恋桜事件 04
会瀬川の東側、桜並木が広がる河川敷と並行して伸びる国道沿いには沢山の飲食店が立ち並んでいる。国道を走る車の運転手や自転車通学の学生などで賑わうその一角にある、格安が売りのファミリーレストランに、制服姿の探偵と相談屋の助手である僕がテーブル席で向かい合って座っている。
探し物をしているという探偵の桜さんはアイスティーをストローですすっている。
食べている間に僕は神森さんについて説明した。探偵まがいな活動をしている相談屋のこと、そこで僕が助手をやっているということ、たわいもない相談から探し物、都市伝説の調査など様々な案件を解決してきたこと、そして神森さんは物を見ればそれがどこにあるのか、他人を見ればその人がどのような悩みを持っているか、噂を聞けばその根源となる事象が何なのか、一発で言い当てることができる不思議な人だということ、ただしその言い当てる言葉は彼女の主観が反映されるため大概がヒントの様な表現になってしまうこと。などなどを、なるべくゆずかちゃんや僕の姉の話にならないように、僕が助手になった経緯や普段の主な依頼人がゆずかちゃんだということは伏せて話をした。
桜さんはハンバーグを頬張りながらも僕の話に耳を傾け、相槌を打ってくれていた。
アイスティーを飲みほし、一息ついた桜さんはグラスを置いて、口を開く。
「つまりその相談屋さんに相談すればすぐにわかるということですか」
「そういうことです」
「私の案件です」
「ですよね。出過ぎたことを言ってしまいました」
「早計です」
「え?」
「或江君がどうしても手伝いたいというのなら話は別です」
そう言って桜さんはテーブルの隅に置いていた中折れ帽を取り、被りながらまた口を開く。
「私は他の案件も抱えています。或江君がどうしても私に関わりたくて、その相談屋さんがあまりにも暇を持て余しているというのならこの案件について助言をしてもらってもいいとは思います」
探偵のメンツというやつなのだろうか。単純に助けてもらうのはダメらしい。しかし、言い方や頼み方はどうであれ、僕や神森さんが力を貸しても良いみたいなので安心した。
「そうですか。ちなみに何をお探しですか?」
「これです」
桜さんはブレザーの内ポケットからケータイを取り出して何か操作し始める。
「これを捜しています」
そう言ってこちら側に向けられた画面にはネックレスが写っていた。
シルバーのネックレスである。アクセサリー類には疎いのでそれがどのブランドの物とか、どれくらいの値段がするかは検討が付かない。けれどこれがペアの片割れだということは僕でも理解できた。チェーンの先の長細いプレートに星形の半分に割ったような模様が彫られていたからだ。そして、そのプレートはゴールドだ。対になるもう一つのプレートはきっとシルバーなのだろう。
依頼主は恋人からの贈り物を無くしてしまった人。というところだろうか。
なんにせよ、これくらいの物なら神森さんにかかれば朝飯前である。
「わかりました。依頼内容など詳しいことは聞かなくても、この写真があればヒントくらいはお教えすることができると思います」
そう言った後、僕と桜さんは連絡先を交換し、ネックレスの画像データを送ってもらった。普段の相談屋の仕事ならば報酬や対価をもらうのだけれど、これは忙しい探偵さんのお手伝いをしてあげるだけなので、その辺のことは桜さんに任せることにした。