第四話 皇帝陛下
「俺の名はアルト。お前の名は?」
アルトと名乗った男はルナに名前を問うた。
「・・・私はルナと言います」
そう答えて、ルナは不安に思ったことを口にした。
「本当にここで匿ってくれるのですか?」
番人からの頼みだというのだからとはいえ信じられなかった。
普通なら他国の人間を一番上の人間に向かって保護してくれというのはありえない。
「ああ、匿ってやる。正式に書簡が来たんじゃ、保護しないわけにはいかないからな」
そう言われてルナは安心した。全ての力が抜けたように身体が傾く。
「お、おい!?」
急にふらついたルナに驚いたアルトはすぐに腕を差し入れて支える。
「大丈夫か?・・・ん?」
アルトはそこでようやくルナの足元を見た。
脚がボロボロだ。雪のような白い肌にたくさんの切り傷、擦り傷がついていて、
更に足の甲は血だらけだ。すぐにでも消毒しなければならないほど汚れている。
アルトは舌打ちすると、ルナを今まで彼が寝ていたソファに座らせた。
「・・・座っていろ」
怒っているような声音にルナは萎縮して黙ったままソファに座った。
ふかふかだ。塔にある自室のベッドよりもふかふかでやわらかい。
ソファの色は品のいいロイヤルブルー。
装飾はほとんど無いがシンプルな感じでしかも質がいい。
アルトが寝そべるくらいだから、大きさは三人くらいだろうか。
アルトは執務机の上にある呼び鈴を鳴らすと、先ほどの女性が戻ってきた。
「今すぐ救急箱と水、それから靴と食事を持って来い!」
「畏まりました」
アルトは女性に向かって命令すると、二つの双眸が炎を宿したように女性を睨んだ。
「客人をもてなす態度じゃないな。お前の気持ちはわかるが、この世界のルールは・・・によって決められている。腹を括れ」
「・・・っ。・・・わかっています」
女性は指示された命令に従い部屋を飛びして行った。
そしてすぐに救急箱と水などアルトに頼まれていたものが運ばれてくる。
おそらくすでに用意されていたのだろう。
どうやらルナを手当てする予定ではあったが、完全に敵認識されていたようだ。
「お持ちしました」
「わかった。お前は下がれ」
アルトは女性に目を向けず、救急箱と水を持って伝える。
女性は一礼するとルナを睨みながら出て行った。
なぜそんな風に睨まれなければならないのだろうか?
「さて、お前はこれに足を突っ込め」
ルナは目の前に出されたそこそこ高い大きな容器に恐る恐る足を入れた。
アルトはそこに水と金色をした液薬を流し込み、そこに固形の白い薬を入れる。
薬が溶け混ざって行く。
薬が完全に混ざり終えると傷口から血と泥や砂、それから毒素などが出てきた。
「・・・何ですかこれ?」
「ルーヴェイト共和国の薬師が作った消毒液と傷薬だ。これで傷口に入った毒素や菌を全部出した後、勝手に消毒してくれる」
容器の水はすでに赤黒くなっていて泥や砂などが浮いていた。
アルトはルナの傷口から汚れが全部出たことを確認すると足を持ち上げた。
「きゃあ!」
ルナは驚いて真っ赤に顔を染める。アルトはそれを見て声を上げて笑った。
「別に何もしない。手当てするだけだ」
そう言ってタオルでルナの脚を拭いて塗り薬を塗った。
どことなくいい香りがする。
「これは何の匂いですか?」
「傷や火傷などに効くハーブが入っているからそれだろうな」
アルトは包帯を巻き終えてルナに靴を履かせた。
「これで大丈夫だろう。二日くらいたてば完全に治る」
「ありがとうございます」
「さて、用意された食事でも食べながら本当の亡命理由を聞かせてもらおうか」
「!」
アルトにそう言われたルナは話していいのだろうかと迷う。
アルトは彼女を食事用のテーブルに引っ張ると椅子に座らせた。
「食いながらでいい。お前に拒否権は無いからな」
