チート転移
偉い人がニコニコして過剰な褒美をくれる、という時には警戒しましょう。多分手遅れだけど。
「僕は君たちの言うところの神様、というわけだ」
そう言うと目の前の少年は爽やかに笑った。
和田一樹は真夜中にこっそりとコンビニへと向かう途中、居眠り運転のトラックに轢かれた。痛みを感じる暇もない一瞬のうちに、この不思議な空間にいた。
「確かに怪力とか、そういう能力も与えることは出来るんだけどね。そういった力は人間の肉体には収まらないんだ。化け物に転生でもいいのなら、それでもいいけど」
不思議空間で出会った少年は、自らを神と名乗り、一樹の事故が彼のミスで、その死に責任があるという。その為に、異世界での新しい生を与えてくれるらしい。その上、特典もつけてくれるというのだ。
一樹は物語で読んだような展開に興奮していた。
「君の望みは分かっている。これでも神だからね。この新しい生で、君は二度と他人を恐れたりする必要はない。君には王者の力を授けよう。それは支配する力だ」
そうして新しい人生が始まった。
一樹の能力は、他人を支配する催眠のような能力だった。それは自動的で、一樹が眠っていても効力を発揮する。男も女も、動物でさえも彼に逆らえない。
瞬く間に出会う人々を次々に支配下に置き、やがて一国を、そしてその時代の既知の全世界を支配し、あらゆる美食と美女と贅沢を手に入れた。
最初は有頂天になってそれを楽しんだが、余りに簡単に手に入るそれらに急速に興味を失い、より苛烈な刺激を求めるようになった。それは残虐な光景であった。
一樹は孤高故の孤独に狂気に陥った。他人の心だけが、どうしても手に入らない。愛も憎しみも、如何なる感情も一樹の元には届かない。ただ人々は支配される。
彼は長命で百年弱に渡ってこの時代を支配したが、その間に人口は半分以下にまで減ったという。彼の治世の後も、混乱の時代が続いた。
「ギャラリーの皆さま、楽しんで頂けたでしょうか?では、次の劇をご覧にいれましょう」
どこかで悪魔の笑いが響いた。
暗殺しようにも、一樹さんを意識しただけで支配下に置かれるという、まさしくチート。
ミダス王の黄金の呪いと同じように、過ぎたる力は呪いでしかありません。