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姉よ。

姉よ。 (7)

作者: 荒城夢兎

 姉よ。

 そんなに怖いのに何故画面を見るのだ。


「わっ!! ちょ、まっ!! ひぃぃぃ!!!」

「…………。」

「来た来た来た!! 後ろ来たぞ!! ああっ!! ああ……はぁ……。」

「姉さん。 うるさいわ。 集中出来ないじゃない。」


 居間のテレビに繋がれたP〇3。 そのゲーム機の中にはHDリマスター版バイ〇ハザード。

 私の初〇イオはP〇2版の4からで、予ねてからプレイしたいと思っていた1が、リメイクされてP〇3に出たのだ。

 しかも、お年玉を貰ってすぐに、何か良い物はないかと近所のゲームショップに走った私。 そこで見つけたのはこのバイ〇。 中古ではあるが、なんとネットの最安値よりも安い2500円で売っていたではないか。

 私のお年玉は、父方のお爺ちゃんとお婆ちゃんから貰った一万円、それから父と母から貰った一万円だけなので、しっかり金策をしないとすぐに無くなってしまう。

 これなら、クリアしてすぐにオークションで売れば、私は数百円でプレイ出来るどころか、もしくは同金額で売る事も可能なのである。


 まあ、それは良いのだが……。


「うっわ!! 頭ぐっちゃなったぞ、ぐっちゃ。」


 姉がうるさい。 超うるさい。


「姉さん。 怖いなら見ないで頂戴。」

「でも、一人で部屋に行って漫画読んでる時、一階でこんなゲームがやられてるなんて、そっちのが怖いじゃん。」

「意味が分らないわ……。」

「そ、そうだ。 母さん帰ってくるまであたしとマリ〇やろうぜ。」

「一台しか無い3D〇でどうやって一緒にマ〇オするのよ。」


 ちなみに3〇Sは姉さんの物だ。 私は携帯ゲーム機を持っていない。 買って貰っていないのと、家族の共有物であるP〇3と2のソフトを買って遊ぶ方が効率的だと考えて居るからだ。 早く父さん4買わないかしらね。

  

「あたしが遊ぶから、お前が後ろで見てれば良いじゃん。」

「いやよそんなの。 なら姉さんがそこで〇リオやって、私がここでバイ〇やれば良いじゃない。」

「〇リオがゾンビになったらどうすんだ!?」

「ならないわよ。」

「〇ーチ姫が戦闘服着てゾンビ撃ち始めたらどうすんだ!?」

「姉さん。 落ち着いて。 ゲーム同士は干渉しないわ。」


 まるで敵を見つけた猫の様にフーフー言っている姉。

 いつもはここで大抵私が折れるのだが、このゲーム、とても私好みで面白い。 4以降は駄作とネットで言われているらしいが、成程、とてもホラー性が強いのだ。 

 その私好みのゲームで、しかも今、良い所なのだ。

 という訳で、やめない事にする私。 まあ、姉さんの声は無視して遊ぶしかあるまい。


「おわっ!! 犬来たぞ犬!! やばっ!!」


 画面の中の主人公に迫ってくる犬を、ハンドガンで撃つ。 銃の反動で銃口が上に上がっている間に、敵が近づいてくる恐怖感。 いいわね。 とても良い。


 と、犬を撃ち殺した後、その通路を進むと、長い廊下に出た。

 いかにも、何かこれから来ますよ、的な雰囲気の廊下だ。


「お、おい。 やめろ。 やめろ。 進むな。」

「無茶言わないで。 進まないでクリア出来る訳無いじゃない。」

「じゃ、あたし目つむってっから。 怖いの終わったら教えろよ。」


 そう言って、きゅっと目を瞑って耳を押さえる姉。 そして、小刻みにぷるぷると震えている。

 その時だった。 いつも姉の悪戯や行動に迷惑している私に、嗜虐心と悪戯心が手を組んで、こんにちは、と、やってきた。


 私は画面の中のキャラクターを動かして、前に進む。

 と、うぉあぁぁぁぁ!! と、声を上げて横からゾンビが襲い掛かって来た。 そのゾンビがプレイヤーキャラに上から覆い被さる様に掴み掛かる。


 ――――――よし。 ここだ。


 私は座って居る脚を伸ばし、右斜め後ろに居る姉の身体をその足でゆさゆさと揺さぶる。


「え? も、もう良いの――――――っぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 後ろから聞こえて来た悲鳴は、聞いて居るこちらが怖くなるくらいの絶叫。 全く持って素晴らしい程の達成感である。 私、ぐっじょぶ。

 自分でサムズアップしたくなる程見事に決まった。


「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!! あっ!!」


 …………ん? 何だ最後の、あっ!! っていうのは。

 私はゾンビを振り解いてハンドガンで撃ち殺した後、斜め後ろの姉を見る。


 …………。


 姉よ。

 何故顔を赤くして内股になっているのだ。


 まさか、高校二年生にもなって……漏らしたというのか……?