見抜かれている。そう感じた。
ルナは目の前の料理を見ながら膝の上で拳を握り締めた。
料理はサラダ、スープ、メイン、デザート、パン。
サラダは新鮮な野菜と果物をふんだんに使ったヘルシーなフルーツサラダ。
スープはとうもろこしと豆乳を使ったコーンスープ。
メインはチキンのハーブソテーで食欲をそそる。
デザートのラズベリーソースと果肉がたっぷり入ったジェラードは宝石のようで綺麗だ。
「さっさと食べろ。毒は入っていない。料理が冷めるぞ」
ルナはパンを手にとって一口食べた。焼き立てでとてもおいしい。
けれど、ルナにとってあまり食事はいらない。
長年、ほとんど食事を摂らなかった彼女は小食だった。
そのせいか身体は痩せ細り、顔も青白かった。
ルナはチキンのソテーとサラダを半分食べてスープを一口して終わった。
デザートまで食べられそうに無い。まるで自分の瞳みたいで嫌だからだ。
「なんだ。ほとんど残しているじゃないか。・・・まあいい」
黙って食べていたアルトは一旦言葉を切って水を飲むとルナの瞳を見据えた。
「話せ」
拒否すらも許さない語気の強さにルナは覚悟を決めて口を開いた。
本当にわかってくれると信じて。
「私は16年間ミストリア魔法国城から離れた浮遊島にある塔の部屋で監禁されながら暮らしていました」
ルナはポツポツと話し出した。
「私は隠された第二王女で側室妃の娘だそうです」
「口調から察するに、いつそのことを知ったんだ?」
アルトは不思議に思って疑問を口に出す。
「私が三歳の頃でした。物心付く前から監禁されていた私を見つけたのが王位継承第一位の異母姉でした。その頃に私が王女で妹だと知りました」
今ならわかる。姉が私を出せなかった理由。
姉は待っていたのだ。ルナが成長し、姉が王位を継ぐその日を。
王位を継ぎ、黒と赤という禁色を無くしてルナを迎え入れようとしていたこと。
だが、遅すぎた。結果、ルナは追われる身になってしまった。
「それなら監禁する理由が見当たらない」
「理由は父の恐れでした。私の髪と瞳がみんなと違って生まれてしまったから・・・黒と赤はミストリアでは禁色で忌み嫌われています。そして私は現国王や姉以上に魔力を持っています。国王は私が彼らを殺すと思ったんでしょうね」
ルナは自嘲の笑みを浮かべた。しかしこれは半分本当で半分は嘘だ。
姉が知らせたのはルナの命が狙われていることのみ。
ルナは姉が取り乱している隙に理由を覗いた。
見えたのは自分の髪色と瞳と魔力のせいで国王が自分を殺すという上辺の部分だけのみ。
姉がルナに対して秘密にしておきたい重要なことまではわからなかった。
本人が奥底まで知らせたくない秘密があるならルナは読めない。
そんな時間は無かったし、それを読む魔力を怖くて使えなかった。
「それなら生まれた時に殺せばよかったんじゃなかったか?」
「私もそう思います。けれど、父は私の母を愛していたそうです。側室妃にするくらいでしたから。でも、私が生まれたとたん母は死んだそうです。そして、私は何も知らないまま閉じ込められ今まで生きてきました。私が16年生かされた理由がわかりません」
それさえわかれば自分がどういう存在であるかもわかる気がした。
ここは知識の国だとフレイから聞いている。ここの蔵書の数を見て確信した。
「姉は生きてといいました。私は姉との約束のために生きなければならないんです」
その言葉を聞いたアルトはで?と呟いた。
「え?」
「お前の目的はここでの安全な暮らしだ。だがその後は?お前は姉のために生きているしか思えないな」
「そんなこと!」
「お前ほどの魔力があるなら時期を見て脱出でも何でもすればよかったじゃないか。なのに出ようとしない。まるで人形のようだ。魔力の通ってもいない物質など破壊するのはたやすいだろう」
