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空瓶事件 03
アオヰコーポの全ての部屋の鍵を閉め終えた僕は、二○三号室の台所で、少し遅めのお昼ご飯を作っていた。本日のメニューはうどん。この後、姉が来てケーキを食べるので、さらっと食べることがでて、なおかつ簡単にできるものにした。
神森さんはうどんを湯がいている僕に後ろからぴったりと抱き着いている。いつもはリビングでクマと一緒に転がって待っているのに、今日は少し様子が違う。
「み、も、た、ろ、う。はい」
「はい?」
僕の耳元で囁く神森さんに、僕は思わず訊き返す。
「み、も、た、ろ、う。はい」
そういえば、似たようなことを言われたことがある。それは約一年前のある日のこと。まだ僕が神森さんと出会って三週間くらいの頃。神森さんは僕に似たようなことを言っていた。そういえばあれは、あの事件の発端の日でもあった。そしてその事件の後、僕と神森さんは……。
僕はうどんを盛りつけ終え、神森さんを後ろにくっつけたまま、リビングへ向かい、ローテーブルにどんぶりを置く。神森さんを向かいに座らせ、手を合わせてから、自分もうどんを食べ始める。




