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爆弾事件 12 十月二十六日 日曜日

 翌朝、アオヰコーポの二〇三号室、黒の探偵事務所に一人の女性がやってきた。その女性は黒のパンツスーツに茶色い髪を後ろで纏めており、ふわりさんのマネージャーだと名乗った。どうやら、ふわりさんの嘘は簡単にバレてしまったらしい。怒られているふわりさんの横で出かける準備を済ませた僕は、マネージジャーさんとふわりさんの三人で事務所を出た。マネージャーさん曰く、警察署で会議があるらしく、警察の方々と一緒に来たのだとか。僕は未守さんに爆弾処理の実行係に任命されているので、一緒に行くことになったのだけれど……、


 白のバンが停車していた。


 コーポ前の道は路地なのでそこまで広くないにもかかわらず、わざわざ建物の前に停車していた。さすがはターボ好きの朝見刑事も所属する国家組織、ドライビングテクニックがすごいのだろう。と、頭の中で考えつつ、僕らはマネージャーさんに言われるがまま後部座席に乗り、佐備市へと出発した。


 佐備市とは僕らが住む河部市の南隣にある街で、空港があることで有名なところだ。河部市との境には、今回ハロウィンイベントが開催される大きなショッピングモールがある。僕はもちろん、河部市に住む人間なら一度は行ったことがあるであろう場所だ。空港に関してもそうだ。空港近くの公園はデートスポットになっているそうだし、飛行機に乗るなら佐備市から乗るのが一番手っ取り早い。つまり、隣街だけあって、僕らの生活に深く結び付いている街というわけである。


 そんな佐備市はかつて、あーちゃんこと、花桃さんが住んでいた街でもある。河部ハーメルンの直後、あーちゃんは佐備に引っ越し、その三年後、両親を亡くした。その後、あーちゃんも死んだ。つまり、佐備市はあーちゃんが、僕の幼馴染み、天宮雨美が死んだ街なのである。まあ、実際には死んでおらず、花桃結花として北海道で活躍するのだけれど、それでも、この街はあーちゃんが終わった街なのだ。


 そう考えると、佐備市には何かと縁がある。さすがは隣街だ。

そして今回は、未守さんの幼馴染み、菜種ふわりさんのライブイベントと爆破予告。僕と未守さんは、ショッピングモール内に複数仕掛けられた爆弾を解除しなければならない。


 対策本部がある佐備警察署に、僕らが乗る白いバンが到着したのは、コーポを出発して三十分ほど経った頃だった。


 バンに乗っていたスーツ姿の警察官の方々とマネージャーさんに連れられ、三階の会議室に入った。会議室は思ったよりも小さかった。広さはは学校の教室一つ分くらい。中にいる刑事さん達も少人数で、だいたい十人ほど。これから会議が始まるのでみなさん着席している。そんな中、テーブルが並ぶ一番前、教室で言うと先生が立っている教壇の辺りに他よりも目立つ感じの人が座っており、入室してきたばかりの僕らに気付くと、立ち上がって近づいてきた。


 近づいてきたのは僕よりも背が低く、比較的若い刑事さんで、他の刑事さんが地味な色のスーツなのにその人はギンガムチェックのズボンにギンガムチェックのベスト、他の刑事さんと違ってジャケットは着ていない。髪は短めだけれど、整髪料で毛先を遊ばせている。いかにも美意識が高そうな見た目といったところだろうか。


「県警本部、捜査一課の真倉まくらです。今回の指揮を執ります。菜種さんは担当の者が詳しい話を伺います。マネージャーさんは前の席に座ってください。今日の護衛に関する段取りの説明が終わったら予定通り、お二人にはショッピングモールの方のリハーサルに行ってもらいます。お時間は取らせませんので、どうぞ」


 真倉刑事は淡々と説明し、ふわりさん達は奥へ。僕もそれに続こうとしたら、


「ガキ、お前はこっちだ」


 と、さっきまでのトーンとは打って変わって乱暴な口調で言う真倉刑事に首根っこを掴まれ、外に出された。ふわりさん達への対応とは大違いだ。


「あのブスは一緒じゃないのか?」


「ブス? 誰のことですか?」


「ある、スピーカーに切り替えて」


 未守さんが耳元で早口にそう言ったので、僕は探偵ケータイをポケットから取り出し、スピーカーに切り替えて真倉刑事との間に掲げる。僕と未守さんは朝に別れてからずっとケータイで通話を繋いだままにしている。なので、僕の右耳にはずっとイヤホンマイクがついたままになっていたりする。というわけで、リアルタイムでこちらの状況が未守さんに伝わり、耳元で指示が聞こえたというわけである。