「・・・私は魔法が使えません。簡単な火や水の魔法すら扱えないのです。私は魔法を教わってませんから」
「は?」
アルトは恍けた声を出した。心底驚いているようだ。
「私には魔法を一切教えてくれませんでした。魔法の本の類もなかった。だから私は脱出すら出来なかったのです」
元々住んでいた塔は魔力を吸収する石で出来ており、逃亡不可とされる暴風と絶壁に囲まれていたため逃げ出すことはできなかった。
「だったらどうやって逃亡した」
「姉が逃がしてくれました。番人を頼れとただそれだけでした」
「・・・・・・」
アルトは溜息をついた。腕を組んで天を仰ぐ。
「理由はわかった。だが、お前はどうしたいんだ?」
「わかりません。私には選択するということがありませんでしたから」
「なら選択しろ」
アルトのまっすぐな視線にルナは目線を合わせた。
「選んでいい。お前はもうミストリアの人間じゃない。その髪と瞳が何だ。黒や赤などこの国にはいっぱいある。それに人間には血が流れているし、赤は命の色だ。誇っていい」
アルトはそう言った。ルナの心に何かが埋まって行く。
(そうだ。私は・・・いつも姉の言うとおりにしか生きてこなかった)
自分には選択肢が無かった。
ただなすすべも無く、流されるまま一生を終えるのだろうとずっと思っていた。
国民たちは自分のことは知らない。
けれど、今までの生活から死を望まれていると感じていた。
ルナの瞳から大粒の涙が零れる。
そうか。もう自由でいいんだ。ルナは笑いながら泣いた。
ずいぶんと泣いてなかった気がする。いつも諦めながら生きてきた。
皆が自分の死を望んでいるならこのまま朽ち果てればいいと思っていた。
泣いても意味が無いとわかっていたから。しばらくルナは泣いていた。
ようやく泣き終わる頃にはすでに昼頃になっていた。
「私は普通に生きればいいんですね」
「それが当たり前のことだ。ミストリア自体おかしな国だ」
「・・・わかりました」
「それからな一つ聞きたいことがある」
「なんでしょうか?」
「お前は魔法が使えないと言ったが・・・嘘だな?」
そう問われ、言葉が詰まる。
「どうしてそう思うのですか?」
何も無かったように言葉を平常どおりにする。
「ミストリアの人間は生まれながらに持っている魔法があるくらい知っている。お前も一つくらいはあるはずだ」
「・・・言えません」
「お前に拒否と黙秘はできない。俺の観察眼と洞察力を舐めるな。大体のことはそれでわかる」
嘘も隠し事もな。
「私は・・・」
読心魔法が使えることを伝えるべきかそうでないか。
自分の魔法は言いたくない。これは姉からの教えだ。
自分の生まれ持った魔法を他人に教えるのは駄目だ。
なぜならそれは弱点となり、命を握られているのと同じなのだ。
「・・・やっぱり言えません。姉との約束が」
「お前。俺の言っている意味わかっているか?自分で決めろと言っているんだ。だから言ってしまえ」
ルナは覚悟を決めた。
「言ったらどうなりますか?」
「お前の魔法次第でどうもしない。客人だからな」
客人というならばどうしてそんなに威圧するのか。
まるで自分が捕虜になった気分だ。
「・・・このことは誰にも言わないでください。これは姉しか知りませんから」
「わかった。必ず極秘事項として俺の胸の中に留めておく」
ルナは深呼吸した。
まさかこんなことになるなんて思わなかったけれど仕方が無い。
もし、この人が私の魔法をばらすのならそのときに死ねばいい。
そう決めて、ルナは言った。
「私は他人の心が読めます。その人が隠していること、考えていることが読めます」
これがルナの魔法。人にとって一番忌み嫌われ恐れられる魔法だ。
この男はどう思うのだろう。すぐに追い出すのだろうか?
