表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
template romance story …  作者: 篶椰
序章 落ちたのは異世界でした
7/8

第7話 別れは再会の予感


「...あ〜」


凝り固まった体を解しつつ、固いベッドから降りる。

ここはマトルクのとある宿屋。

お金に余裕が無い俺は、ボロい代わりに安いこの宿屋に泊まった。

本当はもっと安い相部屋なんかもあったけど、流石に知らない人と一緒の部屋に寝るのは無理そうだったので一人部屋だ。


寝間着などないのでパンツ一丁で寝ていたが、寒くない時期で良かった。この世界に四季が有るかは知らんけど。


執事服を着て、寝癖を手櫛で整える。この部屋にはベッド以外のものはないので、当然鏡も無く、ほんとに整ったかは分からない。


残り少ないお金がちゃんとポケットに有るか確認し、部屋を出る。


「おはようございま...す...」

「...」


宿を出る前にこの宿屋の主に挨拶をするも無視された。

くそっ!挨拶もできない奴が宿主の所になんか二度と泊まるかっ!...と思いつつもそっと玄関の扉を閉める。


いや、宿主もめっちゃ怖そうな人なんだもん...。こんな事で喧嘩売ったと思われたらヤバイじゃん?


そのままそそくさとフォティアちゃんの泊まる高級宿屋へと急ぐ。


まだ朝早いというのに、道行く人の数は多い。

冒険者と思われる武装した強そうな人達の姿も見える。

道の真ん中を偉そうに闊歩しているので、俺は道の端を縮こまって歩く。目をつけられてカツアゲされたら俺の異世界生活は終わりを遂げるし...ってまたか。何だか最近神経質過ぎる気がしてならない。でもそのぐらいでいいのかもしれないな。ここは常識が通じない訳だし。

でも、被害妄想は大概にしないとね。



「シンジ!」

「あれ?」


目立たないように歩き、高級宿屋まで目前という所で声がかかる。

見ると、やはり声の主はフォティアちゃんだった。


「おはよう。早いね」

「うむ。おはようなのだ!」

「...なんかあった?」


俺の視線の先は高級宿屋、その前の人だかりだ。

何人かの煌びやかな服を着た人が従者っぽい人達に担架で運び出されている。周りには白衣みたいなのを着た医者らしき人の姿もうかがえる。流行り病だろうか?昨日のハンクさんも本当に病気だったのかも知れない。


「わかんない。けど騒がしいから宿から避難してた」

「そっか。フォティアちゃんは具合悪くない?」

「平気!それより早くご飯食べたい!」

「あれ?ここの宿屋、朝食付きじゃないの?」

「そうなのか?」

「...まあいっか。行こう」

「うむ。きっとシンジと一緒に食べる方が美味しいのだ!」


いや〜フォティアちゃんのこの笑顔の破壊力よ...荒んだ俺の心が浄化されるようだ...。

フォティアちゃんが居なかったらまじでストレスで胃腸炎ぐらいにはなっていたかも知れない...。

精神的には嬉しいが、金銭的には厳しいフォティアちゃんの申し出を受け、俺達は旨そうな飯を巡って彷徨う。


「いい匂い...やっぱり朝はパンか」

「そうだな。あそこのパンにしよ〜!」


香ばしい匂いに釣られて、美味しそうなパンが並ぶパン屋へ足を運ぶ。

ショーウィンドウに張り付いて、フォティアちゃんはどのパンがいいか選び始める。

俺はと言うと、パンを選ぶよりまず、値段を確認することにした。

店員は...優しそうなおばちゃんだ!気兼ねなく聞けるぜ!


