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炎上事件 17

 無事にハンバーガーを買うことができた僕は、中庭のベンチでそれを食べた。中庭は昨日や普段とは違い、シートが敷かれ、その上にいろいろな品物が並べてある。ハンガーラックに古くなった制服もかけてある。そう、PTA主催のフリーマーケットの会場である。なので、僕は邪魔にならないように隅のベンチでハンバーガーを食べた。


 ハンバーガーは美味しかった。ファストフードのハンバーガーではなく、レストランで出てくるような感じのもので、肉もソースも高校の文化祭の模擬店のレベルではなかった。


 さて、未守さんを探しにいくとするか。ハンバーガーを食べる前にケータイに連絡を入れたけれど、繋がらなかった。なので、自力で探すしかない。探偵ケータイのGPSも、文月高校にいることはわかっても、敷地のどこにいるかまではわからない。


 未守さんが行きそうな場所……。


 腕を組みながら校内マップを頭の中に思い浮かべていると、中庭に何やら変な集団が現れた。その集団のメンバーは全員、何かのコスプレをしている。メイドにハチ、悪魔に魔女、ドラキュラに医者、季節外れのサンタクロースもいる。今日は文化祭なので、コスプレをしている人なんて珍しくはないのだけれど、それが集団で、しかも列を組んで、なにやら陽気な音楽と共に現れたら、それはもう、変な集団としか言いようがない。……そういえば、昨日、桜さんが持っていたパンフレットに仮装パレードなるものが書いてあった気がする。どうやらそのパレードが中庭にやってきたらしい。


 パレードは中庭を一周して、校舎の中へと入っていく。そうだ、パレードは確か校内中を練り歩く。これについて行けば未守さんに出会えるかもしれない。


 ということで、仮装パレードの最後尾に法被姿のお祭り男が加わった。陽気な音楽に合わせて踊りながら、飛び跳ねたりしながら、パレードは廊下を進む。出し物に使われている教室と教室の間に空き教室があった。ここは別の校舎の教室を複数使って迷路を出しているクラスの教室だ。その窓の向こうにギターを弾くボブカットが見えた。


 夕波さんだ。彼女はクラスの法被でもTシャツでもなく、いつも通りの制服姿。今日はいろいろな格好の人が溢れているので、制服が逆に新鮮に見える。


 僕は前に突き進むパレードを見送り、開けられた窓から声をかける。


「練習ですか?」


「うん、出番まであと少しだから、最後の確認」


「ステージ出るんですね。何時からですか?」


「二時から。或江、聞いてなかったの?」


「はい、今知りました。そういえばお兄さんもバンドをしていたんですよね」


「兄貴のこと知ってるんだ」


「とある人に教えてもらいました。天国にも届くといいですね」


「うちはたった一人に届けばそれでいい。今生きているあの人に届けば、それでいい」


 それは誰ですか? と訊こうと思ったら、一人の女子生徒がこちらに向かって廊下を走ってくる。僕が知らない生徒だ。リボンの色が僕の学年のものなので、もしかするとクラスメートかもしれない。そして彼女はそのまま、夕波さんがいる教室に入る。


「ゆうちゃん、新里しんざとがケガしたって!」


「え? ケガってどこを?」


「両腕、骨折した!」


「え、それじゃ……」


「演奏できないよ! もうすぐ本番だし、最初の二曲なら代役を頼めるかもしれないけど、さすがにオリジナル曲は今からじゃ間に合わないよ!」


 パニックになって叫ぶ女子生徒と、呆然とその声を聞く夕波さん。どうやら、バンドメンバーが当日に両腕骨折というまさかの事態が起こったらしい。これでは夕波さん達はステージに立てない。


 唖然としていた夕波さんは元の表情に戻り、口を開く。


「うちがベースを弾けば――」


 その時、教室の隅からガタガタと音がした。音がした方を見ると、掃除用具箱が揺れていた。しばらく揺れた後、ドアが開き、中から桃色の塊が飛び出す。


「それは一大事だね! でも、でも、わたし、いいこと思いついちゃったんだ!」


 わざとらしい。突然意外な場所から現れた花桃さんは、実にわざとらしかった。彼女はこうなることを知っていて、わかっていて、そこにいたのだ。そして、その解決策も、もうわかっているのだ。


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