2-1
「ちょっとミリア、なんで機嫌悪いんですか」
「別に、機嫌悪くないわよ」
放課後、私たちは二人で街の外へときていた。
クレアに負けて以降、私は自分が使える魔法を隠す必要もなくなったので、こうしてミリアと二人で修行をするのが日課になっている。
「そうですか、じゃあいつも通り魔力を貸してください」
どうもこの子は私が自分以外の子と友達宣言をしたのが気にくわないらしい。
どうやら意外と面倒臭い性格をしているようだ。
「はい、どうぞ」
機嫌は悪くでも魔力は貸してくれるらしく、彼女が産み出した魔法に干渉し、自分の支配下に置いていく。
「……器用なものね」
その様子を見ながら、ミリがぼそりと呟いた。
「前にも言いましたがこれしか練習のしようがなかったですからね。……こんな感じでしょうか」
ミリアが作り出した巨大な水球を、私が渦巻く巨大な槍へと変えていく。
「アクアランス!」
それを近くにいたスライムの群れへと解き放った。
スライムは水の槍に貫かれ、そのまま流されていく。
「スライム1匹倒すのに魔力使い果たしてたのが嘘見たいね」
「相変わらず私自身の魔力ではスライム1匹倒すのが精一杯ですけどね」
所詮、私がやっているのは人の力を借りているにすぎない。
まぁいまはそれしかやりようがないので、それでもいいかなと思っているが。
「そのうちどうにかして、自分一人である程度戦えるようになればいいのですが」
「……せめて、その力を補佐できる武器があればね」
「ん? 何か言いました?」
私の隣でミリアが何かをぼそっとつぶやくが、聞き返してもふるふると首を振るばかりだ。
「ねぇ、リナリスはフラグメント以外にも、直接手でふれて魔力に干渉できるのよね?」
「できますよ。もっとも、あれやるたびに魔法の影響を直にうけるのであんまりやりたくないのですが」
慣れてきたとはいえ、毎回毎回炎に焼かれたり感電したりするのは私としても勘弁願いたい。
「あれも魔力を使ってるの?」
「もちろんです。フラグメントほどじゃないですけど、そこそこ魔力は使いますよ」
まぁ私の言うそこそこの量というのは普通の魔法使いからしたら屁ほどでもないのだけど。
「そっか、よしきめたわ!」
そういって急に立ち上がったミリアは、私の方をじっと見つめる。
「私が、あなたの武器を作ってあげる」
そして、そんなことを口にして恥ずかしそうに私に笑いかけた。
「いや、なんですか急に。なんでミリアが私の武器を?」
「理由はいろいろあるけど、いまはまだ教えてあげない。私が前に聞いたリナリスが最強の魔法使いをめざすもう一つの理由もまだ教えてもらってないしね」
そう言われると私は何も言い返せない。
べつに隠しておくようなことでもないのだが、いまいち言い出す機会が見つからなかったのだ。
「それじゃあいま教えてあげますから、そっちも教えてください」
「ダメ。作り終わったら話してあげるから、リナリスもその時教えて?」
「ふむ、わかりました。それじゃあ私を唸らせるような一品をもってきたら教えてあげましょう」
「あなたって本当に無駄に上から目線よね」
私たちがそんな他愛もないやりとりを続けていると、徐々に日差しが傾いてきた。
「……そろそろ、帰りますか?」
「そうね、これ以上いると冷えそうだし」
そういってミリアは数歩歩くと、何かを思い出したようにくるりと振り返り、私の正面を向く。
「ねぇリナリス、クレアがいなくても私もいるからね」
そのことを忘れないでね? と、意味深な台詞をいってまた街の方へと歩きだす。
「ちょっと! いまのはなんですか! 遅咲きの思春期ですか!?」
「遅咲きじゃない! いまが思春期真っ只中よ!」
さきほどのまでの真面目な雰囲気はどこへやら、ミリアは顔を赤くしながらいつもどおりのツッコミをかましてきた。