空瓶事件 09
アオヰコーポから川沿いの道に出て、川沿いを走り、住宅街の中へ入り、星願神社へと向かう。
小学生というのは本当に素直である。大人の言葉をそのまま受け取る。フタをプレゼントして、逆だと言われれば瓶を入れる。何も間違っていない。間違っていたのは僕の方だ。
神社に着くと、この前と同じように、ゆうと君がブランコに座ってゲームをしていた。
「ゆうと君」
「あ、並木のカレシ」
「だから違うって。そんなことより、瓶をプレゼントしたんだね」
「うん、喜んでたか?」
「ごめん、僕の言い方が良くなかった。いや、言うことを間違った。何かをあげたいときは本人に、その人に何が欲しいか聞いてみるっていうのはどうかな?」
「あんまり話したことないし」
ゆうと君は下を向く。
「じゃあ、僕も一緒に考えるよ」
僕はゆうと君の隣のブランコに座って考えた。ゆうと君と一緒に。あれでもない、これでもない、と言葉を交わした。そうしているうちにだんだん日が落ち、辺りが赤くなった。
そこに、ゆずかちゃんが現れた。ランドセルを背負っているので、おそらく、神森さんの家から自分の家に帰る途中にここに寄ったのだろう。
「弟のお兄ちゃん、遅いよ。なにしてるの?」
「……ちょっと考え事かな」
「そこどいて」
ゆずかちゃんに言われるがまま、ブランコから降りると、すかさずゆずかちゃんが座る。
「ゆうとくん、久しぶり」
「おう、並木。久しぶりだな」
「ゆうとくんだったんだね、牛乳のフタとかビンとかを下駄箱に入れたの」
「おう」
「わたしを、喜ばせたかったんだよね」
ゆうと君は頷く。
「わたしのこと好きなの?」
「いや、それは……」
「あのね、わたし、好きな人いるんだ」
「……そっか」
「だから、ゆうとくんの気持ちには答えてあげられないけど、気持ちはもらっておく」
そう言ってゆずかちゃんは微笑んだ。
「ゆうとくん、ありがとう」




