花嫁事件 04
僕らが案内された部屋は、玄関ホールにあった螺旋階段をあがって、二階の突き当りの部屋だった。リビングと寝室が分かれており、リビングは洋間、寝室は和室。この屋敷には大浴場があると聞いていたけれど、ちゃんとお風呂もついている。広さはリビングも寝室も十畳以上はあり、リビングには、小さなキッチンとダイニングテーブルまでついている。高級ホテルなんかに泊まったことがないので、よくわからないけれど、ホテルだったらかなりグレードの高い部類に入るだろう。
朝食と昼食は各自、好きなタイミングで食べれるよう、各部屋でメイドさんに持ってきてもらう仕組みなのだとか。中には食べない人もいるらしい。しかし、晩餐だけは全員揃って食べることになっている。晩餐までは何をして過ごしてもいいとのことだった。
僕と神森さんはお腹が空いていたので、すぐに持ってきてもらい、ダイニングテーブルで食べた。神森さん風に言えばもりもり食べた。ちなみに今日のメニューはカレーライス。ルーとライスが別々で運ばれてきて、メイドさんの小夏さんがライスにルーをかけてくれた。
小夏さんというのは僕ら専属のメイドさんである。滞在中、主なお世話は小夏さんがしてくれるそうだ。小夏さんは僕と同じくらいの年齢で、髪は神森さんのようにショートカットで、いろいろと親近感がわいた。
昼食を食べ終わると、僕はリビングの大きな窓のカーテンを開けてみた。海が見える。島の船着き場、広い海、そして奥に珊瑚半島、朝日ヶ浦が微かに見える。遠いのでなんとなくしかわからないけれど。とにかく、いい景色だ。よし、写真でも撮ってみるか。普段はほとんど使わないケータイのカメラ機能が役立つときだ。そう思い、ポケットからケータイを取り出して……あれ? ここ圏外なのか?
「神森さん、この島って圏外なんですか?」
「そだよー、言ってなかったっけ?」
振り返ると神森さんは水着姿で腰に手を当て仁王立ちしていた。水着は黒のビキニ。胸が大きい人が着ればセクシーなそれも、胸がほぼ平らな神森さんが着るとただの布である。しかし、胸以外のスタイルは抜群にいいので白い肌に黒い布がよく映えている。というか早着替えにもほどがあるし、なぜ水着なのか、わけがわからない。けれど、ここはあえてスルーしておこう。
「聞いてませんよ、これじゃ写真を撮っても送れないじゃないですか」
「ワシはここにいるからわざわざ送ってくれなくてもいいよ?」
「なんで神森さんに送るんですか。神森さん以外の人ですよ」
「そんな人いるでござるか?」
いなかった。僕には旅行先の写真を送り付けるよな相手が神森さん以外にいない。
「ほら……姉とか」
「あるたろうはまだ入院してるからケータイ見れないじゃん」
「いや……ワタさんとか」
「わたぬんは海を見ても何とも思わないよ」
「あ、そうだ! 桜さ――」
「うわきだ! ワシというこいびとがいるのに!」
「送りません、送りません。神森さんと一緒に居られるだけで幸せですよ」
「きゃあ! あるはかわええなー」
そう言って神森さんが抱き着いてくる。
「ちゅー」
目を閉じて唇を差し出す神森さん。僕はその唇に自分の唇を重ねる。
「えへへ……ある、すき」
「神森さん、好きです」
今度は神森さんから唇を重ねてくる。何度も重ねるうちに次第に僕らは互いの舌を出し、それを絡め合う。神森さんは僕の頭の後ろに手を伸ばし、顔を押し付けるように求めてくる。息が苦しくなってきたところで僕は彼女の口から自分の口を離す。
「……ところで神森さん、この屋敷の電話とかネットはどうしてるんですか?」
「ある、ちゅー」
「神森さん」
「……衛星通信だよ。衛星電話一個と、そこからネットつないだパソコンが一個だよ」
「いろいろ設備が充実してて、居心地がいい場所なのかと思えば、そういう面では不便ですね……で、どうして僕の服を脱がしているんですか?」
「ぬぎぬぎしましょうねー」
「神森さん、聞いてます?」
「はい、ばんざいして―」
言われるがまま万歳をする僕。
「神森さん」
「ぬぎぬぎー、ん? 今からプールだからだよ?」




