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寝てしまったカルマをミーアの横に寝せる。


悲しみやその他諸々の感情を少しは涙とともに流せたのか少しすっきりとした顔で寝ていた。


最後にとばかりに頭を撫でると、夜風に当たりに行こうとソッと立ち上がって、音がでないように家から出ていく。


見張りと腹拵えをしないといけないからだ。


屋内でも、気配察知や魔力感知はできるけど、屋内にいるよりも、外にいた方が直ぐ迎撃できるし。


適当にブラブラと歩いて適当に選んだ家の屋根に飛び乗る。


暗視のおかげか、月明かりしかないのに昼間より少し暗い程度で周囲を見渡すことができた。


少し不思議。


全てが木で作られていて屋根が三角形のようになってる同じような20くらいの家が道を挟んで戸口が向かい合う形で並ぶ、そんな村だった。




人がいるような気配はなく、虫の鳴く音、一キロくらい(村に駆けてきた時にある程度なら分かった)は離れていそうな森から聞こえてくる獣や魔物の鳴き声以外は何も聞こえない。

静寂としている、否、死んでしまったそんな村になってしまった。


救えた命は少なく、失った命はあまりにも多い。


「分かってはいるんだけどな……」


ついつい口に出してしまう。


分かってはいる。


救えない事の方が多いことは。


この世界は魔物がいるせいで弱肉強食の世界だ。


強いものが生き、弱いものが死ぬ。


そして、今目に見えている光景がこの世界ではあたりまえとまではいかないが起こり得ること。


俺が生きていこうと誓った世界は。


だから、割りきらなければならない。


こういうこともあるのだと。


それでも、地球で生きていた頃の価値観が割りきることを拒絶する。


本当はもっと上手くいけたのではないかと、俺に訴えかける。


もっと早くに気づけていたのでは、と。


だけど、フェルテルの記憶が、少なくともこの世界で生きている俺の経験が、甘ったれたことをぬかすな、神にでもなったつもりか、傲慢にも程があると一蹴する。


例え、力を持ったとしても、全てが救えるわけではないと。


分かってはいる。


分かってはいるけど、捨てきれない。


「ああぁぁ…………

ムカムカする……」


ん?


ムカムカだと怒ってるっぽいよな?


なら、ムラムラ?


…………なんか、発情してるみたいだな。


うん。ムラムラは何かヤバい。


よってムカムカだ。


うんうんと頷きながら月を見上げる。


そこには紫の三日月と蒼の三日月があった。


「紫の月と蒼い月……

二つあるってなんか不思議だ」


それでも綺麗だ。


暫くの間見いってしまう。


「なんか……俺が悩んでることがちっぽけなものに思えてきた……」


雄大な風景をみると何故か自分がちっぽけな存在に思える。


どうせ、地球で培ってきた価値観は消えることがない。


だから、今後ももっとこうすれば、ああすればと思い続けるだろう。


でも、それでいいんじゃないか?


人間考えるだけなら自由だ。


この世界の人に地球での価値観を言えば、甘えるな、馬鹿なことを言うな、と罵倒されるだろう。


だったら、口に出さなければいい。


どうせ、(いにしえ)と称される程昔の知識と地球の知識しかないのだから、俺は非常識でしかないんだし。


自分の中で地球の価値観とこの世界の価値観を比べてどっちが自分にとって後悔のない方法なのか考えて行動に移せばいい。


郷に入っては郷に従えという諺があるけれど、絶対にそうしなければいけないかと言うとそうでもないんだし。


ただ変わり者とは言われるだろうけど。


地球でも変わってると言われたことがあるから慣れてるし。


そう思うと踏ん切りがついた。


さてと、腹が減った……


忘れてたけど、俺今日何も食ってない。


確実に昼飯、晩飯、もしかすると朝飯分の飯を食ってない。


そう考えただけで腹が食べ物を寄越せと(のたま)う。


村の食べ物を少し頂こうか…………


いや、なんか気が引ける。


二人のために使うならともかく俺のためってのはちょっと。


仕方がない。


フォーハンドエイプの肉にしよう。


家の屋根から飛び降りて、近くの家から薪と火打ち石と包丁とまな板を拝借。


食べ物を消費するのは良心が痛んでも薪を消費するのは痛まないという、都合の良さが随分人間らしくて我ながら苦笑い。


でも、二人をおいて薪を森に拾いに行くのは二人に何かあった時に分からないから論外だし、食べないのもいざというときに空腹で動けなくなるから論外だ。


だから、「ごめんなさい」と謝っておく。


薪の束から1つ、中くらいの大きさの薪を取りだし、


「風よ舞え 幾十幾百の刃となりて 凶音をあげて踊れ 哀れな観客に叫喚をあげさせろ『狂乱の風』」


最小の魔力を込めた『狂乱の風』は取り出していた薪を木屑に変えた。


なんか魔法の無駄使いな気がしてきた。


でも、便利だから気にしない。


木屑を一ヶ所に集めて、火打ち石をカチッカチッと打ち付ける。


すると木屑に火種がついたので急いで小さな薪をくべて火が消えないようにする。


ふはははっ!!


火おこしをやらせれば右に出る者はいないと謳われたフェルテルの経験を受け継いだ俺には雑作もないわ!!


