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空瓶事件 11 八月二十四日 日曜日

 今になって思い出すと、事件と呼ぶにはほんの些細なことだと思う。それでも、あの頃の僕にとっては事件だった。黒の探偵の存在すら知らない頃だったのだから。それにファーストキスの大切な思い出でもある。


 僕はうどんが入っていたどんぶりを洗い終え、リビングに戻ってくる。目の前には床で大量のクマと一緒に転がる神森さん。あの頃は長かった金髪は今では耳が隠れるくらいのショートカットになっている。それは、僕と神森さんが白の狂犬を倒した証であり、僕と神森さんが『こいびと』から本当の恋人になった証である。……いや、もう神森さんじゃないな。


 僕はリビングに戻ってくるときに台所の隅から持ってきた紙袋を掲げる。これは午前中、洋菓子店に行く前に繁華街で買ってきたものだ。


「……未守さん、これプレゼントです」


「およ? ……おおおお! ある、今なんて言った!?」


 未守さんは飛び起き、僕の前で飛び跳ねる。


「プレゼントです」


「違う! その前!」


「未守さん」


「えへへ。あるが名前で呼んでくれたっぴー。……ん? なに持ってるの?」


「プレセントです。誕生日にあげたのはただの発信機だったので」


 僕がそう言いうと未守さんは紙袋から小さな箱を取り出す。


 中身はネックレスだ。二つのチャームがついたシルバーのもの。誕生日にプレゼントしたハートのやつは、本当にただの発信機だったので、リベンジという意味と、婚約の証という意味がある。婚約といえば指輪だけれど、高校生の僕にはネックレスで精一杯だ。


 未守さんは無言で中身のネックレスを僕に差し出し、背中を向ける。付けてほしいということだろう。誕生日のときは直接プレゼントを渡せなかったので、これもリベンジだ。


「ありがとーる。似合う? う?」


「はい。思っていた通り、よく似合ってます」


 そう言って僕は自分のTシャツの下に隠していたネックレスを見せる。


「……あと、お揃いです」


 僕と未守さんのネックレスは全く同じデザインのものだ。


 円形のチャームと棒状のチャームが付いているもの。円形のチャームには数字が刻印されており、棒状のチャームと重ねると時計に見える。意味は、同じ時を刻む。僕と未守さんはこれまでもこれからも同じ時を過ごしていく、過ごしていきたい。という願いが込められている。本当はハートでもよかったのだが、店員さんの説明を聞いて、これが一番しっくりきたのだ。


「あるとー、おそろー、ふふふー」


 嬉しそうに歌う未守さん。喜んでもらえて良かった。本当の恋人として、婚約し、同棲するにあたっての自己紹介、名前で呼ぶ、そして証であるネックレス。


僕と未守さんの新しい関係が改めてスタートした。

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