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異世界ニート達の挽歌  作者: ななつかたばみ
1/8

農家転生

実験的に書いています。

 生まれて二年を経て、漸く転生したということを実感した時、宮崎信吾は歓喜した。不甲斐ない半生を送ってきた前世と縁を切り、新しい人生で栄光を掴むのだと。しかし、その歓喜は次第に薄れていった。


 彼は辺境の農家の家の五男として生を受けた。ケイ、というのが新しい名前だ。生まれて一年ほどの間は、意識は断続的で、夢と眠りを繰り返すようにして過ごした。次第にそれが落ち着いて意識が安定すると、自分の新しい肉体と、環境を知った。


 ヨーロッパ風の顔立ちの両親や兄弟、囲炉裏の火、木造の家の壁、そして聞き慣れない言葉。炉端からそれらを観察しながら、新しい生をどのように過ごすかを考えた。


 様々な事を試した。ゲームの様にステータスを見たり、道具を異次元に収納したりすることはできない。物を見ただけで、それの正体を知るような能力――前世で読んだ物語では鑑定とか言っていた――もない。魔法があるのかどうかは知らないが、両親や兄弟は使えなさそうだ。何一つとして特別な能力のないことに気付いて、彼は酷く落胆した。


 それでも、まだ諦めてはいなかった。魔法はあるかもしれないし、無かったとしても現代知識がある。それはきっと役に立つはずだ。こんな田舎でなければ、きっと……。



 ケイは周囲から見ると静かな、元気のない子供として見られたが、やがて早々に言葉を覚えると、手のかからない賢い子供と認識を改められた。五歳になると、農家の簡単な仕事の手伝いを始めた。農家の生活は忙しいのだ。そうして何時しか十五の歳を迎えると、ようやくケイにも諦めが訪れた。



 魔法はほとんど迷信であった。魔法について母親に聞いてみた時、なんて恐ろしいことを言う、とこっ酷く怒られた。魔物と呼ばれる存在が近くの森にいることを知り、魔物退治専門の仕事――冒険者――があるということも期待したが、それは兵隊の仕事なのだそうだ。


 何より、現代知識は役に立たなかった。役立てる機会がない、というべきかもしれない。計算の能力を披露する場もなければ、相手もいない。貨幣は存在するが、こんな辺境の集落にはほとんど流通がない。農業に関しても、ただの高校生の知識では歯が立たない。肥料にしても糞尿をただ撒けばいいというはずではなかった。


 都市に出ることも考えたが、歩いて七日もかかるという。住み慣れた集落を出る勇気はついに持てなかった。



 新しい土地の開墾に成功し、幾らかの土地を得て、近所の農家の娘と結婚した。彼の小さな幸運は、妻が割と美人であったことか。慎ましくも、平和な時代を生き、そして六十二年の人生を終えた。

 ケイは死に際して、神にただ平穏な眠りを願い、祈った。その願いは叶えられた。


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