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第三話 アルメール

「さあ、着いたよ」

フレイの言葉にルナは目を開けると、目の前には巨大な壁が立ち並んでいる。

霧深く、寒い。門があって門番らしき人が並んでいた。

「・・・ここがアルメール帝国なの?」

「そうだよ。ここは霧が深くてね、夜になるといつも満月なんだ」

見てごらん、と空へ指差した彼はルナに微笑んだ。

ルナは空を見てみれば見事な満月だった。やはり紅い。

「満月っていつも赤なんですか?」

不思議に思って聞いたらフレイは逆に驚いた顔をした。

「赤じゃないよ。それだと怖い。いつもは白い色や黄色をしているんだ。思ったんだけど、君は月や星、夜を見たことがなかったの?」

「ええ。私が見てきたのはいつも昼だった」

フレイは黙り込んでしまった。何かまずかっただろうか。

心を読んでみようかと思ったけれどあれは魔力の消費が激しく、今ここで使うのは憚れた。

今は読むべきではない。

「君はやはりいろんなことを知ったほうがいい。そろそろ行こうか」

溜息をついたフレイが一歩踏み出した瞬間、門番が気づいた。

「貴様、こんな時間に何をして・・・。!!!」

門番がフレイの姿を目に入れた瞬間驚いた顔をした。

ルナは門番の顔色が変わったことに驚いてフレイと門番を交互に見た。

「あ、あなた様は・・・!いつも外に出ないというのにどうなさったのですか!?」

「緊急事態なんだ。これを皇帝陛下に、そしてこの子を彼のところへ連れて行って保護してやって欲しい」

フレイはコートから書類と思われる手紙を門番に渡した。

いつの間に用意していたのだろうか。あまりにも用意が良すぎた。

「あなた様がそうおっしゃるのなら緊急事態なのでしょうが、そちらの少女は?」

「僕の知り合いだ。魔物に襲われていた。客人としてもてなしてやってくれと伝えてくれ」

「かしこまりました」

門番は一礼するとルナを見てフレイを見た。フレイは頷いてからルナに向き直る。

「ルナ、僕はここまでだ。君は今からこの国の一番偉い人のところへ行って保護してもらうよう連絡しておいた。だからここでお別れだ」

「お別れ?」

「・・・今はね。しばらくして落ち着いたらまた会える」

「ありがとうございます。色々と良くしてくれて」

ルナはフレイにお礼を言った。フレイは手を上げて笑った。

「いや、人助けと思っていてくれ。それからルナ」

「はい」

「あまり、君の能力は使うな」

「!?」

ルナは思わず黙ってしまった。

フレイの声が真剣に帯びていたのもあるが能力のことは一言も言っていなかったはずだ。

門番の態度が変わったこともそうだが、この男は何かを知っている。

そんな気がしてならない。

「フレイ、それってどういう・・・」

「それだけ伝えておく。君たち頼んだよ」

フレイはそれだけを言って姿を消した。

近くにあった転送魔方陣を発動したのだろう。

「さあ、お嬢さん。君は早く国へ入ってくれ。夜は魔物が出没しやすいし、こんな時間に女性が歩いていては危険だ」

「・・・わかりました」

フレイのことも気になったが、今はやるべきことがある。

ルナは門の内側へ入った。


アルメール帝国に足を踏み入れた。

知識と軍事力が発達した国なのかパイプから蒸気が出ている。

ルナは本で見たのと姉の話を聞いたのと違っていた。

アルメールの町並みはレンガ造りと機械が入り混じったような感じがする。

外の世界を知らなかったルナは街並みを見て目移りした。

「お嬢さん。ここから先は列車に乗って帝都に向かってくれ」

付き添いを申し出た門番がルナに言った。

「ここが首都じゃないの?」

「ここはハーメルンといって帝都はここから北の中心街のところだ。ここは南の地域、つまり入国管理所なっている。こんな時間にやっている可能性は低いだろうが夜勤の巡回があるだろう。それに乗れば朝一には着くな。あれだ」

門番がそう言うと目線で列車を追った。ルナも列車を見る。

列車は黒く近代的だった。

蒸気機関車みたいな感じだが、それとはまったく違った。

町並みもそうだが、これは電力と石炭で動いている。

本の世界でしか知らなかったゆえにその迫力が凄かった。

「凄い」

「はは、凄いだろう。この国の名所の一つだ。さあ列車に乗ってくれ」

「あなたは?」

「俺たちは自分の持ち場に戻らねばならん。念のためお嬢さんのことは帝都の連中に伝えておいた」

「ありがとうございます」

ルナは列車に乗ろうとしたがふと、気がついた。

(そうだ・・・私お金持ってない)

