再会事件 02 八月八日 金曜日
「なした?」
僕の様子を見に来た茶古先生は小さな椅子の上から僕の顔を覗き込む。
「……もしかして、もう読み終わったの?」
意外とあっけなかった。相談屋の活動記録なんて言うから、いろいろな案件について詳しく書かれた報告書みたいなものを想像していたけれど、実際は全然違った。どちらかというと神森未守と出会ってからの日記のようなものだった。もちろん、相談屋に持ち込まれた案件についても書かれていたのだけれど、それは本当に些細なものが多かった。よってメインに書かれていたのは神森さんとの日常である。そんなわけで、読むのに時間はかからなかった。そして、最後まで読み終わっても僕は僕のままだった。退行状態から今の状態になった時の様に次々と記憶がよみがえることはなかったのである。茶古先生の言う感情が伴った記憶は戻らないままだ。ただ、知識として空白の一年を埋めただけだった。
「知識として空白の期間を埋めました」
「私、少しずつって言ったよね」
先生は元の姿勢に戻り、呆れたように肩を落とす。
「僕なりにゆっくり読んだつもりなんですけど」
「はあ、また無理して。渡してから、まだ一週間しか経ってないんだけど」
「だから、無理はしてませんって」
否定する僕に対して茶古先生は軽く頭を左右に振ってから溜息と共に口を開く。
「……完全復活だわ」
「感情はわかりませんし、記憶が戻ったわけではないですけどね」
「はいはい、わかったから。したら、次のステップにいこうか」
そう言って茶古先生はカーゴパンツのポケットに両手を入れて立ち上がる。
「次のステップ?」
「家族以外の……もっといえば、相談屋の助手になってから出会った人達の面会を許可します」