わからないままアルトの言葉を待つ。
「・・・所謂、読心魔法か。外交では有利だがある意味厄介な魔法だな」
アルトはクツクツ笑いながらルナを見る。どこか楽しそうだ。
ルナの一大決心を笑いで済ますこの男に怪訝な顔をする。
「悪い、悪い。まさか読心魔法だとは思わなくてな。俺が思っていたのは自分が透明になるのか時間を巻き戻すのか、記憶を改ざんするとかそんなところだと思っていた」
そういった魔法はルナの姉が得意だ。どうしてそんなことを知っているんだろう?
「どうして知っているかって顔だな。なら俺の考えていることを読んでみるか?」
ルナは頭を横に振った。知りたくても読みたくない。頼まれても断る。
なぜならそれは心を読むということ自体気持ちがいいものではないからだ。
一国の皇帝陛下に対してルナはただの小娘で、いくらミストリアの姫でも無礼に値する。
「読みません」
「賢明な判断だ。俺だって読まれたくないし、知られたく無い秘密だってある」
アルトは立ち上がってまた呼び鈴を鳴らした。
入ってきたのは使用人の女性だ。一礼してアルトを見る。
「何でしょうか。陛下」
「彼女の部屋の用意と風呂の準備を頼む。客人だ。丁重に扱え」
「畏まりました。さあ、行きましょう。お嬢様」
ルナは立ち上がってアルトを見ると彼はにやりと笑っただけで何も言わなかった。
ルナは一礼して彼の部屋を出た。
「ここがお嬢様のお部屋です」
使用人の女性が部屋のドアを開けて案内する。
部屋に入って見渡せば品のいい室内だった。
ベッドはセミダブルで一人用にしては少々大きいがふかふかで調度品もきちんと揃えられている。
クローゼットは広く、ドレッサーは女性の好みを把握してあるのか可愛らしいデザインで色は白だ。
床は木のフローリングで滑らかに感じる。壁はシンプルに白と黒のモノトーンダイヤ。
ベッドカバーはアルトの部屋にあったソファよりも明るめの青だ。
奥にシャワールームがあって軽めの朝食を作るには適したミニキッチンが備えられている。
「お風呂の準備は済ませております。ごゆっくりお寛ぎくださいませ」
使用人は一礼すると出て行った。
「・・・やっぱりみんなに警戒されているのね」
周りからの視線は興味と警戒心でいっぱいだった。先ほどの使用人もそうだ。
みんなこの赤い目と他国から来た自分に怯えているのを読まずともわかった。
「・・・ここで自分の事を探さなきゃ」
生きると決めたのだから自分を見つけると決めたのだから。
「・・・面白い女が入ってきたな」
「私はそう思いません」
ルナが出て行ったのを見計らってアルトの側近が直談判しに来ていた。
ルナを警戒し、傷の手当をせずにアルトの元へ連れてきた人物だ。
その様子はただ事ではなく、辺りの温度がマイナスくらいになっている。
そんな彼の様子をおくびもせず、アルトは聞く耳を持たない。
「いくら番人の命令だからといってミストリアから来た女を匿うなんて正気じゃありません!一体どういうおつもりなんですか」
「まさかあいつをミストリアの密偵と思っていないだろうな?ハル」
ハルと呼ばれた側近は苦虫を噛み締めたような表情をした。図星だったようだ。
「ハル。俺はお前のことを一番信用しているがたまに冷静さが掛ける。考えても見ろ。大体ミストリアの密偵ならすでに番人を介さなくてもこの国に入り込んでいる。番人の手紙には“神印”がきちんと押されていた。これは偽造不可のものだとお前だってわかっているはずだ」
神印とは番人が使用する印だ。主に重要書類や偽造不可の書簡に押される。
神印は番人の証でもあり、偽造など出来ないように現代の技術では到底造られるものではない。
これの製造方法は番人しか知らず、何より世界に一つしかない。
『黒髪と赤の瞳の少女。汝匿りし』
