爆弾事件 16
獅子戸君との長話に飽きてしまったのか、はたまた気が変わったのか、お腹が空いたので何かを食べに行ったのか、涼季刑事はどこにもいなかった。もちろん任務中なので飽きたとか気が変わったとか、何かを食べているとか、そういうことはないだろう。ないと思いたい。
僕は探偵ケータイではなく、もう一つのケータイを取り出す。探偵ケータイは未守さん専用で未守さんの連絡先しか入っていない。というか今も通話を繋いでいる。
今朝、登録したばかりの涼季刑事の番号へかける。
「もしもし、涼季さんですか?」
「ごめんなさい。赤ずきんの恰好をした怪しいやつを見かけたからつい追いかけちゃってたのよ」
「赤ずきんというと、トイレで女子高生を襲った犯人ですか?」
「確信はないわ。挙動がおかしかったから追いかけただけで、男かどうかはわからなかったし、途中で見失ってしまったし、収穫はゼロよ」
「そですか、では次の目的地で落ち合いましょう」
「たしかゲームセンターよね?」
「はい、ここにはゲームセンターが二つあるので、まずはスーパーマーケット内のゲームコーナーからあたってみましょう、そこになければ専門店街のゲームセンターへ行くということで」
「わかったわ」
というわけで、涼季刑事との通話を切り、次の目的地へ。
佐備ガーデンモール内のゲームセンターは三階の西端にある。朝一番に僕らがいた映画館付近の真下である。そして、スーパーマーケット内のゲームコーナーは東端の三階。僕は今二階にいるので、まず東端のエスカレーターで三階へ上がることにする。
東端のエスカレーター付近に到着すると、そこには吹き抜けから下の階を覗きこんでいる人がかなりいた。ここはちょうど東広場の真上だ。東広場ではこの後一時から、ふわりさんのミニライブとトークショー、そしてサイン会がある。たしか東広場のステージ前はCD購入者対象だったはずである。そして今は入場開始時間の十二時。つまり、一階に人が集まっており、CDを買っていない人たちは何が始まるのだろうか、と上から様子を伺っているということだ。建物の構造上、二階や三階からイベントを覗くくらいならCDを購入していなくても可能ということである。
そんなことを考えながら一階のステージを覗き見つつ、エスカレーターで三階へ。三階にも何人か下を覗いている人がいる。と、その中に見覚えのある後ろ姿を見つけた。
小さな体に腰あたりまである桃色のふわふわとした髪、服装は桃色のパーカーに桃色のプリーツスカート、靴下も靴も桃色。そんな見た目の知り合いは一人しかいない。
「花桃さん」
僕が後ろから声をかけると、花桃さんはビクッと反応し、ゆっくりとこちらに振り返る。
「……あ、見つかっちゃった」
「いや、あなたは僕がここで声をかけることも、知っていたんですよね?」
「うん、うん。わかってたよ。あっくんがこのショッピングモールで何をしているかも知っているしね」
「さすがですね」
「それほどでもないよー。あ、わたしがここにいること、先生には内緒だよ?」
「わかりました。でもどうしてですか?」
「先生には行くなって言われてるの。でも、嘘をついてこっそり見に来ちゃった。だから、ちょっとだけ見たら、すぐ帰るよ!」
「霧谷さんがどうしてそんなことを言うのかは僕にはわかりませんけど、そこまでしてここにいるということは、花桃さんも、ふわりさんのファンなんですか?」
「昔から好きだよ。あっくんは?」
「知っていますよね?」
「うん、うん。あっくんはこの前ふわりちゃんを知ったんだよね。どう? 可愛い?」
「はい、アイドルって感じですね」
「でしょ! ふわりちゃんは歌も踊りも素晴らしいの!」
「動画サイトで拝見しましたが、キラキラしていました」
「生もすごいんだよ! 見て! 今から……あっくんはお仕事中なんだったよね」
「はい、またの機会にします。花桃さん、あなたは僕が声をかけた理由もわかっていますよね?」
「うん、うん。わかってる。四つ目の爆弾はスーパーマーケットのゲームコーナーにあるよ」
「助かりました。もう一ついいですか?」
「それと、あっくんは全部の解除に成功するよ」
「花桃さんにそう言ってもらえれば、安心です」
僕の言葉に得意気に頷いた後、花桃さんは人差し指を口元にもっていき、髪を揺らしてポーズをとる。
「先生には、内緒だからね」