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「偵察だけといっても、結局巣穴周辺には近づかないといけないのが難点ですよね」
「そうだな。まぁリナリスの眼のおかげで今のところは戦闘を避けられてるし、なんとかなるんじゃないか?」
ギルドに報告のあった巣穴付近まで来た私たちは、危険のないよう巣穴の周辺を注意深く探っていた。
「あ、前から接近してくるのがいるので隠れてください」
「了解」
近づいてくる魔力を感知して、物陰に身を隠す。
「魔法は使えなくても、その眼だけで場所によっては重宝されそうだな」
「……まぁそうですね。ただ、あくまで私は最強の魔法使いを目指しているので、偵察担当なんかに収まる気はないのです。さ、先に進みましょうか」
巣穴の中に入っているわけではないため、うろついてるのは数匹のコボルトだけだ。
コボルトに遭遇した地点を記録しながら、ぐるりと巣穴周りを一周する。
「こんなもんですか、思ったよりも楽勝でしたね」
「あとはこれをギルドに報告すれば終わりか」
だがことはそう簡単には運ばなかった。
私たちの背後で、轟音と地響きが鳴り響く。
「な、なんだ!?」
驚いてユウマが巣穴の方に振り向くが、視認できる距離には何もない。
「巣穴の奥、ですかね?」
と、そのときコボルトの巣穴のなかから大量の魔力が吹き出すのを私の眼がとらえた。
「なんかまずい気がしますよこれ!!」
「なぁリナリス、お前不運の神にでも好かれてるんじゃないのか!?」
「私のせいにしないでください! 運が悪いのはあなたですよ!」
そうこうしているうちに、大きなミミズのようなモンスターが巣穴をぶちやぶって地上へと姿を表す。
「サンドワームですか、また厄介な」
「うげぇ、何あれ気持ち悪っ」
サンドワームの姿を見て眉をしかめているユウマはさておき、相手との相性の悪さに内心とても焦っていた。
サンドワームは魔法に対する耐性がたかく、そもそも攻撃手段に魔法を使わない。
この間のような裏技は今回はきかないだろう。
「……なぁ、あいつなんか様子がおかしくないか」
「ちょっと今考え事してるので黙っててくだ……え?」
そう言われて改めてサンドワームをみてみると、確かにまるで何かに怯えているようだった。
その直後、ふたたび巣穴から魔力が溢れ出した。
その魔力は巨大な火球へと姿を変え、サンドワームの背中を焼く。
「……あれは」
私はその魔法に見覚えがあった。
見間違えるはずもない、その魔法は物心ついたときから羨望と嫉妬の対象として私がずっとみてきたものなのだから。
「す、すげぇ。なんだあれ」
巨大なサンドワームを次々に火球が火あぶりにし、一方的になぶっていく。
それから逃れるようにサンドワームは必死に地面を這いずり回る。
そして、一人の少女が悠然と姿を現した。
溢れんばかりの火の粉で身を包み、まるで炎の衣をまとうかのようなその魔法使いは、圧倒的な魔力を携えサンドワームの前に立ちはだかる。
少女が一度杖を振るうたびに爆音が鳴り響き、サンドワームの体が焦げ付いていく。
魔法耐性の高さなんてものともせずに、反撃すら許さない一方的な暴力がふるわれていた。
「なんなんだあの子!? リナリスと同じくらいの女の子にみえるけど」
「……彼女はクレア。私の幼なじみですよ」
私は目の前で見せつけられている力を前に、無意識に唇を噛んでいた。
じわりと口のなかに鉄の味が広がっていく。
サンドワームはもはや逃げられないと悟ったのか、体を反転させ一矢報わんとばかりにクレアへとその巨体でつっこんでいく。
しかしクレアは慌てることなく、眼前に杖を突き出し、サンドワームの巨大な上半身を魔法で象られた炎の槍で貫いた。
その衝撃で後方に押し戻されたため、サンドーワムの攻撃がクレアに届くことはなく、ついにその巨体は地響きを立てながら地面へと倒れ込んだ。
「……そういえば、今日はクレアも依頼を受けてるんでしたね」
おそらく、彼女は別の依頼でサンドワーム退治を請け負って行ったのだろう。
呆然とクレアの姿を眺めているユウマに背を向け、私は街の方へ歩き出す。
「私は帰ります。ギルドへの報告はお願いしますね。もっとも、あれだけ暴れられるともうあんまり意味がないかもしれませんが」
「お、おいちょっとま……」
ユウマが私に声をかけようとするが、途中でその口を閉じる。
「それではまた。今日は付き合ってくれてありがとうございました」
毅然と、それでも隠しきれない嗚咽を混じらせながら、私はユウマに別れを告げた。
私だって年頃の女の子だ。
泣き顔、それも悔しさで歪んだ顔なんて、人に見せたい物じゃない。
ずっとあんなに近くにいたのに、いつのまにか遠くに感じるようになってしまった幼なじみの姿に、心がかき乱される。
そして、才能という越えられない壁をつきつけられ、普段の虚勢が打ち崩されていく。
「彼女の魔法なんて学校でいつも見てるはずなんですけどね、どうして今日に限ってこんな気持ちになるのでしょうか」
もしかしたら、ギルドで取り残されていた事も少し関係しているのかもしれない。
一人では何もできず、誰にも必要とされない私と違って、クレアは誰の力も借りずとも、あんな強敵相手に立ち回れる。
その覆せない差をこれでもかというほどつきつけられてしまったからだろうか。
心の底から悔しさが溢れかえる。
「らしくもない。なにがあっても諦めないと決めたじゃないですか」
止まらない涙をごしごしと袖で拭い、これ以上涙が溢れて来ないように上を向く。
「さて、帰ったら修行ですね!」
私の魔力でできることなんてたかが知れている。
それでもいつか、天才とよばれる幼なじみに追いつくため、そして彼女を越えるため。
もう何度目かもわからない決意を自分自身へと誓った。