手紙にはこう書かれていただけだが神印があるだけでその内容の重みが違ってくる。
ハルはぐっと言葉に詰まる。
「それに・・・気になることがあるしな」
アルトは初めてルナを見たとき自分の血が騒いだ。
自身の中に流れる“吸血鬼”の血。実はアルトは吸血鬼と人間のハーフだ。
これは目の前にいるハルしか知らない。
ハルはアルトの幼馴染兼親友でアルトにとって最も気の許せる人間で大切な男友達だ。
ルナはハルのことを女性と勘違いしているように見えたが。
「もし“自分と同じ”なら・・・覚悟が必要だな」
アルトは一人ごちて目を閉じる。だが、すぐに目を開けた。
城内が騒がしい。どうやら侵入者が現れたようだ。
「陛下はここでお待ちください。私が出向きます」
ハルが刀を構えてアルトの自室を出ようとしたが、彼は制した。
「いい。お前じゃ相手にもならない。いつもの奴が来た。俺が直々に出る」
そう言ってアルトは廊下に出れば、飾られているドラゴンの像に自分の血を一滴垂らす。
しばらくすると、ドラゴンの目に埋め込まれているルビーが光出して反応した。
その時、颯爽とアルトたちの目の前に仮面を着けた男が現れた。
「・・・・・・」
男はアルトを見て気配を消した。
ハルは臨戦態勢に入るがアルトは笑っているだけだ。
一方、ルナは城内が騒がしいことに気付く。
彼女は風呂から上がったばかりで外に出られる状態ではないが、いつもの服のワンピースだけを着ると部屋を出た。
ルナの瞳にはアルトとハル、それからその他の兵士たちそして仮面をつけた銀髪、長身の男がいた。
男は黒いコートから十字架型の鋭利なナイフを取り出してアルトに向かって行こうとする。
男の肩には蝶に十字架のタトゥーが刻まれており、同じく仮面にも蝶が刻まれていた。
アルトは笑うだけで武器を構えようとしない。
(このままではアルトが殺されてしまう・・・・!)
「駄目!」
ルナが叫んだとたん、結界が発動した。
「ぐっ!」
男は呻いた。地に脚を付き、息切れを起こす。とても苦しんでいるように見えた。
男は血を吐いて蹲る。
「苦しいか。これはお前専用の結界だ。お前の“呪い”が強く働くようになっている」
今まで笑っていたアルトが酷く冷徹な表情をする。瞳に感情はなく声も冷たい。
男は顔を上げてアルトを憎々しげに見上げた。息が荒く立っているのが辛そうだ。
ルナはすぐにアルトの元へ駆け寄った。ルナの姿を見て彼は驚く。
「お前!ここに何しに来た」
「何が起こっているのか気になって・・・」
「部屋に戻れ。お前はここに来て言い訳じゃない」
冷たく突き放されるが、ルナは頭を振らなかった。
そこでルナは男を見た。仮面越しの表情はわからない。
しかし、なぜか怖くなった。男の視線にルナの身体が恐怖で強張る。
男はルナを見てにやりと笑った。ルナの身体が震え上がった。
「・・・何がおかしい」
「・・・・・・・・多勢無勢大いに結構。また殺しに来る」
男はふらりと立ち上がると目の前から消え去った。
絨毯には先程の男の血が数滴落ちていた。
「奴が消えた。追え!」
ハルが声を張り上げるが、アルトは頭を振った。
「もういい。“ここ”にはもういない。ルナ、お前はもう部屋へ戻れ」
ルナは使用人に連れられて追い返された。
ルナは部屋に戻った後、ワンピースを脱いで用意された薄い生地の寝巻きを着る。
それからベッドに入る前にアルトから渡された救急セットを開けて塗り薬を塗る。
「この塗り薬、すごく効くのね。もう傷が塞がってる」
傷口を確認すればすでに半分直りかけていた。
包帯をしっかり巻いてベッドに入る。
ベッドに身体を沈めれば、すぐに眠気が襲ってきた。
よほど神経と体力を擦り減らした結果だろう。
(今日は色々あったから、ゆっくり休んで明日に備えよう)
ルナは瞳を閉じて夢の世界へと入っていた。