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炎上事件 02

 月曜日の午前中最後の時間は、担任教師が受け持つ教科の時間で、文化祭が迫った今日は、その話し合いに時間が使われることになった。そんなことよりも授業をしてくれ、と言い出すような生徒はあいにくこの学校にはおらず、むしろ合法的にサボれることもあり、クラスメート達はみんなかなり前のめりである。それもそのはず、この文月高校の文化祭は他よりも規模が大きいらしく、毎年かなりの盛り上がりを見せる。


 日程は二日間、今週の土曜と日曜だ。一日目は校内の生徒だけで楽しむ外部非公開の日で、二日目は誰でも入場できる一般開放の日になっている。元々は一日だけで一般公開されていたらしいのだけれど、あまりにも一般客が集まるので生徒が楽しむ余裕がなく、不満の声があがったことから非公開の日も設けられるようになったのだとか。


 ちなみに内容は野外ステージと中庭以外、二日とも同じである。なぜ野外ステージが例外かというと、それは一日目に校内の生徒だけの投票によるイケメン・美少女コンテストが行われるからである。あと、二日目には中庭でPTAのフリーマーケットも行われる。それ以外は同じだ。クラスの出し物も部活動の出し物も、二日とも変わらない。


 そして、出し物の内容は学年や部活動で大きく分けられている。三年生と運動部が外で食べ物や飲み物などの模擬店、二年生は教室を使ったアトラクション、一年生は体育館で劇、文化部は各部室で展示などをすることになっている。これらの情報は去年ほとんど文化祭に参加していなかった僕のために、ワタさんがまとめてくれた情報によるものだ。


 我らが二年三組の出し物は教室でのミニ縁日だ。射的やボールすくいなんかをやる予定である。

 

 教室の前方では文化祭実行委員の二人がそれぞれの作業の進捗をまとめている。男子の実行委員の名前はわからないけれど、女子の方はわかる。これは、僕が男子生徒の名前は憶えないのに女子生徒の名前は覚えるという偏った人間だからではない。正直クラスメートの名前は女子も男子もほとんど知らない。


 ではなぜ女子の実行委員の名前がわかるのか。それは、マリーさんだからだ。見た目は完全にギャルなのだけれど、中身は不良というよりはクラスの中心にいるタイプの彼女だからこそ、といった感じである。


 そんな彼女は、いつもの茶色いサイドテールを揺らしながら、それぞれの担当に話を聞いていく。男子の実行委員は完全にただの書記係になってしまっている。マリーさんは二学期が始まってから、文化祭に関してはかなり張り切っていた。実家が花火屋だからお祭り好きなのだろうか? 詳しいことはよくわからないけれど、彼女がワタさん以外のことでこんなにもいきいきしているのは珍しい。


 そのワタさんはというと、マリーさんと付き合っているからといって同じ委員になったりはしなかった。去年と同じく行事に積極的に関わったりしないマイペースなスタイルだ。今だって堂々とタブレット端末でゲームをしている。けれど、ワタさんと文化祭は深い関係がある。それは一日目のイケメンコンテストだ。去年、一年生にもかかわらず、あっさりと一位に輝いたそうだ。もちろん自ら立候補したわけではないのだけれど、その後、情報屋としての仕事が何倍か増えたらしい。つまり、良い宣伝になったのだ。おそらく今年も一位になることは間違いないのだろう。


 そのことを彼女のマリーさんがどう思っているのかはわからないけれど、きっと当日はそれどころではないだろう。実行委員として忙しいはずだ。今も教室の前方で頑張っている。ちなみにワタさんと同じく僕も行事に積極的に参加する方ではない。去年はもう未守さんのお世話をしていたし、あまり参加できなかった。今年も放課後とかに残って準備をしたりはできそうにない。僕には未守さんの食事を作るという大事な仕事がある。


「それでは次、衣装班お願いしまーす」


 マリーさんのその言葉に反応して、花桃かとうさんが立ち上がり、報告を始める。今日もふわふわした桃色の髪に桃色のパーカーが良く似合っている。どうやらそれらは、校則違反ではないらしい。まあ、マリーさんの茶髪とベージュのカーディガンが許されるような校則なので、不思議ではない。


 そして、ミニ縁日をするのにどうして衣装班があるのかというと、それはお揃いの法被はっぴを作るからだ。当日は全員それを着て縁日をするのだとか。衣装班は衣装を手作りするのではなく、デザインを決めて発注する係で、花桃さんの話によると無事に発注が完了し、文化祭前日までに届くことになっているのだとか。


 花桃さんが転校してきて二週間、彼女はすっかりクラスに溶け込んでいた。僕よりもよっぽど馴染んでいる。初めは有名な占い師であることで話題を集め、その後はちょうど準備が本格化した文化祭での係を率先してこなし、すっかり溶け込んでしまった。幼馴染みである僕としてもそれは嬉しい事である。といっても、僕は花桃さんと一言も言葉を交わしていない。最後に話したのはあの久美島の帰りの船だ。その後、幼馴染みだったことが判明し、僕のクラスに転入してきた。本来であれば幼馴染みであることを話題にして関わりを持ってもいいのだけれど、僕はそれをしなかった。


 理由は三つある。一つ目は、僕自身が幼い頃の記憶を失ったままなので、幼馴染みだと言われても実感がないということ。二つ目は、彼女が未守さんと似た力、しかも未来までわかってしまう力を持っているので、それを警戒しているということ、三つめは、向こうから話しかけてこないからである。クラスメートになったのだから、夏休みに一度会っているから、幼い頃に隣に住んでいたから、話しかけてきてもおかしくない。というか話しかけてこないのはおかしい。花桃さんの性格を考えても、二週間毎日同じ教室にいるのに話しかけてこないのは違和感がある。


 この二週間で彼女はすっかり二年三組の一員になったけれど、僕と彼女の関係は夏休みで止まったままだった。

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