「(あの...このパンは大体幾らぐらいですか?)」

「そうさね...大体――ぐらいだよ」

「へぇ...結構安いんですね」

「そうかい?こんぐらいが普通じゃないかね?」


なるほど、どうやらあんなに美味しそうなパンでもあんまり値段は張らないのか。

未だに文明レベルが理解出来ないな...。地球基準にしてはダメか。


「シンジ!これにする!」

「どれどれ?美味しそうだね。俺も同じのを貰おうかな」

「あいよ。それにしてもその口調。あんたら主従関係ではないのかい?」

「これは...色々あって着ているだけで執事な訳ではないので...」


やっぱり奇妙な関係に見えるよな...そろそろ服を変えたいものだけど...。収入が安定したらかな。

パン屋のおばちゃんは少し怪訝そうな顔をしたが、それ以上は聞かないでくれるようだ。


「そうかい。そういやあんたら聞いたかい?」

「なにをです?」

「その様子じゃ聞いてないようだね」

「はぁ...?」


おばちゃんが俺達のパンを袋に入れながらそう含み笑いをしつつ勿体ぶった言い方をする。

噂好きそうだしな、このおばちゃん。世間話についていけるほどこの世界のことを知ってるわけじゃないけど、情報収集は大事だし付き合うか。

今朝のことで噂になりそうな事は...あの流行り病のことか?


あ、フォティアちゃんが勝手に厨房に...。おばちゃんも笑って見てるし、大丈夫か。


「ついさっきお得意さんに聞いた話なんだけどね。遂に捕まったらしいのよ、あの〝蝕の魔女〟が!」

「魔女?」

「そうよ。しかもこの街の近くでね。どこかの騎士さんが捕まえたらしいのだけど、今この街に〝蝕の魔女〟と居るみたいね」

「そうなんですか。それは凄いですね...」


なんか全く話についていけないけど...取り敢えず当たり障りのないように返す。

なんだよ魔女って。やっぱり魔法使えんのかね。見てみたい。


「そうよね〜。その騎士さんは凄いわ。この街に〝蝕の魔女〟が居るのは怖いけど、捕まったならもう安心だね」

「ははは。そうですね」


どうやら〝蝕の魔女〟と言うのは相当な悪のようだな。こんな市井の人々にも嫌われるなんて滅多にないだろうしな。


あ、パンを作ってるっぽい人がフォティアちゃんと厨房から出てきた。

なんか焼きたてのパンをちゃっかり貰ってるし。


「おい、母ちゃんよ。そのパンはオマケだから金はとんなよ!」

「はいはい。ほんと父ちゃんは子供に甘いんだから...はい。まいどあり!」

「ありがとうございました」

「感謝するのだ!」


パン屋を出ると、早速袋から取り出して食べる。

中はフワフワでモチモチ、外はカリッと香ばしい。

地球のより美味しいんじゃね?


そんなこんなで食べ終えると、俺達は早速だが〝討伐隊〟へと

向かうことにした。

フォティアちゃんは迷宮に行きたいようだったけどそんな危険なとこには絶対行きたくないので却下した。


その途中、人通りの多く、広い道。十字路に差し掛かり、まっすぐ行けば討伐隊詰所や門が、右には迷宮がある中央方面に繋がっており、遠目には広場が見える。左は...暗い雰囲気の余り治安の良さそうな場所ではないな。


「そう言えばフォティアちゃんの騎士って今日帰ってくるんでしょ?宿で待ってなくてもいいの?」

「...う〜ん。フレアは怒ると怖いからな...まだ大丈夫だと思うけど...」

「そうなの?なら、待ってた方がいいんじゃない?」


フォティアちゃんは言われて気づいたようだ。

俺に着いていきたいけど、怒られるのは嫌なのか、立ち止まって頭を抱えて悩んでいる。


着いてきてくれるのは有り難いけど、そのせいでフォティアちゃんが怒られるのはな〜...と思いながらふと前方に目を向けると、人混みに紛れて見覚えのある服と横顔。


(ゼインさん...?)


あの白髪混じりの鈍色の整った髪、渋くて若ければ相当な男前だったことを予想させる顔、俺の着ているのと同じ執事服。

間違いなくリーゼリアの従者であるゼインさんだ。

一体何故...?


