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template romance story …  作者: 篶椰
序章 落ちたのは異世界でした
6/8

第6話 ストリートファイト

場所は門横の廃れた建物が並ぶ広い道。人通りもない絶好の場所。

今俺は強面でガチガチの体をしたヤクザのような見た目の〝討伐隊〟隊長のハンクさんと少し距離を取って構えながら向き合っていた。

危険が伴う仕事に耐えられるかどうかのテストでハンクさんと戦うことになってしまった。

勿論無手での勝負だが、体格が違いすぎて勝てるビジョンが全く浮かばない。

喧嘩のプロと少し空手を齧った俺では話になりそうも無いな...。

出来れば雑用だけで...とか言ってみたけどハンクさん曰く、雑用だろうと少しは戦えないと生き残れない...だそうだ。

改めて日本が恋しくなった...。


ちなみに最初、どの武器を使うか聞かれたが、俺が武器を使えるわけが無いので無手にしてもらった。

武器ありだともっと酷いことになりそうだしね...。


俺は左半身を前に出して左手を軽く突き出し、右手は鳩尾の横にして足を軽く屈ませる。

空手道の右利きの基本の構えだ。


ハンクさんは俺の構えを見てニヤニヤしながら我流っぽい喧嘩スタイルで構え、フォティアちゃんは俺達の丁度間ぐらいに立ってレフェリーっぽい事をするつもりのようだ。


「シンジ!ハンク!準備はいいな?」

「おうよ!」

「...あぁ」

「よし!始めだ!」


そう言ってフォティアちゃんが後ろに下がると同時に、ハンクさんは距離を詰めに来た。

俺は動かずに観察を続ける。


「おらっ!」

「...っ!」


走った勢いで大技をすると思っていたが甘かった。

ハンクさんは俺の近くに来ると素早く屈んでローキックを放ってきた。

俺は咄嗟に左足を上げて回避し、そのまま左足を跳ね上げてハンクさんの顔を狙う。


「うわっ!」

「へへっ!」


しかし、その足を右手で掴まれて引かれ、俺はバランスを崩されて前につんのめる。


「ぐ...ぅ...」


その隙をつかれ、腹にボディーブローを入れられた。

マジ痛い...無理...。


「どうした?その程度か?」


そのまま蹲る俺から離れてハンクさんはそんな煽り文句を言ってくる。

いや、俺は別にこんなことしたい訳じゃ無いんですけども...って言うかまともに喋れねぇよ。

やっぱこの人めっちゃ強い...。


「坊主!そこの嬢ちゃんにいい所見せるんじゃねえのか?」

「そうだシンジ!立つのだ!」

「...く」


フォティアちゃんが声を張り上げて応援してくれてる...あ、なんか力が漲ってきた...気がする。

俺は立ち上がって再度構え、ハンクさんの様子を伺う。

ん?なんかハンクさんやたらと汗かいてるな...なんでだ?


「よっしゃ来いや!」

「この...!」


今度はハンクさんが受けの姿勢なので、俺が攻撃を仕掛けに走った。

本当はカウンターとかの方が得意なんだけど、こういうのは理屈じゃない!と思う。


「はぁあっ!」

「ふっ...」


左足の上段蹴りを頭を下げることで難なく躱され、勢いをそのままに放った右足の回し蹴りもバックステップで躱された。

その後の上段二連突きも下段突きも後ろ回し蹴りも、受け流されたり躱されたりでまともに当たることは無かった。


ちょっとバテ気味になってきたので後ろに跳躍して距離を取ると、ハンクさんも汗をダラダラ流してバテているようだった。

そんなに動いてる様子は無かったけど...どうしたんだろう?


「ああ、クソ...ッ!俺も年か?こんなんでバテるとはな...」

「はぁ...俺は必死なんですがね...」

「...長く持ちそうにないし、決めさせてもらうぜ?」

「...あまり痛くしないでくださいね?」

「はっ!ぬかせっ!」


ハンクさんは姿勢を低くして背筋が凍るような笑みを浮かべて見せた。

どうやら大技を繰り出す気らしいが...。


「いくぜ...っ!」


そう言うとハンクさんは地面が抉れるほどの脚力で一直線に突進してきて、そのままの勢いで俺の鳩尾めがけて前蹴りをしてきた。


「ふっ...」


すかさず俺は左手を下ろしてハンクさんの足を殴るように下げながらバックステップ。

空いている右手でハンクさんの顎を狙う。


「しゃあこらっ!」

「ぶっ...!?」


しかし、その攻撃はハンクさんのクロスした腕で阻まれ、そのまま押し返されて見事にクロスチョップを顔面に決められた。


「終わりだぁ!」

「ぐはっ!」


そして、たたらを踏んだ俺の顔を掴まれて頭突きをかまされて、フラフラになった俺にハンクさんは腹に連打するデンプシーロールをし、腹を抱えて頭を下げた俺に踵落としを決めた。


「...」

「はぁ...はぁ...暑い...」


俺はボロ雑巾のようになり、地面にキッスしながら静かに涙を流す。

マジ容赦なさ過ぎだろ...軽くイキかけたわ...。

道場の師範や兄弟子でもそこまでやらな...くもなかったかもしれない。

そんな事より痛いわ...絶対鼻血出てるし、肺が機能してねぇし、脳震盪起こしてんだろ...。

大技と見せかけて確実に決めに来てるとこがタチ悪いわ...。


とかいつまでもグチグチ考えてるのもかっこ悪いので無理にでも立ち上がろうと体に力を入れるが、上手く力が入らず途中でふらっと倒れかける。

あれ...?やっぱ駄目だわ...意識が...遠く.........。







――ドクンッ.........







