ゲーム世界転移
こういうのも一種のダークファンタジーだと思ってます。
気付いたらゲームの中にいた、と言うしかなかった。
それは彼、新居浩二が遊んでいたオンラインゲームとそっくりに似た世界で、後に彼はそれが似た、どころではないと言うことを嫌というほど知ることになった。
ゲームと同様にステータスを見たり、道具を異空間に収納したりできる。パソコンで操作するのとは違ったが、すぐにそれらの操作に習熟することができた。不思議な感覚だ。
「浩二、こんにちは!今日これから森に狩りに行くんだけど、一緒にどうかな?来てくれると心強いんだけど」
話しかけてくる彼女は、この世界に転移してから知り合ったヒーラーだ。これまでも何度もパーティーを組んでいて、互いに信頼しあっている。浩二はレベル99のタンカーでパーティーの構成に欠かせない役割だった。
レベル99はこの世界の人間が到達できる最大の強さだったが、それ自体は珍しくない。というよりは、大抵の人はレベル99なのだ。
「勿論いいよ、これから?」
「みんなまだ集まってないから、あちらでお茶でも飲みながら待ちましょう」
ゲームには料理や、飲食などの微細な動作が設定されていて、それもこの世界では再現されている。彼女――レシアという名前だ――と、街角に備えられたベンチに腰を下ろし、彼女が異空間から取り出したお茶を受け取る。お茶にはまだ手を付けずに、これから集まると言う仲間を待ちながら他愛もない世間話をする。
率直に言って彼女は美人だ。もっともこの世界の冒険者は男も女も大概美人なのだが。しかし、かつてディスプレイ越しに眺めていたキャラクター達とは異なり、自分自身の目で見ると、また違った感慨を受けるものだ。僧服を盛り上げる胸が眩しい。
が、浩二はレシアとの世間話をしながら漠然とした不安を感じていた。レシアとの関係に不安はない。出会ってまだ一か月ほどしか経っていないが、二人は周囲から似合いのカップルだとよく冷やかされている。多分、そのうち結婚とかするんだろう。
この世界での生活にもそれほどの不安はない。この世界では飢えないからだ。睡眠も必要ないようだ。汗もかかないから風呂に入る必要性さえない。ただ生きるだけならお金は必要ないのだ。第一死んでも生き返る。
では何が不安なのか。
浩二と違って、レシアや他の、おそらく全ての冒険者は、転移者ではない生粋のこの世界の住人だ。だから彼らは気付かない。浩二は気付いた。
例えば、鎧や服を脱いでも、下着を脱ぐことは出来ない。
例えば、劣情から彼女の胸を触ろうとしても、何故か触れない。体がそれ以上動かないのだ。キスやハグは出来たのだが、それはもともとゲームで機能として実装されていたからだろう。
例えば……。
「みんな来たようね」
いつの間にかいつもの仲間が集まっていたようだ。手に持っていたお茶を飲む。……いつものことだが、味はしない。代わりに多大な薬効がある。
「じゃあ、いきましょう。今日も大猟だといいね」
レシアがほほ笑みながら、こちらに手を伸ばしてきた。その手を握りながら思う。
今はいい。まだ、飽きてない。でもいつか。この歳を取ることも、死ぬこともできない世界で、いつまで俺は……。
死ぬこともできないと書いたけど、実際には死んでも生き返る、ですね。
個人的にはホラーの域。絶対体験したくないです。