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爆弾事件 15

「お腹空かない?」


「まだ十一時半ですし、大丈夫です」


「或江君は大丈夫でも、私はダメ」


「刑事さんは普段からお昼にちゃんと食べることができないイメージですけど」


「忙しいときは我慢するわ。でも、お腹は空くの」


「今がその忙しい時だと思いますけど?」


「或江君がお腹空いたってことにして、食べようと思ったのに」


「それは残念でしたね。任務が完了したら食べましょう」


 二軒ある眼鏡屋さんのどちらに爆弾があるかわからなかったので、近い方から順番に調べることになり、二軒目の眼鏡屋さんのバックヤードで無事に発見することができた。そして、三つ目の爆弾の解除に成功し、四つ目の爆弾のヒントの解読を待っているところである。


「四つ目のヒントは『コイン』だよ」


「コイン? それだけですか?」


「うむ。それだけだよー」


「了解です」


 ここに来て急にヒントがヒントの意味をなさなくなってしまった。コインってここはショッピングモールなのだから、どのお店もお金だらけなわけで、さっぱりわからない。これは涼季刑事と一緒に考えるしかない。


「四つ目の解除に成功。これから四つ目へ向かいます。回収、お願いします」


「涼季さん、次のヒントは『コイン』です」


「心当たりは?」


「ありません」


「とりあえずここから出よう」


 涼季刑事に手を引かれ、そのまま店員さんに挨拶をして、眼鏡屋さんを後にする。


「コインといえばさ、私が河部署にいた頃の話なんだけど、私をよく助けてくれる同僚がいたのよ。普段は影の薄いやつなんだけど、どうしてか私のピンチに必ず現れるのよ。どうしてかわかる?」


「涼季刑事に好意があったから、とかですか?」


「私も最初はそう思ったわよ。でも告白してこないし、よく観察してみると、私が助けられたら、必ず当時の私の相棒がその同僚を褒めていたのよ」


「つまり、どういうことですか?」


「私が思うに、その同僚は私の相棒のことが好きだったんだと思うの。それで良いところを見せようと、私を助けてたわけ。だから、その同僚は私の相棒としたかったんじゃないかな? コイン」


「それはコインではなくて婚姻です」


「まあ、その相棒は婚姻済みの上司と恋に落ちてたんだけどね」


「その相棒って――」


「ゆきっぺすずっぺはいいコンビだったよ」


 僕の言葉を遮る形で、未守さんの声が耳元で聞こえた。やっぱり幸恵さんだったか。


「相棒だったというのは納得です。なんとなく二人は似てる気がしますし」


「そう? 自分ではよくわからないけど、あの子が好かれるのはわかるわ」


「暴走した時、止める人がいなさそうですけどね」


「そういう時は例の同僚の出番だったわね。で、コインの話だけど、単純に考えるとゲームセンターよね」


「確かにそうですね。それなら――」


「先輩もデートとは奇遇ですね」


 突然後ろから声をかけられ、振り返ると獅子戸君がいた。しかも制服姿だ。今日は休みだし、ここは学校ですらないのだけれど。もしかしたら学校に用事があってその帰りなのかもしれない。


「獅子戸君、僕はデートじゃないですよ。仕事です」


「そうなんですね、デートかと思いました」


「獅子戸君は誰とデートなんですか?」


「ボクは一人デート中なんで、相手はいないです」


「それはデートとは言わないのでは……」


「ボク、今週はモテてないんですよ」


「それは大変ですね。ところで制服姿なのは学校に行っていたからですか?」


「違いますよ」


「ではどうしてですか?」


「聞いてくれます?」


「手短にお願いします」


「任せてください」


 と、獅子戸君は真顔で頷き、軽く息を吸ってから、再び口を開く。


「夕波先輩なんですけど、デートに誘ってもオッケーしてくれないんです」


「はい? それと制服に何の関係が?」


「関係ないです」


「真面目に答えてください」


「なんか、今日もバイトらしくって、弟さんがイベントに参加しているのに、おかしくないですか?」


「確かに少しおかしいかもしれませんが、それだけバイトが忙しいということなんでしょうね」


「それで、僕が見に来たんですよ。制服なのは弟さんが僕の私服姿を知らないからです」


「そういうことだったんですね。つまり、獅子戸君はバイトで来れない夕波さんの代わりにゆうと君の仮装パレードを見に来ていたんですね。制服姿も、ゆうと君に見つけてもらうためだと」


「……」


「獅子戸君?」


「……はっ。今、一瞬意識飛んでました。ボク、一昨日から寝てないんですよ」


「寝てください」


「かしこまりやがりました」


「敬語の使い方がおかしいです」


「では、先輩はお仕事頑張ってください。写真も撮れましたし、ボクは帰って寝ます」


 そう言って獅子戸君はフロア内の人混みに消えていった。


「……あれ?」


 僕の隣で、獅子戸君とのやり取りを聞いていたはずの涼季刑事が、いなくなっていた。


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