1-エピローグ
「……体が重い」
あの後、どうやら私は魔力切れと極度の疲労から意識を失ったらしい。
まぁ最後は後先考えずに持ちうる全ての気力と魔力を使い果たしたから、当然と言えば当然か。
「私は負けたんですね」
魔力切れで重い体をなんとか起こす。
どうやら保健室に寝かされているようで、周りには誰もいなかった。
「もっと悔しく感じるかと思いましたが、意外とそうでもないですね」
全力を出しつくしたからだろうか、負けたにも関わらず不思議と気分は軽かった。
私は辺りを見回し、クレアから譲り受けた彼女の帽子を抱きかかえる。
「それにしてもあの子、いつのまにやら随分格好をつけるようになりましたね」
負かした相手に自分のものを渡すなんて、なかなか盛り上げ方をわかっているじゃないかと感心する。
なんてくだらないことを考えていると、保健室の扉が開かれ、外からミリアが入ってきた。
「リナリス! 目が覚めたのね!」
私が起きていることに気がついたミリアは、目を潤ませて私の方へと走ってくる。
「ミリア、保健室では静かにしなさいと教わらなかったのですか?」
「アホなこと言ってないで! あなた丸一日眠りっぱなしだったのよ!」
なんと。
結構無茶をしたとは思っていたが、そんなに寝ていたのか。
「まあ大丈夫ですよ。体は重いですが、痛みとかは残ってませんし」
さすが我が校自慢の腕利保険医。
あれだけぼろぼろにされたというのに、もうほとんど傷は残っていなかった。
ミリアはおろおろと私の体を見て、一応問題なさそうだということを確認すると、安心したようにため息を吐く。
「本当に心配したんだからね。あなたどんどんクレアの魔法でボロボロになってくし……」
「あの子本当に容赦ないですよね。普通ろくに魔法も使えない相手に開幕上級魔法とかぶっぱなします?」
「ま、まぁそれは見てて私も思ったわ……。でも、最後リナリスも凄かったじゃない。あの授業で制御魔法を見た時、もしかしたら本当にクレアを、なんて思ったけどまさかあそこまでやるなんて」
「まぁ負けましたけどね」
ミリアには大見得切って絶対勝てるといっていただけに、少しだけ気まずい。
「リナリスは十分凄かったわよ。……ただ、クレアは私たちが思ってたよりも遥かに強かった」
「そうですね、さすがに心が折れかけましたよ」
結局、あれだけの魔法を行使してもなお彼女は魔力の残りに余裕があったということだ。
その底知れない実力に、軽く恐怖すら覚える。
「折れかけた、ってことはやっぱりまだ諦めてはいないのね」
「もちろんです。次は必ず私が勝ちますよ」
敗因は、私の修行が足りなかったことにある。
私の少ない魔力であれだけの量の魔力を扱おうとすると、どうしても制御しきれない。
そのためクレアの魔法とぶつかった時は本来の威力より大分力が削がれていた。
あのクラスの魔法を完璧に制御できるようになれば、あるいはクレアにも勝てるかもしれない。
「それよりミリア、今回は本当に色々とありがとうございました」
「え、私何もしてないけれど」
「心配してくれたじゃないですか。それだけで十分ですよ」
え、え? と顔を赤くしてこちらを見ているミリアに、私は意地悪い笑みを浮かべ、ベットからぽんと飛び降りる。
「というわけでご飯でも食べに行きましょうか。私はお腹が空きました」
クレアとの決着はついた。
その結果は私が望んだものではなかったけれど、それでも次につながるものは得た。
もう一度ここから始めようじゃないか、私の物語を。
手始めにまずは、隣であたふたしている私の二人目の友人に、ご飯をご馳走するところから。