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爆弾事件 14

 黒くて四角い物体。おそらく爆発物と思われる物体。その物体の表面のタブレット端末に『CLEAR』という文字が表示される。


「二つ目、解除成功しました」


僕は再び表示された数字の羅列をケータイで撮影する。


「三つ目の爆弾の場所のヒント、解読お願いします」


 アクセサリーショップ、ポップハート。この店のロゴマークには青色のハートマークがあしらわれている。まさに、『青い心を着飾る場所』というわけである。そして、僕の推測通り、爆弾はお店の裏の在庫に紛れて置かれていた。僕らはお店の人に事情を説明し、爆弾の解除に成功、現在、三つ目の爆弾の場所のヒントを未守さんに解読してもらっている、というわけである。


「さっきの子なんだけどさ」


ふいに、涼季刑事は僕に話しかけてきた。さっきの子というのは、トイレで倒れていたスタジャンの女子高生、折坂先輩のことだ。


「よっぽど怖かったんだろうね」


「捕まえてくれ、って言っていましたね」


 それにしても様子がおかしかった。涼季刑事が警察官だとわかった途端に声が大きくなっていたし、知らない人に突然襲われて、あそこまで必死に犯人を捕まえてほしいと訴えるだろうか? 詳しいことはわからない。涼季刑事が言う通り、本当に怖かったからなのかもしれない。それに、赤ずきんの恰好をした犯人が捕まるのも時間の問題である。


「爆弾の件で、このショッピングモールには刑事さんが何人か紛れているんですよね?」


「ええ、不測の事態に対応できるように配置されているわ」


「暴行犯も運が悪かったですね」


 僕がそう言った直後、耳元のイヤホンから未守さんの声が聞こえてくる。


「三つ目のヒントは『まみむねも』」


「ありがとうございます」


僕が涼季刑事にヒントを伝えると、彼女はにやりと微笑む。


「それは私にでもすぐわかるわ」


「簡単ですもんね」


 涼季刑事は僕の言葉に頷いた後、手首を口元へ。


「二つ目の解除に成功。これから三つ目へ向かいます。回収、お願いします」


 さきほどの女子高生の件があったからか、無線を使っているのが少し様に見える。などと考えていると、腕を掴まれる。


「じゃあ、行きましょうか」


 『まみむめも』の『め』が『ね』になっているので、めがね。これが答えである。これはただのなぞなぞだ。やはり犯人にとって重要なのは暗号のほうで、中身にはあまりこだわりがないらしい。

この佐備ガーデンモールには眼鏡屋さんが二軒あり、どちらも二階だ。僕らが今いる三階のアクセサリーショップからだと一度西の端に戻ってエスカレーターで降りた方が早い。僕らはハロウィンイベントで盛り上がるお店の前をイベントの効果でいつもより増えているお客さんにカップルのふりをして紛れ、来た道を戻り、エスカレーター付近にやってくる。すると、そこには先ほどはいなかった一団が待機していた。


 小学生である。お化けや魔女、カボチャの恰好をした、いかにもハロウィンらしい一団である。この一団がおそらく今日のイベントの目玉の一つ、ハロウィンパレードのちびっ子仮装軍団である。このちびっ子仮装軍団は佐備市と河部市の小学生で構成されており、各小学校から希望者が参加できる仕組みになっているらしい。たしかゆずかちゃんのクラスは話し合って全員で参加することにしたとか言っていた気がする。


 ちびっ子たちの前を通り過ぎようとすると、一団の中から黒い塊が僕に抱き着いてきた。


「お兄ちゃん!」


 マフィア姿のツインテール少女、ゆずかちゃんである。


「ゆずかちゃん、今は待機中?」


「うん、もうすぐ下でパレードだよ」


「なに、妹いたの?」


 僕の隣で首をかしげる涼季刑事に「いえ、友人の妹です」と説明する。


もちろん、ゆずかちゃんは未守さんの妹でもあるのだけれど、戸籍上はなんのつながりもないので、表立ってはこの表現が一番正しいだろう。


 すると、涼季刑事は僕に顏を寄せる。


「わかってると思うけど、任務のことは口外禁止よ」


「心得ています」


「でもまさか、或江君は小学生にまで手を出していたとはね」


「手は出していません」


 と、涼季刑事とやり取りをしていると、ゆずかちゃんが誰かを連れてやってきた。


「お兄ちゃん見て! じゃじゃじゃーん」


 ゆずかちゃんが連れてきたのは、お姫様の恰好をしている女の子だった。水色のドレスにブロンドの長い髪の上で光り輝くティアラはまさしく、プリンセスである。


「よう、久しぶり」


 プリンセスから発せられた言葉はあまりにも親し気でぶっきらぼうなものだった。というか、ゆうと君だった。夕波さんの弟にしてゆずかちゃんのボーイフレンド(仮)の彼は今回、お姫様になったらしい。


