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炎上事件 09

 連続放火犯からのメッセージ。放火現場の頭文字をつなげると浮かび上がるメッセージ。それは頭文字は頭文字でも、アルファベットではなく、平仮名だ。


 僕はもう一度頭の中で、現場の地名と、その最初の一文字を思い出していく。大木、間口丘、榎本、本場町、湖崎、碌々台。


 頭文字は、お、ま、え、も、こ、ろ。


 この後に続く文字があるとするならば、『す』だ。それで文章は完成する。

 『お前も殺す』


 幸恵さんの言葉を思い出す。放火殺人。一件目の死亡者が火事に巻き込まれて死んだのではなく、放火魔に意図的に殺されたのだとしたら? そしてその後も放火を続けることで誰かに対して脅迫のメッセ―ジを伝えようとしているのなら? そうならば辻褄が合う。二件目以降が小規模の火災で済んでいるのは、大きくする必要がないからだ。僕の考えが正しければ、メッセージを作ることに意味があるので、被害者を出す必要はないからだ。


 そして、『す』がつく地名は河部市に一か所しかない。須加原すがわら。その場所は僕が住むアオヰコーポからほど近い住宅がいくつもある地域だ。


 僕は日付が変わる頃を見計らって未守さんに「寝付けないので、コンビニに行ってきます」と言って外に出た。未守さんはテレビを見ながら、「ワシのポテチも買ってきて。あんまり遅くなっちゃダメだよー」と言った。きっと未守さんには僕が外に出る理由はばれている。それでも、彼女は依頼を受けた探偵として付いてくるのではなく、同棲相手として、保護者として、僕にそんな言葉をくれた。


 未守さんに任せておけば問題はない。それはわかっている。けれど、一度気になってしまったものだから、僕はどうしても自分の推理があっているのか確かめたかった。


 徒歩で須加原の住宅地に着いたものの、放火されるのがどのゴミ捨て場なのか、どの空き地なのか、そこまではわからないので、しばらく辺りをふらふらと歩く。


 こんな時間に高校生が出歩くのは良いことではない。警察に見つかったら補導されるだろう。下手をすれば放火犯に間違えられるかもしれない。不審者を探しているはずの僕が、どう考えても僕が不審者になってしまっている。といってもこの辺は住宅しかないので、こんな時間に歩いているような人はいない。時間が時間なだけに灯りがついている家も少ない。僕はゴミ捨て場からゴミ捨て場までをゆっくり歩いていく。火が付いていないことを確かめ、次のゴミ捨て場へ向かう。


 角を曲がろうとしたとき、何かにぶつかった。


「きゃ!」


「すみません」


 ぶつかったのは人だった。黒のキャスケット帽に黒のパーカー、マスク姿の女性だ。


「すみません、それじゃ……」


 女性はそう言って足早にその場を去る。その時、肩から下げているバッグから何か、紙のようなものが落ちた。拾い上げるとそれは新聞の切れ端だった。内容は連続放火事件について書かれたもの。


「落としましたよ」


「はい? あ、ありがとうございます」


 女性はこちらに走ってきて、新聞の切れ端を受け取る。


「あなたも連続放火事件を調べているんですか?」


「そういうわけじゃ……も? あなたは調べてるんですか?」


「はい、個人的な興味と、探偵の助手として」


「探偵の助手……」


 その時、後ろから「火事があったぞ!」という声が聞こえてきた。僕がキャスケット帽の女性を見ると、彼女は頷き、声がした方へ走り出す。もちろん僕もだ。


 火災現場の付近のゴミ捨て場にたどり着くと、遅い時間にもかかわらず、かなりの人が集まっていた。人だかりの向こうに見えるゴミ捨て場からはかなり大きな火が上がっており、熱気がここまで伝わってくる。


 そんな火の隣で、電話をしている人がいた。どうやら第一発見者らしい。炎に照らされた顔は僕が知っている顔によく似ていた。


「……夕波さん?」


 必死に電話で話しているボブカットの女性は、夕波さんに見える。どうして彼女がこんな時間にこんなところにいるのだろう? 彼女の家はこの辺りではないはずだし、女子高生が一人で出歩くには時間が遅すぎる。


「あの……」


 隣から声がして、一緒にここに来たキャスケット帽の女性を見る。


「お話したいことがあるので、明日、会えますか?」


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