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今日は学校もないので、とある目的で私はギルドへ来ていた。
人を探しに来たのだが、どうやら目当ての人物はいないようなので適当な席を陣取り、ぼーっと入り口を眺める。
「うーん、来ませんねぇ」
約束をしていたわけではないので、そもそもギルドにくるかすら微妙なところだったが、他に会えるあてもないので仕方がない。
「なにやってるのリナリス」
そんな無防備な時に、意識していなかった後ろから急に声をかけられ、思わず体がびくりと震える。
「なんだ、誰かと思えばクレアですか」
予想してなかった人物との再会に、思わず私は頬を緩ませた。
「そういえば、今あなた冒険者として活動してるんですね」
私の言葉にクレアはこくりと頷く。
「最初はちょっと経験をつんで、それから別の街へ行こうと思ってるから」
「なるほど。私はまだ学校卒業するまでに時間がかかりますし、別の街にいけるのは羨ましいですね」
クレアのように飛び級卒業が認められれば別だが、普通にいけば冒険者としてデビューするにはまだ一年はかかる。
そもそも、私は本当に卒業できるのかというところから不安で仕方がない。
「リナリス、その帽子……」
「あぁこれですか、ありがたく使わせてもらってます。……今更返せとか言われてもこれはもう私のものですからね?」
私が頭の帽子をぎゅっと抑えると、クレアは違うと首を振った。
「ちゃんと使ってくれてるんだなって思っただけ」
「ミリアといいあなたといい急に私への態度変わりすぎじゃないですか? ちょっと不気味なんですけど」
なんかここ最近思わせぶりな台詞ばかり聞かされている気がする。
「別に深い意味はないよ」
クレアはむかしから表情の変化が乏しいため、いまいち何を考えているのかわかりづらい。
「それで、リナリスあなた結局何してたの?」
「あぁ、人を探してたんですよ。……っと、そんな事を言っていたらきましたね」
くるか不安だったが、ようやく目当ての人物が姿を現した。
向こうも私に気がついたようで、こちらへと向かってくる。
「ようリナリス、ギルドにいるなんて珍しいな」
「あなたを探してたんですよユウマ。こないだは勝手に帰っちゃいましたからね」
「気にすんな、お前にもいろいろ事情はあるだろうし。というか、隣の子はこないだの凄腕魔法使いちゃんか?」
クレアは声をかけてきたユウマをみて、誰? と言わんばかりに首を傾げている。
「この人はユウマ、自称勇者です」
「だから自称じゃないって! もう街の人にはちゃんと認めてもらったから!」
それを聞いてクレアが納得したように頷く。
「そういえばそんな話聞いてた。……リナリスは勇者とどんな関係なの?」
「一緒に死線をくぐり抜けた仲です」
お互い罵りあいながらヘルハウンドから逃げていただけだけど、物は言いようだ。
それを聞くと、そう、と呟いてクレアは席を立った。
「それじゃあ邪魔しちゃ悪いし、私は依頼を受けに行ってくるからこれで。リナリスも頑張ってね」
「言われなくても。すぐ私に追いつかれないようにせいぜいがんばってくださいね」
私がいつも通りそんな事を言うと、クレアはニコリと笑って私から距離を取る。
そしてユウマにすれ違いざま、ぼそりと何かをつぶやいて行った。
「……なぁ、あのクレアって子、リナリスの友達?」
なぜか顔を青くしたユウマが、遠慮がちに私に聞いてくる。
「友達というか幼馴染というか。……何を言われたんですか?」
なんでもないといって首を振るユウマを、私は怪訝な顔で眺める。
それよりも、といってユウマは誤魔化すように懐からお金を取り出した。
「これ、こないだの依頼の報酬金。あったら渡そうと思ってたんだ」
「ん、わざわざありがとうございます。連れて行ってくれとわがまま言ったのは私ですし、そのまま持って行ってくれてもよかったのに」
「そうはいってもあの依頼ほとんど俺なにもしてないしな」
まぁ確かに私の眼のおかげで一度の戦闘もなかったから、彼の言い分もわからなくもない。
そういう事ならばとありがたくお金はもらう事にした。
「私もいくつかあなたに聞きたい事があるんですけど、まだこの街には滞在しているんですか?」
「あぁ、だいぶ戦えるようになってきたとはいえ、まだひよっこだからだな。それに、女神様から遣わされたわけだけど、何をすればいいのかさっぱりわからないし」
「やっぱり目的はないんですね……。まぁ昔と違って今は魔王なんていうわかりやすい存在もいないですしねぇ」
普通に魔物は出るし、たまに暇を持て余した魔族が攻め込んできたりもするので全然平和にはなっていないのだが、それでも魔王なんていう悪の象徴がいるわけでもない。
「そうそう、だから困ってるんだよね。とりあえず、神官の人がそのあたり調べてくれているらしいから、その結果が出るまでは少なくとも街にいるかな」
それを聞いてわたしはふむと頷く。
それなら結構都合が良さそうだ。
「それなら是非ユウマに頼みたい事があるんですけど、引き受けてくれますか?」
「まぁリナリスと俺の仲だからな、よっぽど無理なことじゃなければ考えるぞ」
私たちの間にはヘルハウンドに一緒に追われたという仲しかないはずなのだが、この男はなにをほざいているのだろうか。
「お願いというのですはね、休日だけでいいので正式に私をパーティに加えて欲しいのです」
私は精一杯媚びた笑みを浮かべ、ユウマにそう頼み込んだ。
「えぇ……。とりあえずその気持ち悪い笑顔やめないか?」
露骨に嫌そうにする上、私の最上級の笑顔をバカにしたユウマに、とりあえず魔法を撃ち込んでおいた。