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爆弾事件 11

 目が覚めた。


 銭湯から帰ってきた僕ら三人はすぐに寝ることにした。明日はふわりさんのライブイベント。ふわりさんは朝からリハーサルやら打ち合わせがある。僕らはふわりさんのステージの最中、爆弾を解除しなければならない。いくらお泊り会とはいえ、明日に備えることになったのだ。未守さんとふわりさんは本当にリビングで大量のクマのぬいぐるみと寝るらしく、僕は二人に「おやすみなさい」と言ってから、いつも通り自室で眠りについた。のだけれど、目が覚めてしまった。


 ケータイで時刻を確認すると、ベッドに横になってからニ、三時間しかたっていない。


 僕は水を飲むために静かに自室からリビングへ。電気が消された暗い室内には月明りが差し込んでいて、微かに辺りをうかがうことができる。寝ている二人を起こしてはいけないので、灯りは付けず、そーっと台所へ向かう。クマに埋もれている未守さんとふわりさんを踏まない様に、ゆっくり進んでいると、思ったより時間がかかってしまったけれど、なんとか台所にたどり着いた僕は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、乾いた喉を潤す。


「米太君」


 振り返ると、そこにはふわりさんが立っていた。月明りに照らされた彼女はお団子ではなく、髪を下ろしており、眼鏡もかけておらず、ネットで見たアイドルとしてのふわりさんの見た目に近い状態になっている。つまり、可愛らしい雰囲気をまとっている。そして、服装はふわふわとした素材のパステルカラーのルームウェアだ。未守さんはいつもTシャツやパーカーを部屋着にしているけれど、さすがはアイドル、部屋着までもが可愛らしい。


「起きていたんですか」


「さっきまでみもと話してたんだけど、疲れて寝ちゃったみたい。私は、なんだか眠れなくて」


「早く寝た方がいいですよ」


 僕はそう言ってミネラルウォーターを冷蔵庫に戻す。


「ねえ、聞いてもいいかな?」


「何ですか?」


「私のせい?」


 何のことは訊き返さなくてもなんとなく分かった。ふわりさんは、未守さんの力がなくなった件をずっと気にしていたのだ。だから、未守さんがマシンを使って暗号を解読しているときも、辺りをジロジロ見ていたり、床に座り込んだりしていた。


「違いますよ。前から少しずつ、答えを導き出すまでの時間が長くなってきていたんです。そして、ついに何も見えなくなるところまで来てしまった。それがたまたま今日だっただけですよ。……ずっと気にしていたんですか?」


「そりゃ気にするよ」


「そうですか」


「でも、前からだったんだね」


「はい、原因はさっぱりわかりませんけど」


「そっか。……ねえ、もうひとついい?」


「なんですか?」


「米太君はハーメルンの生き残りなんだよね?」


「はい、そうですよ」


「さっちゃんのこと、聞いてもいいかな?」


「たいしたことは話せませんけれど、それでもいいのなら」


「うん、それでいいよ」


 僕が話し始めようとすると、ふわりさんは手招きをして僕を引き寄せる。そして、二人でクマだらけの床に座って話すことになった。アイドルと月明りの下でおしゃべり。ワタさんやマリーさんが知ったら大騒ぎになるようなラブコメ事案である。しかし、話す内容にラブもコメも全くない。ふわりさんの幼馴染みの一人、未守さん達と出会うきっかけを作った少女、さっちゃんについてである。しかも、僕が一緒に監禁されていた倉庫での一か月の話だ。僕は殺し合いの件と、さっちゃんを刺したのは自分の腕だということは伏せて、主に監禁中のさっちゃんのエピソード中心に話した。笑顔を絶やさなかった彼女の話を、一緒に監禁されていた子たちを励まし続けていたことを話した。


 ふわりさんは僕の顔は見ず、ずっと前を見て話を聞いていた。


「僕が覚えているのはこれくらいですけど……」


 僕が話し終えると、ふわりさんは伸ばしていた脚を引っ込め、膝を抱える。


「……私は何も出来なかったから。さっちゃんがいなくなった日も、それからみもが解決するまでの一か月間も、それからも、私はあの子になにもしてあげられなかった」


「……」


「私がみもと出会えたのはさっちゃんのおかげなのにね」


「葵先生から聞きました。さっちゃんの鉛筆が折られた事件のこと」


「そっか、それも知ってるんだね」


「はい、ふわりさんは昔からアイドルみたいに歌って踊っていたんですね」


「昔ね、さっちゃんが言ってくれたんだ。ふわりちゃんならみんなを笑顔にできるって。だから私は本気でアイドルを目指そうと思った」


 僕にはわからない。ふわりさんと友達になろうと思ったさっちゃんの気持ちも、そのことに感謝していたのにさっちゃんのピンチに何もできなかったふわりさんの気持ちも、僕にはわかららない。でも……。


「何も出来てないなんて、そんなことないですよ。あなたはこうして本当にアイドルになった。きっとさっちゃんも喜んでいますよ」


「だといいんだけどね」


 そう言ったふわりさんの表情は月明りに照らされていて、綺麗だった。


「……聞けて良かった、ありがとう。さっちゃんが最後まで諦めなかったみたいに、私も諦めない。あんな脅迫状には負けない」


 ふわりさんは立ち上がり、僕の前に立って、両手を後ろにまわす。


「明日は二人で私のことを、会場のみんなのことを、しっかり守ってね」


「はい、任されました」


 僕が頷くと、ふわりさんは右手を自分の顔に近くにまで持っていき、ピースサインを横にして手の甲を見せるように、決めポーズらしきものをする。


「ふわりんレーザー☆」


「……なんですか、それ」


「え、知らないの!? いつもやってるやつなんだけど……」


「初めて見ました」


「……やだ、恥ずかしい」


 両手を顔に当てて恥ずかしがる彼女の耳は薄暗い室内でもわかるくらい、赤くなっていた。


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