座女神シクの万年椅子 共通①
――某月某日、私が女神となりかれこれ数百の時が流れました。
「特にやることはなく、ただ椅子に座り続けています。正直辛いですが戦うよりはマシなので我慢しましょう」
趣味の日記をつらつらと書き進めていると、おそらく使いであろう者の足音がした。
「シク様、なにをなさっておられるのですか?」
「久しいわねガルソン」
私はまがりなりにも偉いので神座についた日から姿をさらす事はほとんどない。
私の容姿を知るのは同等の神の他には側使えたるガルソンが唯一だろう。
私の役目はこの椅子に座し、天神界の守りたるシールドを保持することだ。
神は肉体がないので人間のする食事をしない他、健康を気にして運動をする必要もない。
ここは神さえ干渉する意味のない狭間。それ故にいかなる争いもない。
よって訪ねてくる神もほとんどいない。いるとすればよほどの物好きだ。
「女神シク~!」
―――いるとしたらこの男神くらいである。
「また来たのか男神ハザートルよ」
ガルソンがこちらに飛びかかる勢いの彼をいさめる。
「神遣ごときが、神の僕に逆らうの?」
「神といっても貴方は、下級神ですよね。私は女老主の位を持つあの方の右腕ですよ?」
――虎の衣をかるなんとやらだ。
「下級神ハザートル。ここは我が領域だ。争うことなかれ」
「はーい」
――あれが疫病神の息子でなければつまみ出せる。
しかし、下級とはいえど厄を招くという事からハザートルを怒らせることはタブーなのだ。
「あら、誰かが結界を抜けたみたい」
破ってではなく、すり抜けた。
「あのー」
「……」
見慣れない装束の男が、おどおどとしながら部屋へ入ってきた。
「何者だ?」
―――ふとどこかで会ったような、懐かしい感覚がある。
もしや私がこの椅子へ座する前に知り合いだったが転生して、再びこちらへやってきたのだろうか?
「お前はもしや、ヴァルダートではないか!?」
ヴァルダートは私が座の守護に選ばれた日に敵との戦いで相打ちとなり、死女神ディルシアの世界へ行ってしまい想いを告げられなかった神兵だ。
「なんだこの音は……」
空間に亀裂が入り、何者かが侵入してくる。
灰の煙がたちこめ、現れたのは数多の触手を持つ男。
「我はアルファース。外来神とでも言っておこうか」
「私は天座の守護女神シク。外なる神よ、何故に現れたのか?」
たずねると、奴は眉を少し動かす。
「この錆びれた時空に女神がいると聞き、その真偽を見定めに参った」
「それでは貴方はどうするつもりか」
アルファースはくつりくつりと笑う。
「女神シクよ、我が伴侶となれ」