無一文で追い出されたようなものだ。命の危機があったためすっかり忘れていた。

「あの・・・お金って?」

「ああ、基本的に交通機関は無料なんだ。この国は広い。皇帝陛下が民衆のためにそうしたんだよ」

ルナはほっとした。お金がなければ乗れないと思っていた。

お金なら働いて稼げばいい。だけど、命を狙われている身だ。

どこかで働き始めるには安全なところで保護してもらわなければならない。

ルナは列車に乗って帝都へ向かった。


朝方には帝都に着いた。ルナは列車から降りると町並みを見た。

霧がかっているが、それでも歴史的建造物のように落ち着いた雰囲気だ。

朝焼けと日の出で幻想的に見える。

先ほどいたハーメルンという町並みよりも密集していて、中心にあるのは時計塔みたいだ。

だけど、城にも見えた。

明かりはポツポツと点灯している所としていない所がある。

ルナは一歩踏み出して階段を下りようとした。

「おい、そこの女。こんな早朝に何をしている」

男の声が聞こえた。

ルナはすぐに振り返って男の声が聞こえた方面に視線を向けた。

視線の先には女性がいた。

身長は165cmくらいだろうか。華奢な風貌に端正な顔。

女性の髪は短く、風に揺れていた。

腰には刀のような剣を差しており、服装は門番と違ってコートのような黒い軍服を着用している。

「おい。聞いているのか」

もう一度聞こえた声にその女性をみるとその人は眉間に皺を寄せていた。

どうやらその人の声らしい。

「・・・聞いてます」

「なら返事をしたらどうだ。そして問いに答えろ、こんな早朝に何をしている」

女性はどうやら怒ってるようだ。それもそうだろう。

こんな日が昇った直後に女性が、しかもこの国の人間でなければ怪しむに決まっている。

ルナはすぐに口を開いた。

「あの、皇帝陛下に会いに来たんです」

女性はその言葉を聞くとすぐに剣を抜いた。

「!」

ルナの喉元に剣を突きたてられる。恐怖のあまりルナは身体が竦んだ。

敵意を剥き出した女性は声を荒げるように言った。

「皇帝陛下に何のようだ。もしかしてミストリアの密偵か!?」

「・・・ち、違います。フレイが皇帝陛下に保護してもらえと言われたので」

女性はフレイと言う名を聞いたとたん、すぐに剣を収めた。

敵意は無くなったようだが、射るような視線を向けてくる。

だけど殺意は無いらしい。ルナはそれを見て胸を撫で下ろした。

(・・帝都の人たちに連絡を回したはずでは?)