そうしている間にもゼインさんは離れていき、今にも見失いそうだ。

焦っているようにも見えたし、何かあったのかも知れない。

俺になにか出来ることがあるか分からないが、命の恩人であるゼインさん達の為なら俺は何だってする所存だ。

追って、話を聞いてみよう。


「フォティアちゃん、ごめん。急用ができた。俺は行くよ」

「え...?そうか...ならティアは大人しく宿に帰るかな...」

「ほんとにごめん!」


まさにショボーンと効果音がつきそうな程、悲しそうな顔をして、かぼそい声でそう言うフォティアちゃんに俺は謝るしかない。と言うか俺にはその程度のフォローしか出来ないし。


しかし、次の瞬間一点の方向に視線を向け、動きを止めると、フォティアちゃんは顔を驚愕に染めた。


「フレアっ!? 不味い! シンジ、ティアも急がなくてはならなくなった! またな!」

「え、あ、うん。また...ね...」


俺が別れの挨拶をいい終わる前に、走り出したフォティアちゃんは人混みにまぎれてみえなくなってしまった。

なんとも呆気ない別れだが、今生の別れということでもないだろうし、次にあった時にちゃんと話をすればいいだろう。

何より、俺はフォティアちゃんとはまた出会う気がしていた。


「さて...行くか...」


最早見えなくなってしまったゼインさんを追い、俺は走り出した。


*****


俺は人1人分程の狭い道を走り抜け、角を曲がる。すると前方に角を曲がるゼインさんの背中がチラリと見えた。


(またか...!)


俺は乱雑に建てられているマトルクの中心街の裏路地を必死で走っていた。


フォティアちゃんと別れた後、ゼインさんが消えた方向に進むと、割とすぐにゼインさんの姿を見つけることが出来たが、何故か追いつくことが出来ず、延々と追っているうちにこんな所まで来てしまっていた。

俺に追跡を辞めるという選択肢は無かった。なんか悔しいし、、ここまで来ちゃったのは男の意地だ。


と言うか恐らくゼインさんは俺に気づいている。

俺がギリギリ見失わない程度の距離感をずっと保っているから、流石に俺も気づいた。

なんでか知らないけど、人目につかない所に誘導したいのだろう。

そこんところはゼインさんを信用して、乗ってあげている。


暫く入り組んだ路地裏を追っかけ回していると、建物に囲まれた少し開けたスペースに出た。

そこにはゼインさんと地味なローブにフードを被った人物がこちらを見て立っていた。

2人...か...。


「シンジ様。お付き合い頂き感謝します」

「それはいいんです。それより、何かあったんですね?」

「おお、鋭いですね。こちらも切羽詰っておりますので話が早いのは有難いです」

「いえ...」


俺は二人が放つ独特の緊張感に呑まれそうになりながらも必死でそれを隠す。

これも男の意地だ。


「...ゼイン様。本当に話すのですか? 私はまだ信用なりません。それ以前に役に立つかも...」

「辞めなさい。私達が直接動けない以上、どのみち誰かに頼まなくてはならない。その場合、今一番この街で信用が置けるのはシンジ様。頼るしかないのです」

「...分かりました」


今ので確信した。ローブの人物はリーゼリアの従者のメイドであるフィスさんだ。


何かあったのは、やはりこの場にいないリーゼリアの事なのだろうな。

しかもそれはリーゼリア達が旅をしていた理由に繋がる重要な事。

彼女が何者なのかの根源に関わることなのだろう。

フィスさんのキツめの声と、ゼインさん程の執事が隠し通せないほどの動揺が俺にその事を暗示させる。


きっとこれを聞けば後戻りできない。


だが、俺は踏み込む。命の恩人だからって訳では無い。もっと単純に、俺はリーゼリアを救いたい。そう切に思った。


「覚悟は出来てます。聞かせてください。リーゼリアの事を。何があったのかを...!」

「...確かに、シンジ様の覚悟は本物のようだ。では時間がないので手短に話しますよ。リーゼリア様の事を...」


不定期更新ですみません。気まぐれで書いてるものですから...。


読んでくださった方ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