確認事件 03
本当ならもう退院してもいいのだけれど、茶古先生が「ベッド余ってるし、もう一泊くらいしていきな」と病院というよりは自宅に招いた時のような発言をしたことにより、退院は明日の朝になった。そして僕はそのまま学校へ行くことになる。今日まで自由登校で授業はないので問題はない。病院から登校とか、かなり病弱な生徒みたいだけれど、体は元気だ。今年に入って三回も入院しているので説得力はないかもしれないのだけれど。
お昼すぎ、ワタさんとマリーさんがお見舞いに来てくれることになった。学校は休みなので、どうやらデートコースに病院を組み込んだらしい。
「ちーっす、元気?」
「元気じゃないから――」
言いながら僕の顔を見たワタさんは、きょとんとした表情になる。
「元気そうだな」
「はい、検査入院みたいなものですから」
「屋上でぶっ倒れてるのを見つけたときはびっくりしたけど、なんかあったの? 貧血?」
「まあ、そんな感じですかね」
「花桃結花と一緒にいただろ」
「どうしてそれを?」
「花桃が屋上に行くのを見たやつがいる。そしてその後、お前が屋上に行くのを見たやつがいる。それだけだ」
「さすが情報屋ですね」
「何があった?」
「七年前の記憶を取り戻しました」
「……そうか。花桃が転校してきた時点で、想定はしていた」
「安心してください、僕は相変わらず分からず屋のままですから」
「そのようだな」
「ってことは、記憶が戻ったショックでぶっ倒れてたわけ?」
マリーさんは毛先を指でいじりながら僕に訊ねる。
「そういうことです」
「それってそんなにヤバい記憶なの?」
「ああ、七年間と言えばお前でもわかるだろ?」
「アタシがムカつく男子に頭から牛乳をぶっかけてやった――」
「それじゃない」
「わかってるって、河部ハーメルンでしょ。アタシらの学校でもいなくなった子がいたとかで先生と集団下校したりして大変だったんだから。でも、なんで結花ちゃんが転校して来たらその記憶が戻るわけ?」
「こいつらは幼馴染みだ」
「それも知ってるって。で、或江は河部ハーメルンの被害者……ん?」
髪をいじる手を止め、真顔になるマリーさん。
「結花ちゃんも被害者ってこと?」
「そういうことだ」
「それはヤバい」
「それと、こいつの幼馴染みである天宮雨美は死んで、花桃は別人ということになっているから、あまり言いふらすなよ」
「それはもっとヤバい」
「どういうことか、わかったか?」
「わかったわかった。超わかった」
マリーさんはコクコクと頷く。
どうやら、マリーさんは今初めて状況が理解できたらしい。しかし、マリーさんのように表現するなら、もっとヤバい話がある。
その河部ハーメルンで行われていた子供同士の殺し合い、そして、僕はそこでさっちゃんを刺し殺している。厳密にいえばさっちゃんの自殺だけれど。
そのことを知ったら、きっとマリーさんはまた、ヤバいと言うのだろう。