「わたしが守るんだよ!」


「それはもうマフィアじゃなくてボディーガードだよ」


 ゆうと姫の前で銃を構える姿はまさしくボディガードだ。もはやハロウィン感ゼロである。いや、マフィアの時点でハロウィン要素はゼロだったのだけれど。


「並木がお姫様にしてくれって言ったから仕方なく着てやったんだ」


「よく似合っているよ」


「嬉しくねえよ」


「あれ? みも姉は?」


 ゆずかちゃんは辺りをキョロキョロと見わたす。しかし、僕の隣にいるのはゆずかちゃんからしてみれば知らないお姉さん一人で、本来ならば来ているはずの未守さんはどこにもいない。


「急な仕事で来られなくなったんだ」


 なんとか爆弾の件には触れない様に僕が誤魔化すと、ゆずかちゃんは残念そうに「そっか」と呟く。


 その声を僕の耳のイヤホンマイクが拾ったのかはわからないけれど、未守さんが「ゆずりんに伝えて」と言ってメッセージを口にする。それを聞いた僕はそのままそれを声に出した。


「『必ず守るからね』」


「ん?」


 ゆずかちゃんは目を点にして首をかしげる。それもそうだ。まさか自分たちが人質に取られているなんてこのショッピングモールにいる人は誰も思わない。


「『終わったらマフィアの武勇伝聞かせてね』だって」


「りょぷかいでーす」


 元気に手を振るゆずかちゃん達と別れ、僕らはエスカレーターで二階に降りる。二階のフロアにたどり着き、しばらく歩いていると、僕の方が何者かによって軽く叩かれた。


「或江くん!」


 振り返ると、そこには桜さんとマリーさんがいた。桜さんはいつもの探偵スタイルにジャケットを着ていて、相変わらずの中折れ棒もしっかり装着している。

マリーさんは黒のレザージャケットにグレーのパーカー、ロングスカートという出で立ちで、こちらもチャームポイントのサイドテールは相変わらず。しかし、二人とも傷跡のようなフェイスペイントが頬にある。もしかするとシールかもしれないけれど。


「ちょっと、信じられないんですけど」


 マリーさんが髪をクルクルと指でいじりながら僕を見つめる。


「何がですか?」


「デートとかありえなくない?」


「違いますよ。この人は……えっとその……黒の探偵事務所の依頼人で、涼季さんです」


「ほんとに? なんか怪しんですけど」


 全く信じていないマリーさんに涼季刑事が一歩前に出て、頭を下げる。


「依頼人の涼季です。黒の探偵さんには探し物をしてもらっているんです」


 涼季刑事を見つめるマリーさん。そのマリーさんをニコニコと見つめる涼季刑事。


「……どうやら本当みたいね」


 信じてもらえたみたいである。嘘をついてしまっているのは申し訳ないけれど、爆弾のことは口外禁止なので仕方がない。


「ところでマリーさん、ワタさんは来ていないんですか?」


「急にやることがあるとかって言ってさー、なんか様子がおかしかったんだよねー。たぶん今も部室にいると思う」


「そうですか」


 ワタさんもマリーさんとのデートとしてハロウィンイベントを見に来ると言っていたので、てっきりいるものだと思ったのだけれど、急用なら仕方がない。それに関しては僕も人のことを言えない。


「で、桜ちゃんを誘ったってわけ。桜ちゃんの妹がパレードに出るみたいだし」


「と言いつつ、本命はふわりさんのライブなんですよね?」


「当り前じゃん。でも修学旅行前だし、買い物もしようかなーって感じ?」


「そうですか、楽しんでくださいね」


 僕が頷いていると、今まで黙っていた桜さんが口を開く。


「或江君、黒の探偵のお仕事ということでしたけど、その、お姉ちゃんは?」


 桜さんの疑問にこたえるべく、僕は右手でイヤホンマイクを指す。


「コーポから電話で指示を出してもらっています」


「そうなんですね、お仕事頑張ってください」


「ありがとうございます。ではまた」


 そう言って桜さん達と別れた僕らは三つ目の爆弾があると思われる眼鏡屋さんへと向かった。


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