「まこらん、おひさびさんだー」


 おひさびさ、ということは未守さんとこの真倉刑事は知り合いということである。おそらく黒の探偵が大活躍していた頃の話だろう。


「おお、ブス。会議に来ないとはいいご身分だな。まさかもう現場にいるってことはないよな?」


「いないよ。ワシはおうち」


 そう答えた後、未守さんは今までの経緯と今回の僕らの作戦について簡単に説明した。今は力が使えないこと、解読には高性能のマシンが必要なんだということを包み隠さず話していた。それに対し真倉刑事は、捜査は彼をはじめとする県警本部の人間と佐備署の合同で行うこと、いたずらの可能性もあるので、イベントは全て予定通り行うこと、爆発物処理班にはすでに協力要請を出していると説明してくれた。というか、僕がガキなのは良いとしても、未守さんにブスは失礼すぎる。いくら昔からの知り合いだとしても、口が悪すぎる。


「爆弾の解除だが、こっちの人間を一人つける。ガキ一人でうろうろさせるわけにもいかないからな。バディってやつだ」


「相棒ですか」


「今日一日だけのな。……解除に関してはガキとブスがやれ。こっちから出すのはあくまで護衛だ」


「いいんですか?」


「犯人のご指名だからな。好きにやってみろ。力とやらがなくても、ブスがやるんなら間違いはないだろうしな。処理班はいつでも出せるようにしておく」


「了解しました」


「まとめると、爆弾はお前たちにひとまず任せて、処理班は解除済み爆弾の回収。こっちは犯人の特定と、警護、もしもの為の避難誘導ってとこか」


「よろしっくぴー」


「ああ、任せろ」


「ある、もういいよ。ありがとーる」


「ではイヤホンマイクに戻しますね」


 探偵ケータイを操作していると、真倉刑事に「おい、ガキ」と呼びかけられた。


「五月はデブが迷惑かけたな、悪かった。あれは警察学校の同期なんだよ」


 五月というのは僕が朝見刑事の企みで誘拐された件である。もちろんデブとは朝見刑事のことだ。そうか、真倉刑事は朝見刑事の同期だったのか。


「それと、七月は助かった。あの白いのには俺も腹が立っていたからな」


 七月というのは白の狂犬の逮捕を手伝った件だ。さすがは何人のも警察関係者を巻き込んできた白の狂犬である。朝見刑事も目の前の真倉刑事も仲間を失っているのだろう。


 そして、この真倉刑事は馴れ馴れしくて口が朝見刑事以上に悪いけれど、悪い人ではなさそうだ。こうして五月の件の謝罪と七月の件のお礼を言ってくれたのだから。


「あのデブ、また姿をくらましやがって」


「みたいですね。あの人はいつも単独行動ですから」


「そんなとこだけオヤジさんに似やがって」


「親父さん?」


 僕の質問に、耳元で未守さんが「オヤジさんっていうのは父親の事ではないよ」と答えてくれる。


「あさみんとまこらんは三偶寺塾の出身だからね」


「三偶寺というと、未守さんを探偵として独り立ちできるまで支えた刑事さんですか?」


「そだよ」


「その三偶寺さんが塾を?」


「俺もアイツもオヤジさんの下で働いてたんだよ。塾っていうのは言葉のあやだ。オヤジさんに教わった人間はみんなそう呼ばれてるんだよ。俺達はちょうど河部ハーメルンの頃だったな」


「そうだったんですね」


「ああ、その後、俺は出世街道をまっしぐら、あいつはオヤジさんのよくないとこばっか受け継いで今に至るわけだ。もっとも、あいつがおかしくなったのは白の狂犬が現れてからだがな」


「……」


「もう気付いていると思うが、今回の件、白の狂犬の可能性もある。その辺は警戒しとけ」


「了解です」


「そろそろ時間だ。じゃあな、ガキ、今回の相棒を呼んでくるからそこで待ってろ。あとブス、今度会ったら何か奢れ」


 そう言って真倉刑事は足早に会議室に戻っていった。これから会議が始まるのだろう。

真倉刑事に言われた通り、そのまま廊下で待っていると、一人の女性が会議室から出てきた。


「おまたせ、あなたが或江米太君?」


 声をかけてきたその女性の髪型は黒のワンレン、長さはミディアム。四角い黒縁メガネが印象的で、ふわりさんの変装メガネや、花桃さんの丸メガネとも雰囲気が違う。簡単に言うとしっくりきている。どちらかと言うと茶古先生に近い雰囲気だ。服装はグレーのスーツで、ボタンが何個か外されており、胸元の谷間が見える。スーツはスカートタイプで、そのスカートがまたピタッとしていて、腰のラインがはっきりわかる。全体的に色気がすごい。女性のスーツってこんな感じだったっけ?


 とにかく、この人が、真倉刑事がつけてくれた護衛、というか今回の僕の相棒ということらしい。


「はい、そうです」


「私は県警本部捜査一課所属の涼季都すずきみやこ、簡単に言うと真倉の部下ね。今日はよろしく」


「涼季刑事ですね。よろしくお願いします」


「今回の件は公にはなっていない。お客さんにバラたら大騒ぎになるでしょ? だから現場では刑事なんて呼ばないでね」


「わかりました」


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