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「ねぇねぇ、リナリス聞いた? ついに本物の勇者が降臨したって話」


 翌日、学校は勇者降臨の話題でもちきりだった。

あのモヤシ、本当に勇者だったのか。


「聞いてますよ。これで勇者詐欺するやからもいなくなってこの街に平和が訪れますね」

「ある意味一番問題だったからね……。ってそこじゃないでしょう」

「だって仕方ないじゃないですか。勇者って言ったっておとぎ話の魔王のような倒さなきゃいけない脅威がいるわけじゃないんですよ?」


 ユウマが言うにはこの世界を救ってほしいと女神とやらが言っていたらしいが一体なにから救うというのだろう。


「それは……。でも、本来この辺りにいるはずのないヘルハウンドが勇者の手で倒されたらしいし、もしかしたら何か起こってるのかもしれないじゃない」


 この子はもしかして勇者や魔王の冒険譚に憧れを抱いていたりするのだろうか。

真面目で現実的な子だと思っていたので意外だった。


「たまたまだと思いますけどね。まぁ魔王がいるというなら私もそのうち挑みに行かないといけませんが、最強を目指すものとして」

「やめなさいって。魔王より先にあなたは追試のモンスター倒さないといけないでしょ」


 余計なことを言ってくるミリアの首をぎりぎりと締めていると、何の用かクレアが私の方へ近づいてきた。


「……なんですかクレア」

「ちょっと、首から手を離してから喋って! 苦しい!」


 ぱしぱしと手首を叩いて抗議をしてくるミリアの首から手を離し、クレアの方へと向き直る。


「ヘルハウンドが倒されたって話は知ってる?」

「今聞いたところですよ。それが何か?」


 クレアはその質問には答えず、包帯が巻かれた右手を見つめた。


「ヘルハウンドの死体は、まるで魔法が暴発したみたいだったらしい」


 その言葉に思わず眉をひそめる。

まさかこいつ。


「……あまり、無茶はしちゃダメよ?」


 それだけ言うとクレアはさっさと自分の席へと戻っていった。


「……? なにを話したかったのかしら?」

「さぁ、相変わらずコミュニケーションがとれない子ですね」


 クレアはどうやら、ヘルハウンドを倒したのが私だと気が付いているらしい。

あの幼馴染は、私の眼で何ができるかを私の次に一番よく知っているため、今回の件も何があったか理解しているようだ。

言いふらす気はないようだが、なんでも知ってるとでも言いたげなクレアになんとなく腹がたつ。


「で、話を戻すけれどあなた追試まだなんでしょう。私が手伝ってあげましょうか」

「……あの、前から疑問だったんですけど、ミリアは何でそんなに私に構うのですか? よっぽど暇なのか、もしくは友達が他にいないんですか」


 私の質問にミリアは顔を真っ赤にして掴みかかってくる。


「違うわよ! やらないといけないことはいっぱいあるわ! 友達は……! 別に、いなくても卒業はできるし……」

「友達、いないんですね……」


 可哀想なものを見る気持ちで私はミリアの頭をよしよしと撫でた。

ミリアはその手をぱしりと払いのけ涙目で私を睨む。


「そういうことならお願いしましょうかね。追試はグリーンスライムの討伐ですけど、街の外にでないといけないのでついてきていただけると心強いです」

 

 私がそういうと、ミリアはちょっとだけ嬉しそうに笑って、わかったわ! と無い胸を張った。

 



「ファイア!」

「……わかってはいたけど、あなたの魔法本当にしょぼいわね」


 ミリアがとんでもなく失礼なことを言ってくるが、自分でもしょぼいと思うのであまり否定できない。

私の手のひらには、魔法ので生み出されたミカンくらいの大きさの小さな火の球がふわふわとういていた。


「う、うるさいですね。私は大器晩成型なので、これから成長するんです」


 そう言いながら、私は目の前のスライムに炎の球を投げつける。

ジュッっと音がしてスライムが炎に包まれるが、すぐに火は消えスライムはなんともなさそうにこちらへ向かってきた。


「スライム一匹たおせないのね。……大丈夫、あなたは大器晩成なんですもんね」

「可哀想なものを見る目をやめてください! ファイア! ファイア! ファイア!」


 三連続で火の玉をなげつけ、なんとかスライムを倒す。

だがそれだけで私の魔力は底をつき、ぜいぜいと荒い息を吐いてしまう。


「ファイア」


 そんな私の隣で、見てるだけでは飽きたのかミリアが発火魔法を使い近くにいたスライムを焼く。

その炎の勢いは私の倍以上あり、スライムは一撃で跡形もなく蒸発した。

それを見てミリアはちょっとだけ口元を綻ばせる。


「なんですか? 自慢ですか? そういう意地の悪いことばかりしているから友達ができないんですよ」

「ち、ちがっ……! あと友達は関係ないでしょう!?」

「わかりました、私が悪かったですから魔法を詠唱するのはやめてください」


 雷撃魔法を打とうとしてくるミリアを宥め、私は重い体を引きずって立ち上がった。


「さぁ、討伐は終わりましたし帰りましょうか」

「もう帰るの? せっかくここまで来たんだし魔法の練習してきましょうよ」


 そんなことをのたまうミリアに、私は左右に首をふる。


「さっきので魔力が尽きました。もう一発も魔法うてません」

「本当なんであなた魔法学校にいるの?」


 呆れ顔のミリアがしょうがないわねと言って街の方へと歩き出す。


「なんでそんな魔力しか持ってないのに最強の魔法使いなんて目指しているのよ」


 なぜと言われれば、理由はいろいろあっただろう。

実家で受けた失望への反抗、幼馴染への嫉妬、自分の尊厳を取り戻すため等。

でも、所詮そんなものは後から思いついた言い訳だ。

私がなぜ世界最強の魔法使いを目指すかなんて、至極単純な理由だった。


「人生なんて一度きりしかないわけですしね。どうせ目指すなら最強を目指したいじゃないですか」


 あっけからんと言い放つ私に、ミリアは疲れたようにため息をつく。


「呆れた……。馬鹿な子だと思っていたけどここまでとは……」

「誰が馬鹿な子ですか。ま、もう一つ理由はあるといえばあるんですけど」


 へぇ? といって知りたそうな目線を投げかけてくるミリアに、私は精一杯の笑顔で返す。


「これは私の大事な秘密ですから、友達にしか教えません」


 一瞬で泣きそうな顔になったミリアを見て、さっきの仕返しをすませスッキリした私はミリアの手をとる。


「冗談ですよ。私はミリアを友達だと思ってます。……もう一つの理由は、機会があったらおしえてげますから」


 怒りと嬉しさが混じった微妙な表情で文句を言ってくるミリアをからかいながら、私は案外この子も可愛げがあるかもしれないなんて思っていた。


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