炎上事件 21
夕波さんと一緒にステージまで戻ってくると、ちょうど文化祭の出し物の順位が発表され始めた頃だった。
結論から言うと、二年三組は優勝しなかった。桜さんのクラスの和装喫茶が一位。二位はバーガーショップ、三位は二人の桃太郎だった。三位以下は発表されないので、三年二組がどこまで奮闘したかまではわからない。落ち込んでいると思ったけれど、マリーさんはすがすがしい顔をしていた。
出し物の表彰が終わり、それぞれのクラスの代表者がステージから降りると、今度は実行委員の人たちがステージ上に集められる。マリーさんも足早とステージの方へ。
すると、後ろの方からこんな声が聞こえてきた。
「ほら、お前も行くぞ!」
「いや、ボクは実行委員じゃなくて」
「いいから行くぞ!」
「ボクはアメリカの……」
「アメリカの実行委員か。それでも実行委員には変わりないな!」
体格のいい実行委員の人に引っ張られる形で、獅子戸君もステージに上げられる。獅子戸君のややこしいアメリカTシャツは、実行委員の人でも区別がつかなかったらしい。というか、アメリカの実行委員ってなに。
ステージ上にずらっと赤Tシャツの実行委員が並ぶ。隅っこにアメリカの実行委員の獅子戸くんが申し訳なさそうに立っている。
「頑張って文化祭を運営してくれた実行委員に、校長から賞が贈られます!」
司会の言葉に、会場が拍手で包まれる。獅子戸君はどんどん悲し気な顔になっていく。実行委員長が賞状を受け取り、実行委員全員で一礼。もちろん獅子戸君も。そして、実行委員長を先頭に、ずらずらとステージから退場していく。獅子戸君は隅っこなので、最後尾だ。獅子戸君はスタンドマイクの前を通り過ぎるとき、何かを決心したかのように、両手で頬を叩く。そして、マイクを握った。
「突然ですが、言わせてください! ……夕波先輩、好きです! ボクとお付き合いしてください!」
会場が一気にどよめいた。そして、みんな夕波さんがどこにいるのかと、キョロキョロとしだす。司会者は真っ先に夕波さんを見つけたらしく、こちらにマイクを持って近づいてくる。会場は『へーんじ、へーんじ』と謎のコールで包まれる。
夕波さんは下を向き、小さな声で「ごめんなさい」と答えた。
司会者がステージに戻り、会場が『どーんまい、どーんまい』と、これまた謎のコールに包まれる中、獅子戸君はステージを降りた。そのとき、夕波さんはこれまた小さな声でこう言った。
「うちは獅子戸にふさわしくない。きっと獅子戸はうちを勘違いしてる」
何がふさわしくないのか、何を勘違いいしているのか、僕にはわからなかったけれど、こうして、まさかの事態を逆手に取り、自分のステージにして行われた獅子戸君の告白劇は、一目惚れから始まった恋は、幕を閉じた。ついでに文化祭も幕を閉じた。
この後は各自のクラスなどで軽く片付けをして、暗くなったら後夜祭だ。校庭で行われるキャンプファイヤーの周りをみんなで踊って終わりである。教室に戻る途中、ケータイに花桃さんからのメッセージが届いた。
『後夜祭が始まったら、南校舎の屋上に来てください。待ってます』
ついに花桃さんとちゃんと話をする機会が訪れた。桜さんが女の勘で、文化祭が終わってからだと言っていたのが当たったらしい。