 なんという恥ずか――――――いやまて。 この流れは拙い。 非常に拙い。

 母にこの事を姉が正直に言えば、私には姉虐め(シスターアビューザー)の称号が与えられ、制裁も受けなければならないだろう。

 既に姉はOMORASHIの恥辱により半泣きになっている。

 ひっ、ひっ、と、息を吸っていて、まさに本泣き5秒前といったところか。


 いけない。 早くなんとかしないと、自分の名前の前に強制放尿女フォースドピーイングレディという変態的な肩書きも付いてしまうかもしれないわ。


「ごめんね、姉さん。 悪気は無かったの。」


 嘘です。 ほんとは滅茶苦茶ありました。


「こ、怖いの終わってから、って言った、ひっく、じゃんか……。」

「あれは、押すなよ! 絶対押すなよ! の、流れだと思ったのよ。 さ、立って。 母さんが帰ってくる前にパンツとスカートを洗って乾かしてしまいましょう。」

「あ……ああ。」


 私は、俯く姉の手を引き、その場に立たせる。 ちらりとフローリングの床を見て、どのくらい漏らしたのか様子を見てみたが、床は多少濡れては居るものの、フルおしっこ分までは漏らして居なかったようである。

 だからと言って漏らした事には変わりないのだが。

 姉のピンクのミディアムフレアスカートを後ろから見ると、お尻の部分がしっかり濡れて居た。


「あんま見んなよ!!」

「あ……えっと、ごめんなさい。」


 ついに恥ずかしさから怒られてしまったので、素直に謝る私。 証拠を隠滅するまでは下手な事は出来ないから仕方が無いわ。

 姉の手を引いて洗面所に連れて行くと、洗濯機の扉を開けて、姉にどうぞ、と、手で、濡れた衣服を中に入れるように促す私。

 すると、被害は靴下にまで拡大していたらしく、まずは靴下を脱ぎ、次にスカートを脱ぎ……ぐしょぐしょの白いパンツを脱ぐ。 それらを順番に、ていていていっ、と、洗濯機に放り込む姉。

 タートルネックの白いシャツにピンクのカーディガン。 下半身は、裸で裸足。 シュールね。

 と、寒いのか、身体をぶるりと震わせた。


「ちょっとトイレで拭いて来る……。」


 そう言って、下半身裸で堂々とトイレに向かう姉。

 紙で拭くよりも、下半身にシャワーを浴びるという選択肢は無かったのだろうか。 いや。 もしかしたらまだおしっこが体の中に残っていたのかもしれないわね。

 まあいいわ。 それが姉の選択ならば。 と、私は洗剤を入れて、少量スピーディモードで洗濯機を始動させた。

 後は、リビングの床を拭けばお仕舞い。

 と、洗濯機の横にある使い捨てタイプの紙を付けて使うワイパーを手に取り、リビングへと向かう私。


 ――――――その時だった。


「ひゃぁぁぁぁぁ!!!!」

「えっ?」


 またもや姉の悲鳴である。 トイレの方から聞こえたが……。

 なんだろう。 紙でも切れたのか? と、一瞬考えるが、トイレの横の棚に予備が入って居る筈だ。

 トイレの前に来て、扉のノブを回す。 姉さんはいつも鍵を掛けないので、今回もその例に漏れず、トイレに鍵は掛かって居なかった。 そして、遠慮無くトイレの扉を引き開ける私。


