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template romance story …  作者: 篶椰
序章 落ちたのは異世界でした
3/8

第3話 月夜の出会い


「眠れん...」


その夜、俺はベッドの上で冴えた目をどうやって眠りにつかせようかと思い悩むはめになった。


と言ってもまだそれ程遅くはない時間だ。

昼間がっつり寝たのと、灯り(ランタン)が勿体ないから早く寝てくださいとメイドのフィスさんに言われ、暗くなったら直ぐに部屋に放り込まれたのもあり、なかなか寝つけなかった。


それにしてもランタンじゃなくて魔法の光とかを予想してたんだけどな〜。

そういや、魔法を見たわけじゃないし、異世界だからってあるとは限らないか。


ちなみに風呂はあったけど、これまたフィスさんにリーゼリア様が入った浴槽に入れると思ってるのですか?と逆に問われて、執事のゼインさんに助けを求めると無言の笑顔で水入り桶とタオルを渡された。

俺は泣く泣く自室で体を拭いた。


そんなこんなで眠れないけど、かといってすることもない苦痛に苛まれることとなっている。


ベッドから窓を見上げると、カーテンの隙間から光が漏れているのに気がついた。

起き上がってカーテンを開けると青白い月が辺りを照らしているのが見えた。


眼下に広がる光景は月明かりに照らされた草原で、特筆すべきことは何も無い。

てっきり街の中に建っているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

遠くに森が見えるので、そちらから来たのかもしれない。


俺には月見をする程風情が分かる訳でもないので、すぐに飽きた。

視線を部屋に戻そうとした時、何かが動いたような気がしたのでそこに注視すると、人が歩いているようだった。

この屋敷に背を向けていることから、出ていった人であろうと推測し、背格好に見覚えがない為、例のリーゼリア様なのではないかと思った。


気がつけば俺は寝やすいように脱いでいた執事服を羽織って部屋を出ていた。


何故かわからないが逸る気持ちを抑えられなかった。

これを逃したら絶対に後悔すると、俺の宛にならない勘が訴えかけてきた。


広い玄関を抜け、扉を開けると、肌寒い夜風が頬を撫でる。

歩を進めると足裏を草が擽り、靴がないことに気づくがそのまま裸足で人影へと近づく。


目が慣れたのか、月明かりが照らしたのか、人影は1人の少女へと姿を変える。


――日蝕


パッと見た時に頭に浮かんだのはそれだった。


風にたなびく長めの金髪は月の光が当たらない部分が黒く陰り、当たる部分は黄金に輝いている。


丁度月の位置が少女に重なるようにあったので、黄金の輝きは綺麗な輪っかを作り出していた。


黒字に気品の漂う金の刺繍がされたナイトドレスも相まって、その印象を強く感じさせた。


でもこれじゃあ月蝕か?


「誰!?」


俺が惚けていると、気配を感じとったのか少女が勢いよく振り向いてきた。


可愛いというより、美しさが勝る、夜が似合う妖艶な少女だった。

深紅の瞳もなにやら危なげな雰囲気を醸し出す。

歳は俺より少し下ぐらいか?

まだ成長途中の肢体も十分魅力的に見える。


「あなたは...」

「驚かせてすみません。俺は慎司って言います。貴女は...」

「そう、シンジね。私はリーゼリアよ」

「やっぱり。リーゼリア様が俺を助けてくれたんですよね?改めて、ありがとうございました」

「別に、大したことじゃないわ。それより、その気持ち悪い話し方やめたら?様付けもいらない」

「え、話し方って...助けていただいたわけですし...」

「じゃあ、その恩人がそう言ってるのに、従えないっていうの?私は謙って欲しくてシンジを助けた訳じゃない」

「そ、そうか...」


あのきっちりした執事のゼインさんが様付けするくらいだから、生粋のご令嬢かと思ってたけど、なかなかお転婆なお嬢様のようだな。

いや、そもそもこんな何も無い場所で従者と3人って...ほんとに貴族なのか?


リーゼリアは再び、俺に背を向けて、月を眺め始める。

青白い月は、益々その蒼さを増して、不気味に見えた。


「...あんたは私から何か感じるものはない?」

「感じるもの?」


唐突で理解不能な問に俺は戸惑う。

この世界の人はは初めてあった人に印象を聞くものなのか?

しかし、感じるものと言うくらいだから、見た目のことじゃないだろうし...。


「...ないならいいわ。...そ...やっ...り...」

「え?」

「なんでもないわよ!」


もごもごと何か言ったようなので、聞き返すと、怒鳴られてしまった。

でもなんとなくだけど本気で怒ってる訳ではなさそうだ。

逆に嬉しそう...?


