただけですよ」


 ぼそりと呟いた私に、ミリアは驚きの声を上げる。


「私だってクレアを倒すために日々いろいろ努力をしているということです」

「努力って、あなた自分がどれだけとんでもない事を言っているかわかっているの!?」

 

 ミリアは随分とおおげさな反応をしているが、別に大したことはしていない。

制御魔法フラグメント。

私唯一のオリジナル魔法であり、欠陥魔法使いの私にふさわしい欠陥魔法だ。

効果はいたって単純、他人の魔法の制御を乗っ取るというものだが、制御しきるのに時間がかかり、大抵は乗っ取る前に発動されるのであまり意味はない。

有効活用できる場面と言ったら、さきほどのように魔法がずっと固定されているとき等だが、そんな場面滅多にないだろう。

だから結局、制御を乗っ取りたいならゼロ距離で触った方が早いという結論に達し、今まで封印していた魔法だ。


「そう、何も教える気はないということね」


 私が何も言えずに黙っていると、ミリアはひとりで勝手に何かを理解したようで、私から一歩距離を置く。


「あなた、本気でクレアに挑むつもりなの?」


 何度目かわからないその問いに、いつも通り真面目な顔でこくりと頷き返した。

私の答えに、ミリアは少しだけ迷うような表情を見せた後、何かを決心したように口を開く。


「それなら、リナリスに伝えておかないといけないことがあるわ」


 いつになく真剣な顔で、ミリアは私にとって衝撃な言葉を口にした。


「クレア、飛び級での卒業が認められたそうよ」


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