「どうしたの、姉さ……なっ!?」

「な、直美……た、たすけ……。」


 姉は、トイレの中に居た。 尻を――――――便器の中にすっぽりと入れて。

 今日に限って、父さんはおしっこをした後に便座を下げて行かなかったのか……。

 仕事初めで慌てていたのかもしれないわね……。

 まるで海老の様な格好ですっぽりと嵌ってしまっている姉。 どれだけ勢い良く座ったのだろうか、まるで自ら捻じ込んだのでは無いかというくらい便器と一体化している。

 ここで、問題が発生した。 一度海老という単語を思い浮かべてしまった私は、もう姉の事が海老にしか見えなくなってしまったのだ。

 ぼくのかんがえたもんすたー:便器海老(トイレットシュリンプ)。 一応メス。

 とくいわざ:とにかく色々ちっちゃい。 便器にはまれる。 


「ぶふっ!」

「な、何笑ってんだよ!! 早く助けろよ!!」

「笑って、ぷっ! ないわ。 んくくくくっ。」


 やばい。 怒って顔が益々赤くなって、更に海老っぽい。 長いツーテールがヒゲに見えて来た。

 下半身に何も履いて無いのが更にシュール。 まるで下を全部脱いで、わざわざ便器に嵌りに来たのかという嵌る気満々ぶりを感じる。


「姉さん。 ぶふっ!! た、助けてあげるから一枚写真撮って良い?」

「良いわけないだろ!! 何考えてんだよ!!」

「これは歴史に残る一枚になるわ。 ヒストリカルショットよ。」

「横文字にしたらなんかかっこよくなった!?」

「姉さんの結婚式のスライドショーの一枚に入れてあげるわ。」

「いらねーよ!! 人生の汚点をスライドショーにしてどうすんだ!!」


 散々笑わせて貰ったので、ここらへんで許してあげる事にする私。

 姉の前に立って、姉の腕を引っ張ろうと手を伸ばし――――――やめた。

 私の手を取ろうとした姉さんの手が、すかっ、と、空を切る。


「なんで引っ込めるんだよ!!」

「姉さん。 さっきパンツ触った時から手、洗った?」

「……まだ。」

「…………。」

「後でちゃんと洗うからさ! 助けてくれよ!!」


 そういう問題では無いのだが、また半泣きになる姉さんに、仕方なく私は手を伸ばした。

 遂に、私の手をがっしり掴む姉さんの小さい手。 ほっとした様な顔で私を見る姉。


「良い? 引っ張るわよ。」

「お、おう。 頼む。」


 よいしょ、と、私は姉の腕を思い切り引っ張った。


「ふぬぬぬぬ!!」

「いて、いてててて!! 腕抜ける!!」


 ……結果、抜けませんでした。


「〇ラシアン呼ぶしかないわね。」

「来るわけねぇだろ!! 人の事を便器に詰まったうんこみたいに言うなよ!!」

「こんなものが詰まってましたよ~って、作業が終わった後に詰まってた物見せるらしいわね。」

「下半身裸のあたしが見せられるのかよ! どんな屈辱だよ!!」


 それにしても、どこが(つか)えてるのかしらね。 と、姉の腰のあたりを覗いて見る私。

 ……ああ。 ウエストの部分までしっかり嵌ってしまったのか。

 前に引っ張ったら、丁度腰のところが便器の水が出るところに引っ掛かるのね。 斜め上に持ち上げるしか無いという事か。


「上に上げるから、姉さん便器の(ふち)に手を掛けて自分を持ち上げて頂戴。」

「こ、こうか?」

「そう。 いっせーの、せ、で行くからね。」


 私は前から姉の背中に手を回して、ぐっと力を込める。


「いいぞ。」

「「いっせーの、せ!!」」


 ぎゅぽん!! と、姉の尻が便器から抜け、私は後ろに態勢を崩して、とと! と、トイレの壁に背を付けて何とか引っ繰り返るのを堪えた。

 床に足を伸ばして、ぺたん、と、座る形になると、抱き締めた姉がとすん、と、私の太腿の上に落ちて来た。


「ぬ、抜けた……。」

「やった……んはっ……。」


 二人でハァハァ言いながら、達成感に酔い痴れる私達。

 ――――ドサッ。 何かが床に落ちる音が右から聞こえた。 そちらを向いて、音の原因を確かめると――――


「あんた達……トイレで……何やってるの?」


 買い物帰りの母が居た。 口に手を当てて、自分が見て居る物が信じられないといった様子の母。 

 下半身裸の姉が妹にトイレで抱き締められて二人でハァハァ言ってたら、そりゃそんな反応もするわよね。


「ちょっと直美におしっこ手伝って貰ってただけ。」


 姉よ。

 その言い訳は流石につらいと思う。


「あらそう。 今年は新年から仲良しなのね。 去年みたいにあんまり喧嘩しちゃダメよ。」


 母よ。

 言いたくは無いが、姉の頭が少々残念なのは、貴女の血のせいなのではなかろうか。

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