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空瓶事件 08 九月十一日 水曜日

 神社でゆうと君と話をした翌日、僕はいつも通り学校へ行き、いつも通り授業を聞き流し、帰りに洋菓子店でプリンとアイスを買って、神森さんの家にやってきた。


「よいしょ、よいしょ」


 僕が部屋に入ると、神森さんは小さなテーブルの上で作業していた。よく見るとボール紙を切ったり、穴をあけたりしているので、何かを作っているのだろう。いつもはほとんどの時間、大量のクマのぬいぐるみと一緒に寝転がっているので、こうして真面目に何かをする姿は新鮮である。


「何を作っているんですか?」


「よいしょ、こらしょ、どっこいしょー」


「神森さん」


「よいしょ、こらしょ……ん?」


「何を作ってるんですか?」


「んー、ないしょー。よっこらせ、どっこらせ」


 何を作っているかは教えてくれなかった。そして、適当に流されたことを考えると、よほど作業に集中しているということかなのもしれない。口で『よっこらしょ』と言っているので、そんな風には見えないのだけれど。さて、今日の晩ご飯は何にしようか。昨日のカレーが余っているのでアレンジしてカレードリアにでもするか。


 とりあえず僕は買ってきたプリンとアイスを冷蔵庫にしまう。


「神森さん、プリンとアイスを買ってきたんですけど、さすがに後にしますよね?」


「プリン! ワシはプリン食べるよ!」


「え? 作業はいいんですか?」


「プリン! プリン! プリン! ちょうどプリン食べたい気分だった!」


「わかりました。晩ご飯はもう少し後ですね?」


「はーやーくー」


 神森さんに言われ、さっきしまったばかりのプリンを二個取り出し、リビングへ行こうとしたときだった。ドアが開く音がした。そして、パタパタと足音が聞こえてくる。


 ゆずかちゃんだ。


「外国のお姉ちゃん! 弟のお兄ちゃん!」


「ゆずかちゃん、どうしたの?」


「これ見てよ! 嫌がらせ、ひどくなってるんだけど!」


 ゆずかちゃんはこの前と同じく大きく膨れた給食袋を掲げている。嫌がらせがひどくなった? 僕は昨日ゆうと君とちゃんとお話しできたので、同じことは起きないはずなんだけれど。酷くなったということは牛乳瓶のフタの量が増えたのだろうか。


「プリン!」


 神森さんは、ゆずかちゃんの来訪にはお構いなしにプリンを要求してくる。この人は本当にマイペースである。


「ていやっ」


 神森さんは待ちきれず、僕の手からプリンを二個とも奪い、食べ始める。


「もぐもぐ」


「神森さん、ゆずかちゃんが来ましたよ」


「もぐもぐもぐもぐ」


「神森さん」


「ん? ゆずりん、いらっしゃい」


 やっとプリンを食べるのをやめて、ゆずかちゃんに挨拶をする神森さん。しかし、またすぐにプリンに戻る。もう二個目を開け始めている。これはしばらく話にならないだろう。いつもと変わらないと言えば変わらないのだけれど。ほんと、神森さんはマイペースすぎる。


「ゆずかちゃん、何か飲む?」


「その前にこれを見て!」


 掲げた給食袋をぶんぶんと振るゆずかちゃん。そういえば、嫌がらせが酷くなったと言っていたんだっけ。そもそも、あれは嫌がらせではなかった。ゆうと君が、ゆずかちゃんを喜ばせようと思ってやったことだ。それを嫌がらせだと勘違いしていただけの話だった。また牛乳瓶のフタが入っていたのだから、ゆずかちゃんにその説明をしなくてはならない。


「ゆずかちゃん、牛乳瓶のフタは隣のクラスではお金として使われているみたいだよ。給食の余りとかレアカードと交換できるんだって」


「嫌がらせじゃなかったってこと?」


「うん。ゆずかちゃんを喜ばせたくてプレゼントしたみたい」


「そっか。けど、これは嫌がらせだよ」


「え?」


「いいから、見て!」


 僕は膨れている給食袋を受け取る。


 重い。見た目以上に重い。フタは紙でできているのでいくらたくさん入っていようと、ここまで重くならないはずだ。とりあえず、開けて確認を……瓶だった。入っていたのは、牛乳瓶のフタではなく、牛乳の空き瓶そのものだった。どうしてこんなことを――


 『異性……男の子からすれば女の子、女の子からだと男の子には、自分がその相手にしようと思った事の逆の事をすれば喜ばれる、らしいよ』


 僕だ。僕が逆なんて言ったから、フタではなく瓶を入れたのだ。僕は行為をやめさせるどころか、余計にわけのわからない方向へと導いてしまった。結果的にゆずかちゃんはこの前より怒っている。


「ゆずかちゃん、ごめん」


「え? どこ行くの?」


 僕は走り出していた。ゆずかちゃんの問いに答える間もなく、外へ出た。行く場所は決まっている。ゆうと君のところだ。

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