転移者たちの邂逅
なんとなく転移系です。
「ああ、もうなんだっていい、剣と魔法の世界に連れてってくれ。このクソッたれの世界はうんざりだ」
吉川肇は真夜中の停電で、不意にゲームを中断させられた。暗闇で切り取られたように見える窓の中の夜空に、ふと見えた流れ星に軽い気持ちで祈った。
突然の浮遊感の後、肇はそこが明らかに自分の部屋でないことに気付いた。先ほどの祈りを思い出して、まさか、と思う。ふと、他人の気配を感じた。
気配はしばらく此方を伺っていたが、よく来てくれたなと言うと、笑いを押し殺したような声をあげる。男だ。
肇は状況がわからず、恐慌をきたしかけていたが、勇気を振り絞って声を掛けた。
「貴方は神様ですか?ええと、僕は異世界へ行くんでしょうか?」
「俺は神様じゃない。それにここはもう異世界だしな。俺はお前と同じ日本人だよ」
男は、肇と同じ日本人だと言う。そして、色々と教えてくれた。
曰く、ここはノーデンス王国の首都で、その裏路地らしい。そして地球じゃない。まさしく肇が望んだ剣と魔法の異世界だというのだ。
「お前は元の世界が嫌だったんだろう?この現象にはそう強く願っている奴しか引っ掛からないと聞いた」
「僕がここに現れるのを知って、保護してくれるということでしょうか?」
これから始まるだろう冒険に、肇の期待は高まるばかりだったが、男はそれを否定した。
「いや、保護はできない。もう時間がない。それをやろう。この国の言葉での簡単な挨拶や、取引のやり方が書いてある。いくつかの注意点もな。ああ、日本語で書いてあるよ。少しだが金と、この剣もやろう。俺は日本に帰る」
餞別だ。そういうと男はすっと歩いて、影の中に姿を消した。漸く月明かりに慣れた目でよく見ると、暗闇の中に扉のようなものが閉じていくのが分かった。肇は茫然として男を見送った。
肇は男の残した袋を握り締めながら、だんだんと理解していった。上を見上げると、建物の間の星空の中に、流れ星が落ちるのが見えた。
今度の祈りは叶えられなかった。
次の扉の開く予定は30年後です。