「で?あんたは何も覚えてないって言ってるみたいだけど。ほんとかしらね」

「...ああ。実際、何もわからないからな」

「ふ〜ん。そうみたいね」


その深紅の瞳で、俺の目を覗きこんでくるので少し焦ったが、嘘は言ってない、と思う。


このままじゃ色々と聞かれそうだし何か話題転換しないと...。


「月、好きなの?」

「...嫌いよ」

「...」

「ただ、外に出てみたかっただけだもの。月光浴なんて趣味じゃない」

「そっか...」


何かの重圧に耐えているようなリーゼリアを見て、俺はうまく言葉をかけることが出来なかった。

きっと、俺なんかでは予想もつかないような世界で必死に生きてきたんだろうな。

こんなぽっと出の馬の骨には、聞かせてくれないだろうし、聞く勇気もないけどな...。


「...私達のこと何も聞かないのね」

「...」

「いくら記憶がないからって変だと思わないの?こんな何も無い草原に古い屋敷、小娘に従者2人で居るなんて...」

「なぁ」

「...なによ?」


一気に捲し立てるリーゼリアにストップをかけて、クールダウンを謀らせる。

俺はリーゼリアの事情には首を突っ込める立場じゃないけど、この少女の力になって上げたいと思った。


「何をそんなに焦ってるのか知らないけどさ。もっと気楽にやろうぜ?」

「気楽!?あんた、何も知らないくせに...」

「俺は何も知らねぇよ。だからこそ何の柵も無しに話せんだろ?」

「...」

「俺は難しい話は分かんねぇからさ。もっと他愛もない話をしようぜ?俺にはそんくらいしかできないけど、少しは気も紛れるだろ?」

「はぁ。あんた、大馬鹿ね」

「なっ!酷くねっ!?」


俺の叫びも虚しく、リーゼリアは顔を背けてズカズカと屋敷へと戻っていってしまった。


別にかっこつけた訳じゃないけど、馬鹿はないと思う。

やっぱり、俺じゃダメだったのかね...?


ただ1人取り残された俺はつくずくこう思う。


もう、異世界わかんねぇよ...。


◇◇◇◇◇


「リーゼリア様?」

「うひゃっ!?」


屋敷へと急いで入ってくると、どこからか声がして思わず変な声が出てしまった。


「ゼイン!脅かさないでよ!」

「これは失礼いたしました」


薄暗い屋敷の中から私の執事であるゼインがいつもの執事服で現れた。


「おや?どうされましたかな?お顔が赤くなっておりますよ?」

「...!?。これは、そう。寒かったから少し走ったのよ!」

「そうでごさいますか?余り私共より離れることはしないで下さいよ」

「わかってるわ」


あーもう!あいつのせいで、ゼインに変な目で見られちゃったじゃない!

今日はもう疲れたし、早く寝よう。


「私は寝るわ。おやすみ」

「えぇ、おやすみなさいませ。先程より心身の硬さが抜けているようですので、心地よくお眠りになられますでしょうな」

「!?...ゼイン!」

「ほほほ。では失礼いたします」


私が本気で怒る前に必ず察知して逃げて、絶対私をからかって楽しんでるんだわ...。

明日の朝に文句言ってやるんだから!


それにしても、シンジ...結構面白い奴かも...。


◇◇◇◇◇


「起きてください」

「ぐはぁっ!」


翌朝、俺は再び最悪の目覚めを体験した。


「なんで殴るんですか!」

「その方が手っ取り早いので。なにかご不満でも?」

「い、いえ。ないです...」


フィスさんは相変わらず何考えてるかわかんないな〜。

無表情でその恐ろしい目を向けないで欲しい。


その後、朝食に呼びに来たフィスさんについて行き、食堂に顔を出すと、リーゼリアが席ついていた。


「あんた、何突っ立ってんの?席につきなさい」

「お、おう」


ん〜怒ってる様子はないし、少しは信用してくれたってことかな?

それよりもフィスさんから殺気を感じるのは何故でしょうか...?


「お待たせしました。有り合わせで申し訳ありません」


そう言って、キッチンからゼインさんがキャスターで朝食を運んできて、テーブルに並べ始めた。

あるのは2人分なので、ゼインさんとフィスさんは食べないのだろう。


「すみません。何から何まで...」

「いえ。私共は主人や客人を持て成すことに誇りを持っていますゆえ」

「いいから食べましょう。偉大なる自然に感謝を」

「いただきます」


朝食はパンとスープで軽く済ませると、リーゼリアがコホンと咳払いをして、注目を集めた。


「私達はまた浮魔車で移動することになるわ。そこで、シンジ。あんたをどうするか決めなきゃいけないわね」


そう言ってリーゼリアは俺を見つめてきた。


正直、ここまで親切にしてくれる人たちが他にいるとは思えないし、すがりたい気持ちもあるが、俺は男に生まれてしまった訳なので、かっこつけたいのは性なのだ。


「これ以上迷惑をかける訳にもいかないよな。なにかお礼でもしたかったけど、あいにく何も持ってないしな...」

「それなら...」

「でしたら、近くの街までお連れ致しましょう。街まで行けば、なんとかなるでしょう」

「そうですね。シンジ様は何でも屋にでもなって、一生雑用でもしてればいいです」

「あはは...。ではゼインさん、街までよろしくお願いします」

「承りました」

「...」


相変わらずフィスさんはきつい事言うな...。

ここはゼインさんの厚意に甘えて、街までは送ってもらおう。

よくある話しなら、そこで冒険者になったり、商人になったり、飲食店を始めたりするんだろうけど、俺には無理そうだし、ほんとに何でも屋にでもなることになりそうだな...。


リーゼリアは途中なにかを言おうとしたけど、ゼインさんに小声で何かを言われてからは仏頂面で口を噤んでしまった。


一体何を言われたのやら。


こうして、俺らは屋敷の裏に止めてあった浮魔車――ホバリング神輿に乗って最寄りの街へと向かったのだった。


読んでくださった方ありがとうございます♪

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