いきなり剣を突き立てられて理不尽なことを頭の隅で考えると、ルナは女性にフレイから預かった手紙を渡した。

これで証拠品になるかと思う。

今ここで見せたらどうなるかはわからない。

けれど、今は怪しまれないためにするべきだ。

女性は渡された手紙を開いてすぐに目を通した。

「・・・・・」

ルナは黙って読み終わるのを待った。

これでわかってくれなければどうしようかと思う。

だが、今の自分には選択肢が無いので無意味だが。

女性は手紙に目を通し終えると閉じてルナに視線を向けた。

「女。案内してやる。ついて来い」

女性がそう言ったとたん、緊張が解けた。しかし。

「隊長!こちらにいらっしゃったのですか。・・・ん?そちらのお嬢さんは?」

一人の男性がこちらに駆けつけてきた。どうやらこの女性の部下らしい。

部下はルナを一目見ると怪しげな顔をした。

「陛下の客人だ。今から城へ連れて行く」

「了解しました。それから、不法入国者がこの国に入り込んだと今連絡がありました」

「わかった。そちらはお前たちに任せる。女、行くぞ」

女性はルナに一目も向けずに前へ歩き出した。

ルナは先ほどの部下に軽く会釈してから追いかけた。


「・・・・・」

「・・・・・」

沈黙が辛い。あれから一言も声に出していない。

女性は黙って先へ進むけれど、ルナは追いかけるのが精一杯だった。

なぜなら足が痛い。裸足なのだ。ずっと屋内にいたため靴なんて履いていない。

小石や、木片を踏んで森の中を走り続けたのだ。

緊急事態だったため、ずっと忘れていた。

きっと、足裏は切り傷と棘が刺さって傷まみれになっているだろう。

「着いたぞ」

女性が呟くとルナは目の前を見た。やはり、中心にそびえ立った塔だ。

これが城らしい。元々ルナは外の世界を見たことが無いので当たり前だが。

「入れ」

女性に促されて城の中へ入った。石と鉄筋造りで所々、華美な装飾がある。

天井には天使や神、神樹の絵画があった。

床は赤のふかふかの絨毯で周りには見回りの兵士がいる。

やはり兵士たちは女性に会釈して通り過ぎていく。

すると、ぴたりと女性は立ち止まった。いつの間にか謁見の間に着いたらしい。

巨大な観音開きの豪奢な扉に立ち尽くしてしまった。

「陛下、ただいま戻りました」

「ああ、入れ」

扉の向こうから若い男の声が聞こえた。扉が開いて女性が入っていく。

ルナも慌てて入ると玉座ではなく、なぜかソファに寝そべっている男がいた。

「陛下・・・またそんなところで寝そべっていて。いい加減、職務をしてくださいと何度言ったと思っているんですか」

女性は男の様子を見ると呆れたような疲れたような声を出した。

何度もあったんだろう。それが伺えた。

「本読んでいた」

「またですか。いい加減にしてください」

ルナはそこで部屋を見渡した。部屋は広い。塔の自室よりも何十倍も広かった。

壁には本棚がたくさん並べられてその中に大量の本が詰め込まれている。

ベッドは天蓋つきの大きなベッド。

その上にはクッションのほかに本が数冊、さらに床にも本が積まれている。

男が寝そべっているソファの周りにも本が大量に散乱していた。

執務机には書類とやはり本が置いてあった。

一種の図書館状態になっている。ルナは大量の本に目を輝かせた。

ルナは本好きでよく姉から本を持ってきてもらったのを読んでいた。

「・・・ん?そこの女は誰だ」

男はようやくルナを視界に入れた。瞳には警戒心と好奇心が入り混じっている。

ルナは皇帝陛下と思われる男を見た。

髪は無造作に伸ばされ、所々跳ねている。

前髪は右に分けていて色は黒っぽい青だ。

顔は結構な男前だと思う。

思うのは最初に出会った男はフレイだけだし判断が着かない。

目は切れ長でくっきりとした二重に整った鼻梁。端正な顔つきだ。

瞳の色は左が金色で右が夜のような紫のオッドアイ。

服装は女性と同じような軍服だが、こちらの方が華美な装飾が多く、丈も長い。

黒と銀を基調とし、裾の部分にはトランプのスペードをイメージした刺繍が縫い付けられていた。

前は開いた状態で中はシャツを肌蹴て、ベストとベルトをつけている。

胸元は色香漂う筋肉質の体付きが伺えた。

「陛下の客人です」

女性はそう言うと男は残念そうな顔をした。詰まらないそうな態度をする。

男はソファから起き上がって座った。

「なんだ。お前が女を連れ込んだと思った」

「私がそんなことをするわけないことを知っているでしょう」

「お前は生真面目すぎるんだよ」

「陛下が堕落なだけだと」

「・・・辛辣だな、おい。それで俺に何のようだ」

男は女性に呆れると、ルナに向き直った。

「私は・・・お願いがあってきました」

「願い?」

男は訝しげに聞き返すと女性がフレイの手紙を渡した。

男はフレイの手紙に目を通して笑った。何が面白いのだろう。

「なるほどな。よくわかった。おもしれえ」

男は目だけ女性に向けると女性は一礼をしてから部屋を出て行った。

ルナはおろおろした。二人きりになってしまいどうすればいいのかわからない。

「あ、あの」

「書簡は今読んだ。わかった。お前を保護してやる。ほかでもねえ番人サマからの頼みだからな」

番人?番人と言う言葉に首をかしげると男は不思議そうな顔をした。

保護はしてくれるらしい。安心すると男からは爆弾発言が来た。

「何だ、知らなかったのか?フレイってやつは神樹の番人だぞ」

「!」

ルナは驚いた。もうすでに番人に会っていたのだ。

ならなぜ嘘をついたのだろう。番人なら匿ってくれても良かったのに。

「まあ、番人は正体を明かすなっていうくだらねえ決まりがあるのを聞いたことがあるから仕方がない。そういえばまだ自己紹介してなかったな。俺の名前はアルト=アルメリア。この国の皇帝陛下だ」

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