鬼女神クレイシニーの日常・共通①
■ 女神と少年の再開
空の上に神々の住まう空間はあった。
城に君臨するのは創造の力を持つカミュレット。
城に住まうのは妻にして同じく力を持つマスヴェイュ、その子等だった。
「明日は私達も父上や母上のように自由に人を作れるのでしょう?」
私、女神クレイシニーは創造の力を使う日心待にしている。
父や母のように神だけが持つ力。
それを受け継ぐ私と弟シェゴルダン、妹ブロッサリーは明日から力を使えるのだ。
「ああ、悪用しない程度に作るといい」
父カミュレット神は愉快そうに目を細めて笑う。
「私は星の世界と人を作りたいわ」
花や食べ物も捨てがたいが、まずは一番好きな星を選ぶ。
「姉上!星は僕が先に目をつけていたんだ!!」
なにやら反論するシェゴルダン。
「あんたは弟、私は姉よ?」
これだけはぜったい譲れない。
「私はゴッドだぞいくら姉とはいえど譲れん!」
「あーらなにがゴッドよカッコつけちゃって」
自分から神だと主張している時点で負けよ。
相手に気がつかせないと。
「二人とも喧嘩はやめてよ!星の世界が一つでなくたっていいじゃない」
「ブロッサリー、相変わらずのいいこちゃんだわね」
母は悪気はないのだろうが、時々言葉を誤る。
「私が先に作るからその後にならあんたも作っていいわよ」
「いやだね!!」
その時の私は、こんな些細な喧嘩で弟が歪むなんて、想像もしていなかった。
「また模造の五界に行っていたのね」
「僕が天界で何をしようと姉上には関係がないだろう?」
成長して少しは落ち着いたと思ったら、すぐ挑発に乗るんだから。
ギスギスした私とシェゴルダンの雰囲気に耐えかねてか、ブロッサリーは下界のシュメウールで細々と暮らしている。
「天界の…マーベル?所詮はあんたの造った星から生じたものでしょ?」
「自分を棚に上げますか?そんな無駄口を叩く暇があるなら
ドールハウスで人形遊びでもしていなさい」
一見冷静、しかし上手い言葉が見つからない様で、苦し紛れにそう言ったのだろうが、神は元来暇なのだ、暇など貶しにもならない。
「ええそうよ私、暇だから
あんたも暇だからお姉様みたいにお人形遊びしているものね?」
「わあ本当だ、姉弟仲良しですね。」
“こいつ、いつか世界ごと潰す”
弟との言い争いにつかれて、晴らしに私は密かに宇宙の惑星の地へ降りた。
「クレイシニーさまああああああ」
なにやらすさまじい勢いでこちらに向かってくる人間の男。
緑がかった青い髪、長身――――かつてどこかで見たことがある。
「おまえは…テンノウジカイト?」
名前はうろ覚え、年も違うから姿も違うのだが、一応面影はあるようだ。
「そうです!今はテラネーと名乗ってます」
「……間をとってカテラと呼ぶわ」
「女神様に名前をつけていただけるなんて……嬉しいです!」
十年前にまだ小さかった彼がこんなに成長しているとは。
人間にはさほど興味はなかったけれども、人には珍しい髪の少年だから記憶していた。
「クレイシニー様はここで何を?」
「気分転換よ」
しばらく話すと、テラネーは宇宙船で別の星へ移動した。
「人間に構うなんて、堕ちたものですね姉上」
「シェゴルダン、暇なら大好きな天使とイチャイチャしたら?」
「……」
シェゴルダンは去った。
「こんにちは、クレイシニー」
「カルロイカ……」
髪がセンサーのようにうごめく眼鏡の男神がゴルダーンのヤオヨルズ地区から飛んできた。
「相変わらず姉弟仲が悪いようですね」
「むこうが先にけしかけてきたのよ」
神は己の自我に忠実、売られた喧嘩には相応に返すのが神らしさなのだ。
「我は、慎ましい女神が好みだ。そなたも慎ましくあれ」
