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炎上事件 14

 午後一時。桜さんのクラス、和装喫茶に行くと、和装メイド姿ではなく、『にねんななくみ、みんななかよし』と書かれた淡い水色のクラスTシャツに制服のスカート、いつもの中折れ帽という組み合わせの恰好をした桜さんが出迎えてくれた。


「時間ぴったりですね」


「たまたまですよ。クラスTシャツ、似合ってますね」


「ありがとうございます。或江君もその法被、似合ってますよ」


「ありがとうございます。それじゃ行きましょうか。何か見たいものあります?」


「えっと……」


 言いながら桜さんが取り出した文化祭のパンフレットはたくさん付箋が貼ってある。


「もしかして行きたいところチェックしてきたんですか?」


「はい、或江君とデートするのは久しぶりなので」


「そういえば久しぶりですね。でも、デートという言い方はあまり良くないと思います。僕には未守さんがいるので」


「そうですね。でも、これはデートです」


「それでは僕が未守さんに怒られてしまいます」


「たまには怒られてください」


 桜さんはそう言って微笑んだ。どうして僕がそこまで言われなければならないのか謎だけれど、今日の桜さんはいつもよりテンションが高い気がする。これが文化祭効果というやつなのだろう。桜さんだけでなく、校内のすべての生徒が浮かれている。今日と明日はそんな日なのだ。


 桜さんと僕は、桜さんがチェックした出し物を見まわった。僕らと同じ二年生は教室内でのアトラクションをやっているのでそれを中心に、文化部の展示なんかも見たりした。お化け屋敷に迷路、フェイスペインティング、小説や漫画の展示、鉄道模型。といってもどれも教室の中には入らなかった。なので、正確には何一つ見ていない。どんな感じなのか外から眺めて、入るかどうかを決めてからにしようということになったからだ。


 一通り見終わって、僕らは中庭のベンチに座っていた。桜さんはパンフレットを見ながら、どこの教室に入るか悩んでいるようだった。


「桜さん、あれから柏木先輩とはどうですか?」


「……突然どうしたんですか?」


「この前、碌々台を通ったので思い出したんです。柏木先輩のことを。そういえばあの四月の事件以来、話を聞かないなって」


「そういうことですか。確かに私は酷いことをされたのかもしれません。クラスの友達も酷いと言っていました。けど、親友だったんです。親同士が仲良くて、子供の頃からずっと一緒だったんです。それがたった一回の出来事でなくなってしまうとは思いません。けれど、距離を置かれたままで……」


 ……そろそろ時間だ。


「桜さん、すみません。お腹の調子が悪いので、トイレに行ってきます」


「大丈夫ですか?」


「どうやらお昼に食べたオムそばがダメだったみたいです。それでは」


 僕は足早に中庭から出ていく。そして、そのまま二階に上がり、中庭が見える窓から下を見下ろす。ちょうど柏木先輩のポニーテールが見えた。彼女は園田先輩との待ち合わせのために中庭に来たのだ。すると、柏木先輩はケータイを取り出し、耳に当てる。


 それを見て、僕もケータイを取り出し、桜さんに電話をかける。


「桜さん、すみません。トイレが混んでいて、かなり時間がかかりそうです。あと、僕は一度お腹の調子が悪くなると次の日まで引きずってしまうので、トイレの後は保健室に行きます」


 僕は柏木先輩が電話口の園田先輩から言われているであろう言葉を口にする。


「文化祭は誰か他の人とまわってください」


「え、そんなことできませんよ」


「桜さん、楽しみにしていたじゃないですか。僕の分まで楽しんでください」


 電話を切った。僕はケータイをしまい、中庭の様子を見る。


 ため息をついた桜さんは顔を上げる。そして、ちょうど電話が終わった柏木先輩と目が合う。二人はなにやら言葉を交わしているように見えた。


「きっかけはつくりましたよ。あとは二人で楽しんでください」


 校舎の中へ入っていく二人を見て、僕はそう呟いた。


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