っと、馬鹿な事考えてる暇なんてないんだった。


それに、50回くらいカチカチと失敗してて言える事じゃないね。


気にせずにフォーハンドエイプの死体を1体出す。


変な臭いとかしないから一応食えるよな?


大丈夫だと自分を思い込ませて、フォーハンドエイプの腹を切り開いて内臓を取り出す。


グロい。


でも、眉をしかめるだけで終わるのは少し慣れてしまったせいだろう。


そして肉は1度他っておいて心臓を切り開く。


すると1センチくらいの小さな石みたいなのが出てきた。


魔石と呼ばれる魔物の核らしい。


魔力が溜め込まれていて魔石が大きいほど大量の魔力を蓄えてることになり、その分強い。


そして魔力が蓄えられてるってことで魔法道具のエネルギー源となることができ、他の素材よりも高価で売ることができる。まぁ、1センチくらいの小さな魔石は屑石なので売っても雀の涙程度にしかならないけれど。


一応、アイテムに収納しておく。


さてと、肉……なんだけど……


次何すればいいんだろ……?


まぁ、焼こう。


あっ、鉄板か串がないと焼けないじゃん。


薪に刺すか。


いや、焚き火の両脇に薪を立てて腕の部分をその上にのせて焼こう。


薪の中から長めで太めなのを2本取り出して地面に差し込み、その上に4本ある腕のうちの1つをおく。


じっくり焼いて〜


焼いて〜


暫くたつとこんがりした肉が目の前に!


手を合わせて


「頂きます!!」


久しぶりの飯だ。


両端を持っていざ!


ガブリッと勢いよく噛みつき――――


「うぉぇっ!

マァァッズッ!!」


吐きそうになった。


肉は筋ばかりで堅く、そして焼いたのにも関わらず生臭い味が口いっぱいに広がった。


食えた物じゃない!


でも、これしか食い物…………


井戸から水取ってこよ。


それで流し込んでやるぅ……


町に着いたら絶対美味しい物食べるからな!


そう心に誓って井戸に水を取りに行き、一匹を泣く泣く胃に流し込んだ。










フォーハンドエイプの肉を食い終えた俺は井戸に背を預け休憩していた。


「うえぇぇぇぇ……まだ口の中が生臭い……」


フォーハンドエイプのランクが低すぎたのかなあ?


Fランクだとしてもそこまで不味くはなかったと思ったんだけど……


Fランクでもファンタジーでお馴染みのゴブリンはゲロのような味がするらしいけど…………


もしかしたらフォーハンドエイプもそうなのかもしれない。


猿の癖に肉食だし。


馬鹿だし。


いや、地球の猿だって雑食性動物だったはずだから肉を食ってもおかしくないのか?


猿=バナナって概念的なものがあるから、どうしても違和感を感じるんだけどね……


それに馬鹿だからってのもおかしいな。


だったら鶏は凄くまずいだろう。

鶏は三歩歩くと忘れるって言うし。


でも、諺だから本当はそうじゃないのかもしれないな。


ってか、なに考えてんだ?


脱線しすぎだろ……


とにかく、なんでまずかったのかだよな。


ランクが低すぎた以外に思い浮かばないや。


そういえば、昔、っといっても2、3年前に鶏を潰す所をテレビでみたな……


流石にどの番組とか覚えてなかったけど、農家のところに行くような番組だった気がする。


確か……羽を毟って……いや、その前にお湯につけるんだっけ?


うわぁ、昔過ぎてうろ覚えだ。


あれ、確かその前か後に鶏を逆さまにして吊るしてたような……


なんのためだっけ……?


血……


そうだ!!


血抜きだ!


思い出してきたぞ!!


逆さまにして体に残ってる血を流して、そのあと水で洗うんだ!


あれ?


血を流させるのは鮮度を保つためだったっけ?


でも水で洗わないといけないのは確かだった気がする!


なんかすっきりした……


それじゃあ今すぐ実験を――――



といきたいところだけど……


胃が……


腹一杯か?って聞かれると3割くらいと答えるのだけれど……


気持ち悪くて食欲が湧かない。


まぁ、明日の朝にやろう。


堅さは残るだろうけど噛みきれない程でもないし……なんとかなるだろ。なんとかなる……といいなあ……


「はぁ……」


とため息を溢す。


先が思いやられる。


また月を拝もうか、と思い、月に目を向けようとした瞬間――――



気配察知と魔力感知に反応があった。


「あはは……これは詰んだわ……」


気配察知と魔力感知の範囲は半径500メートル。


だけど、500メートルより外に出ればキッパリと分からなくなるのではなく、その範囲がどれ程小さくても分かる範囲だ。


つまりは有効範囲みたいなもの。


そして、今回分かったのは1キロ地点でのこと。


その位離れるとよほど強大な力を持ったやつじゃないと分からない。


そう、よほど。


俺は立ち上がる。


「連理の杖」


光が集まり、杖の形を成す。


逃げることは……無理。


例え俺1人逃げたとしても。


気配察知と魔力感知で分かる敵の速さは俺が走るよりも確実に速い。


「生き残れる確率は極僅か…………」


やるしかない。


生き残るためには。


死ぬかもしれない。


でも醜くも足掻いてやろう。


地を這ってでも生き残ってやるッ!


俺は少しでも二人に被害が出ないようにと、敵の元に駆け出した。



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