ニイハウ地区の男神、黄亭だ。
「あっそ」
そなたの好みなど知るか。
「慎ましい姉様など、女神クレイシニーではありません」
末弟神〈まつていしん〉のシュメイルだ。
「そうよね、さっすが私の可愛い弟~」
「では俺はこれで……!」
抱き締めようとしたら、シュメイルが逃げ出した。
「……恥ずかしかったのかしら」
「クレイシニー。私にもして頂戴な」
母女神マスヴェイユは腕を広げて待っている。
「ええ、母様も大好きよ」
「ふふふ…」
「ずるいではないか私にも」
父神カミュレットがチラチラこちらをみている。
さしづめ家族団らんというところか。
―――いつかまたシェゴルダンやブロッサリーともわかりあえたらいいのに。
■双子神来る
「クレイシニー!」
「クシャード、パルメチカ!」
近くに住んでいる双子神の兄妹だ。
「えへへ~遊びにきちゃった!!」
―――見た目は小さいけど、この二柱は100年単位で存在する。
「また増えたな……」
「あ、ゴッドだ!」
「小さいのにちゃんと敬うなんて、偉いですね」
シェゴルダンがカンシンしてめずらしく機嫌よく笑った。
シェゴルダンは気むずかしいので話し掛けるのはやめよう。黙っていても喧嘩になるし。
「では私は戻ります」
シェゴルダンは飛んでいった。なにしにきたのよ。
■女神拐われる?
ドガアアアアアアン”
――――けたたましい騒音。いったいなにごとだろう。
「クレイシニー様!!」
「え!?」
この人間は帰ったはずでは、なぜここにいるのだろう。
「僕と一緒にここから出ましょう!!」
「なにを言って……」
テラネーが銃を片手に私の手をつかもうとする。
――――しかし、すりぬけた。
当然、人間は神に触れることはできないのだから。
「クレイシニーは渡さぬ……去れ人間よ」
カミュレットが杖をふると、ゴルダーンの入り口が開き、テラネーは強制的に追い出された。
「もう大丈夫、さあこちらへいらっしゃ……」「クレイシニー~!」「大丈夫~!?」
マスヴェイユが優しげに手を伸ばすと、双子の兄妹が私に飛び込んできた。
「ええ大丈夫よ」
「よかった!!」
「……ふふ」
マスヴェイユはうつむいたままこの場を去る。
■死した魂を救う
―――私を呼ぶ声がした。
あちらの世界でテラネーの命が尽きようとしている。
《カテラ―――》
「……クレイシニー様」
傷だらけの男。その周りは死体の山と、ひどい有り様だ。
《人間よお前は私のいる世界、ミーゲンヴェルドへ行きたいと、真の心からそう思うか?》
《はい》
魂をこちらの世界へうつすことを望んでいるのか。
愛することはないであろうがせめて慈悲として救ってやろう。
魂はゲートから、異なる宇宙を粒子が飛び交いゆく。寄り合わせたそれは変わらぬ姿だ。
しかしどうしたことか、やはり神と人間は隔たれる。
私は天界に意識を戻した。カテラはこれから人間界で暮らすことになるだろう。
「クレイシニー、なぜお前を拐おうとした人間をミーゲンヴェルド界へ連れて来たんだ」
カミュレットは特に怒っているわけでもない様子で問う。
「ただの地球に住まわせておくには勿体無い人材だったのと珍しい私を呼ぶ声が聴こえたから」
「そうか」
そういうとカミュレットは去った。一体なんだったのかしら。
何度も言うけど、神は暇だ。人間は学校で勉強をするか仕事するかだが、創造神は空間に人間を配置する世界を適当に形作るが仕事ではなく遊びの一貫、創造力は生まれながらの素質でしか育たないため、人間のように勉強も仕事も不要なのでやることがない。
母女神マスヴェイユが部屋でなにかやっているようだから暇潰しがてら見行こう。