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再会事件 04 八月十日 日曜日

 昨日、桜さんと会って話してみても空白の一年間を思い出すことはなかった。かなり親密な関係だったようだし、茶古先生が次のステップと言っていたから可能性はあったのかもしれない。だけど結局、日記からの知識でカバーした状態のままだ。もしかすると七年前の河部ハーメルンのときのように一年分の記憶はこのまま戻らないままなのかもしれない。

 なんてことを考えながら、窓の外を眺めているとスライド式のドアが勢いよく開けられた。


「ちーっす! 元気になったんだって?」


「……まだ退院していないんだ……元気ではないだろ」


 唐突に部屋にやってきたのは茶髪サイドテールの女の子と、ワタさんである。夏休みなのに二人とも制服姿だ。そういえば昨日の桜さんも制服姿だった。

 ワタさんは僕が神森未守と出会う前からの友人なので普通にわかる。サイドテールのギャルはどこか見覚えがないわけではないけれど、記憶にない。日記の知識から推測するに、このギャルはマリーさんなのだろう。マリーさんとは一年生の頃からクラスメートだったらしいけれど、ちゃんと認識したのは桜さんと出会った頃と同じなので、記憶にないのは当然である。


「昨日、桜ちゃんに会ったんだってねー」


 マリーさんは小さな椅子に座って僕に話しかける。ワタさんはその横で立ったままタブレット端末をいじっている。


「はい、少しお話しました」


「そっかそっか、面会が許可されたって聞いて喜んでたからねー。元気になれてよかったじゃん。まあ、アタシたちはお見舞いというか、ちょっとした報告をしにきたんだけどね」


「報告ですか?」


「アタシたち、付き合うことになりました!」


「違う、契約だ。……お前は情報屋の助手になっただけだ」


「細かいことはいいじゃん、キスしたんだし、こうやってデートもしてるんだから」


 ワタさんは二次元の美少女にしか興味がない残念なイケメンだったはずである。それがギャルのマリーさんとお付き合いするまでになるとは。一年もあるとそんなこともあるのか。まあ、本人曰く情報屋の助手ということらしい。桜さんが作った探偵同好会のメンバーだからというのもあり、それで距離が縮まったのだろう。マリーさんは女子の中では顔が広い方らしいのできっとそういった面でもワタさんの助手には向いてそうだ。


「最近は仕事ばっかであんまりだけどねー。だってもうすぐだし」


 マリーさんは茶色い髪の毛先をクルクルと指で触りながら言う。


「もうすぐ?」


「あ、これは内緒なんだった。忘れて忘れて!」


 慌てて片手をパタパタと動かすマリーさん。


「……マリーは口が、軽すぎる」


「今のは口が滑っただけですー。ほんと、忘れていいからね!」


「わかりました」


 僕がそう言った後、しばらくの間沈黙が流れた。といってもワタさんは相変わらずタブレットでゲームをしていて、マリーさんはそんなワタさんにちょっかいをかけている。正確には僕が黙っただけだ。そして気が付いたら僕は今の状況を二人に説明していた。


「記憶……ってことはアタシの事も覚えてないわけ?」


 僕が簡単に話した後、マリーさんはまた自分の毛先触りながら言った。


「一年分ですから、マリーさんと親しくなってからの事は覚えていませんね」


「そっかー。でもアレでしょ、その日記だっけ? それのおかげで何とかなってるんでしょ?」


「あくまで知識なので辞書で調べるような感覚なんですけどね」


「アタシにはよくわかんないや」


 マリーさんはそう言ってワタさんの制服の裾を引っ張る。すると今まで黙っていたワタさんはタブレットから視線を外し、僕を見つめる。


「……お前は前から普通じゃなかったんだ。今の状態がどんな状態であれ……今更対応を変えるつもりもないし、お前もお前の好きにすればいい」


「……はい。ところでどうして二人は制服なんですか? 今、夏休みですよね?」


 昨日の桜さんも制服姿だった。もしかしたら登校日かなにかなのかもしれないと思ったのだけれど、昨日は土曜日で今日は日曜日だ。


「あ、コレ? なんか桜ちゃんが会うなら制服の方がいいって言っててさ」


「……普段から会っていた姿の方が……いいと判断したんだろう」


「どうして?」


 マリーさんは首を傾げる。


「……こいつの記憶がないからだよ」


 さすが桜さんである。見慣れない私服姿よりも制服の方が何か思い出すきっかけになるかもしれないと思ったのだ。だけど、それはあまり意味がなかったみたいである。


 その後、しばらく三人で話した後、二人は手を繋いで帰って行った。


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