体の中で何かが波打つような感覚とともに体中に何かが浸透していく...。


その瞬間意識が覚醒し体に力が戻ったので、普通に立ち上がる。

そして、違和感を感じ取った。

妙に体が軽い...。痛みも...あまり感じない...。どうしたんだ俺?まさかさっきの頭に食らった踵落としでなんかおかしくなったのか!?


そう思いながら体をペタペタ触って唸っているとハンクさんとフォティアちゃんが近づいてきた。


「坊主...なかなかタフだな...あれだけやってケロッとしてられっと自信なくすぜ...」

「うむ!シンジにしては良くやったぞ!」

「ええ、俺も平気なのが不思議で...あとフォティアちゃん。それ褒めてんのか?」


ハンクさんは汗を手で拭いながら俺をじっと見つめてくる。

フォティアちゃんは俺の鼻血を布で拭いてくれている。


「なぁ。坊主に聞きてえことがあるんだが...」

「なんです?」

「妙にバテやすいのは年のせいかとも思ったがどうも違うようだしな。そこまで日が照ってる訳でもやけに暑いし...。坊主、なんかしたか?」

「へ?」


え?なになに?ハンクさんがやけにバテてたのは俺がなんかしたからだって?

じゃああれか!俺の内なる力は戦闘において相手の体力を削ぐ...みたいな奴ってことか?

なんか地味だけどされたら嫌な能力だな...。

しかしまあ、実感はないし俺がしたくてしたわけじゃないでしょ。うん。俺はしてない。


「いえ、なにも...」

「そうか...。うーん...」

「風邪で熱があるんじゃないですか?横になって休んだ方がいいですよ」

「...確かにそうかもな。悪いな今日はもう休むから明日改めて来てくれ。その時に詳しいことは話す」

「わかりました。お大事に」

「じゃあな、ハンク!」


怠そうなハンクさんが討伐隊の詰所に戻るのを見届けると、俺とフォティアちゃんは門の方へとぼとぼと歩き出す。


「まだ、宿に帰るには早いけど...特にすることも無い。フォティアちゃんはまだ帰らなくていいの?」

「うむ。ティアの騎士は明日まで帰ってこないから平気なのだ!」

「え!?今日中に帰ってこないの?」

「フレアはそう言ってた!」

「...そう言われてたのに門で待ってたの...?」

「本当は街を見回ろうとして偶然門に居ただけだ!」

「...そっか」


なんかちょー疲れたんですけど。肉体的に疲れた後に精神的に疲れると参っちゃうよ〜...。

...あんま肉体的には疲れてないな。男子三日会わざれば刮目してみよって感じ?三日も立ってないけど。


「じゃあ、もう少しで街回ってみる?」

「うん!行こ〜!」


そう言うとフォティアちゃんは満面の笑みをこちらに向けて、次の瞬間には走り出した。


「シンジ!ついて来い!」

「ちょっと〜!待て〜!...ってめっちゃ速い!?」


こうして俺達は再び街を散策しに行くのだった。


*****


2つの太陽のうち片方が沈み、もう1つが傾く頃。

俺はフォティアちゃんが取っているという高そうな宿の前に居た。


「へぇ〜ここが...やっぱりフォティアちゃんはお嬢様なんだな...」

「うむ!ティアは偉いんだぞ!」


そんなドヤ顔でふんぞり返られても、微笑ましいだけなんですけど...。


「それじゃ。俺は行くよ」

「む?どこへだ?」

「俺の取った宿にだよ」

「なに!?そんな事は許さんぞ!ここに止まっていけ!」

「え!?こんな得体の知れない男を同じ部屋に止まらせちゃダメでしょ!」

「え?なんでだ?ここは元々二人部屋を取っていたから大丈夫だぞ?」

「そういう事じゃなくて...」

「...シンジ。もしかしてティアと同じ部屋は嫌なのか...?」


先程までの元気はどこえやら。

いきなりしょんぼりとして悲しげに問われては、俺は戸惑いを隠せない。

ちょっ...!ヤバイ!今にも泣きそうなんですけど!?こんな往来で少女を泣かせたとあっちゃあ俺の身が...ってそんな事を気にしてる場合じゃねぇ!


「いやいや、俺が昼間にとった宿の宿代が勿体ないじゃん?俺ってば貧乏だからさ。そういうのも大事な訳よ!決してフォティアちゃんと同じ部屋が嫌なわけじゃないから!むしろウェルカムだから!」

「うぇるかむ...?」


そう!男性の約7割はロリコ...ゲフンゲフン。

ふぅ...パニくりすぎて危うく変な方向に行きかけたぜ...。


「とにかく!そうじゃないから!ね?」

「...なら。明日、朝に必ず来い!わかったな!」

「わかった。約束だ」

「絶対だぞ!?破ったら酷いからな!」

「あいよ〜」


何度も振り返りながら宿の中に入っていくフォティアちゃんを見送り、俺は自分の宿へと歩き出す。


静かすぎで落ち着かない...。

こんな初めての街で楽しく過ごせたのもフォティアちゃんのおかげだな...直接は伝えらんないけど凄く感謝してるぜ...。


そうして、俺は暗くなった道を変な奴に絡まれないように端っこをコソコソと歩いて、ボロくて安い今夜の宿へと辿りついたのだった。


あけましておめでとうございます。新年初投稿です。

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