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花嫁事件 19

 一之瀬さんの残した文章をすべて読み終えて、書いてあったようにカセットをハンマーで粉砕した。

 ワタさんは何も言わなかったけれど、マリーさんは何事かと訊いてきた。僕は彼女の問いに、適当にそれっぽい理由をつけて誤魔化し、学校を出た。そしてそのまま寄り道もせず、家に帰ってきた。


 家というのは神森さんの家、アオヰコーポの二○三号室だ。僕と神森さんは数日前から同棲しているので、もうここが僕の家である。久美島に行っていたので引っ越しの荷物の整理はまだできていないのだけれど。まあ、約一年間半同棲状態だったので片付ける荷物の量は多くはない。段ボール二箱だけだ。


 リビングへ向かうと、神森さんがTシャツ一枚(プリントされている文字は愛の一文字だけ)の姿で大量のクマと共にごろごろ転がっていた。旅の疲れがまだ残っているのだろう。手にはお気に入りのクマ、『かんぞう』と『じんぞう』を持っている。


「かんぞう、ワシはつかれたよ……。『大丈夫?』きゃ、かんぞうかわええ! かかかかんぞうはー、かかかかわええなー」


「神森さんはすべてわかった上で協力したんですね。というか事前にある程度知っていた。違いますか?」


「じじじじんぞうもー、かかかかわええなー」


「神森さん、違うんですか?」


「……ん? 違わないでござるよ」


「明日奈さんや色部さんの気持ち、わかりますか?」


 明日奈さんへの愛ゆえに自ら死ぬということを盛り込んだ計画を立てて死んだ色部さん。その愛に応えるために、自らの愛を貫くために、色部さんの死体をバラバラにし、自らの腕も切り落として駆け落ちした明日奈さん。彼女たちはいったいどんな思いで計画を実行したのだろう。


「ぷるるるるるる」


 神森さんは唇を震わせる。そしてこう続けた。


「わからんちー」


 そう、わからない。愛を知り、他の感情を手に入れた神森さん。同じく愛を知り、他の感情もなんとなく知りつつあるはずの僕。そんな二人でも、今回の事件を起こした色部さんと明日奈さんの重すぎる行動と、その時の気持ちなどわからない。


 僕は真っ先にそれを神森さんに確認したかった。だから、単刀直入に訊いた。そして神森さんは僕の予想通りの答えを返してくれた。


「けど、あるを手に入れるためだったら、ワシはなんだってするよ」


 寝転がりながらも、碧い瞳で真っ直ぐ見つめる神森さんに、僕は「僕も同じです」と返した。

第六章、花嫁事件でした。せっかくの夏休みなので旅行、水着、殺人、な感じでお送りしました。思いついた当初は二人の花嫁というタイトルだったりしました。次もお楽しみに。

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