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炎上事件 12 九月十二日 金曜日

 文化祭本番を翌日に控える今日は丸一日、授業がない。所謂、前日準備というやつだ。朝からメインステージ、模擬店のテントの設営、調理器具の貸し出しに業者が入ったり、校門のところのアーチ、宣伝の看板、ビラなど、どんどんと校内がお祭り仕様に変更されていく日だ。生徒たちは一段とざわつき、あちこちでせわしなく動いている。そんな日だ。


 僕は朝から教室でせっせと飾り作りに励んでいた。今まであまり準備に参加できなかった分が少したまっており、マリーさんに急かされたからである。


 僕のクラスの出し物、ミニ縁日のメインはボールすくいや射的なので、飾りなんてあってもなくてもどっちでもいいと言えばどっちでもいい。しかし、マリーさん曰く「アタシらのクラス、一番取りに行くんだから、飾りもカンペキにしなきゃダメっしょ」だそうだ。僕は一番を目指しているなんて事実が初耳だったので、少し驚いた。


 ちなみに、全てのクラスの出し物は人気投票で順位が決められる。一位に輝いたクラスには学食一か月無料券というなんともありがたい賞品が与えられる。マリーさんは僕やワタさんと一緒に毎日食堂でお昼ご飯を食べているので、それはもう喉から手が出るくらい欲しいのだろう。僕はどっちでもいいのだけれど。


 そしてワタさんは、朝から姿が見えない。しかし、学校には来ているはずだ。ワタさんは授業や行事をサボることはあっても、学校に来なかった日はない。休日までいるくらいだ。では、どこで何をしているのか。それはもちろん、部室でゲームだ。昨日、新しいゲームがリリースされたとかで、「文化祭より美少女のほうが何倍も大切だ」とか言っていた。


 ワタさんが朝からいないことについて、マリーさんに指摘すると「ダーリンは当日宣伝してくれるからいいの」と返された。なんとも彼氏に甘い実行委員である。


 花桃さんと夕波さんも今日は朝から準備のために教室を出たり入ったりと忙しそうだった。もちろん、僕に話しかけたりはしてこない。もうそれは暗黙のルールみたいになっている。


 ある程度の飾りを作り終えた頃には、とっくにお昼を過ぎており、僕はマリーさんに許可をもらって休憩をすることにした。ちなみに今日から食堂はお休みなので、食べるのは学校に来る途中に買ったコンビニのおにぎり二個である。ワタさんがいる部室で食べようかと思い、ケータイを見ると、獅子戸君からメッセージが来ていた。


『ボクも頑張るんで、先輩も頑張りやがってください』


「……敬語の使い方がおかしいです」


 ケータイに向かってそう呟いた僕は、ワタさんにこれからそっちへ行くことをメッセージで伝える。と、目の前にマリーさんが立っていた。


「何ですか? 休憩して良いって言ってくれたじゃないですか。もしかして、もう休憩終わりですか?」


「違うっつーの。前見てみな」


 そう言われて教室の前方を見ると、ドアのところに桜さんが立っていた。桜さんはこの前言っていた和装メイド姿、えんじ色の着物に白いエプロン姿だ。いつもの中折れ帽は被っておらず、長い黒髪は後ろでまとめてある。


 桜さんの姿をじっくり見ていると、マリーさんが僕の背中を押す。


「早くいけっつーの、このAMO!」


「すみません」


 マリーさんに押し出される形で教室のドアまで辿り着いた僕は桜さんに声をかける。


「桜さん、急にどうしたんですか?」


「あ、あの今、衣装合わせをしていて、その……似合ってますか?」


 そう言って、少し顔を赤くしながらうつむく桜さん。


「とてもよく似合っていますよ。どこからどう見ても和装メイドです」


「本当ですか?」


「はい。嘘じゃないです」


「よかったです」


 桜さんは嬉しそうに微笑む。よく見ると桜さんの後ろには、同じ和装メイド姿の女子生徒が数人立っていた。彼女たちは小さな声で「いい感じ!」「並木さん、本題!」「桜頑張れ!」とそれぞれ言っている。どうやら桜さんの付き添いらしい。


「あ、あの或江君、二日目は柚香や家族が来るので忙しいんですけど、一日目は割とゆっくりできそうなんです」


「そうですか、それは良かったですね」


「あの、それでなんですけど、もしよかったら……一緒に文化祭を見てまわりませんか?」


「一日目ですね、良いですよ。店番は午前中なので、お昼からなら」


 明日と明後日の当番は一人二時間のシフト制だ。それ以外は自由にしていい。僕はクラスの出し物以外は何もないし、誰ともまわる約束をしていない。適当に一人でぶらぶらしようと考えていたので、何の問題もない。


「ありがとうございます! 私も午後からなら大丈夫です。では」


 桜さんはぺこりとお辞儀をすると、後ろで待っていたクラスメート達へ駆け寄る。彼女たちは「よかったね!」と言って桜さんを抱きしめていた。


 僕はそんな彼女たちの姿を見てから、ワタさんがいる部室におにぎりを食べに行った。

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