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森を抜けた。


そして俺は地獄を見た。



森を抜けた先には木の塀に囲まれた村があった。


いや、村だったが正しいか。


何故なら既に廃墟となっていたから。


おびただしい量の血が地面や家を赤黒く染め上げ、何かの肉片が食い散らかされたように散乱していた。


「…………う」


吐き気がこみ上げてくるが今は吐いてはいけない。


俺には今すぐに殺るべきことがあるから。


「こんのぉぉぉ糞猿がァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


怒りに任せて全力で吠え俺は全力で駆け出した。


森から村まで500メートルほどあったけど、10秒弱くらいで辿り着いた。


即座に動きを止め、集中して魔力を溜めて魔法を詠唱する。


「風よ佰条の矢となりて敵を射よ『風の矢佰連』」


百本もの矢が糞猿に向かって飛んでいく。


だけどまだ終らない!


「キッ!?」


「キキッ!?」


「キィィ!?」


糞猿がようやく俺に気がつくが遅い!


風の矢が頭部へと刺さり絶命していく。


「ハァァァァァ!!」


集団で固まっていた糞猿へと駆けて魔力を纏わせた連理の杖で凪ぎ払う。


トラックにでも跳ねられたかのようにブッ飛んでいく。


チラリと見てみると糞猿が固まっていたところには赤黒い人の面影がある肉の塊が落ちていた。


それを見て怒りが沸々と湧いてくる。


そして気配と魔力を探り、正確な敵の数と生き残りの有無を確認する。


糞猿の気配や魔力は覚えているし、人の気配もフェルテルの記憶で知っているからできる。


人の魔力は個人差が有りすぎてわからないけれども。


敵の数は479。


森を抜ける途中にも多数の糞猿とすれ違ったし、既に100と少しの糞猿を葬った。


それを考えると妥当かもしれない。


生き残りは――――――いたッ!!


2人だッ!!


途端に嬉しさがこみあげてくるけれど、逆を言えば3人しか生き残ってないということ。


生きて帰さないぞ糞猿!!


「キイィィィィィィィ!!」一匹の糞猿が鳴く。


仲間でも呼んでるのだろうか?


だったら好都合だ。


探し回らなくて済むから。


襲いかかってきた4匹の糞猿を一匹は左手に持ち変えた連理の杖で突き刺し、一匹は右手の裏拳で殴り、一匹は最小限の動きで交わし、地面に着地したところで蹴っ飛ばし、最後の一匹は引き戻した連理の杖を後ろに突きだすことによって刺し殺す。


再び他の糞猿共が襲いかかってくるが一匹は連理の杖で迎撃するが他は危なげなく回避して魔法を詠唱する。


普通は足を止めて集中して溜めてからでないと魔法は放てないけど、フェルテルは中規模魔法まで、今の俺なら小規模魔法の中でも下級なら足を止めず回避しながら溜めなしでも可能だ。


「風よ陸条の矢となりて敵を射よ『風の矢陸連』」


6本の矢が俺から少し離れたところにいる糞猿に突き刺さり絶命させる。


一匹は迎撃し、その他は回避して魔法を放つ。


一匹は迎撃し、その他は回避して魔法を放つ。


一匹は迎撃し、余裕があったので2匹追加で迎撃し、回避して魔法を放つ。


中規模以上の魔法を放ちたいけれど数えるのも馬鹿らしくなるほどの糞猿に囲まれてるため、溜める暇がない。


それに小規模に威力をおとした狂乱の風を全方位に放つことで隙を作ることも考えたけど、まだ生き残りがいるから、狂乱の風は範囲攻撃だから巻き込んでしまう。


だから無理。


仕方なく作業のように迎撃、回避、風の矢陸連を繰り返していく。


ゴキブリのように湧いてくる糞猿に飽々しながらも確実に、そして正確に殺していく。


暫くすると足の踏み場もなくなりそうなほど死体が溢れてきたため、場所を移動し、また作業を繰り返す。










暫くすると糞猿が襲いかかってこなくなった。


「キィィィィィィ!」


「キィィ」


「キィィ」


一匹が大きく鳴いて背を向け逃げ出すと呼応するように他の糞猿も小さく鳴いて背を向け逃げ出した。


「逃がすかッ!!」


すぐさま、中規模程に量を多くした風の矢を詠唱する。


「風よ弐佰条の矢となりて敵を射よ『風の矢弐佰連』」


200本もの矢が糞猿へと飛んでいく。


気配や魔力を俺が探れる範囲内では誘導式なため、どんどん糞猿に命中していき、生き残りの糞猿全てに命中した。


気配や魔力を探っても俺の索敵範囲内である500メートル内に敵はいない。


この村はそれほど大きくないから、村全域を索敵できる。


ということはもう既に全滅したということか。


「ふぅ……」


溜め息とともに張っていた気を弛める。


魔物とはいえ、600以上の命を1日で奪った。


なんというか、地球では考えられなくて、恐ろしい。


でも、この弱肉強食の世界では仕方がないことなのかもしれない。


それで割りきれるかというとそうでもないけれど。


やめよう。


考えるのは、後悔するのは後にしよう。


今は生きているだろう者のことについて考えよう。


「糞猿、フォーハンドエイプは全滅させました!!

生きている人はいませんか!!」


連理の杖を消して歩きつつも、大声で呼び掛ける。


流石に生きている人がいる前提で呼び掛けるのは警戒されてしまうだろうから、いないかもしれないという言い方をする。


地獄のような体験をしたのだから、疑心暗鬼になっているだろうし。


でも、出てこなかったら偶然を装って見つければいいだろう。


「フォーハンドエイプは全滅しました!!

生きている人はいませんか!!!」



再度呼び掛ける。


ガタッ。


すると右斜め前の家屋から物音がした、子供だと思われる気配が二つあった家だ。


「誰かいるんですね!?

今行きます!」


出てきてくれたということで急いで家へと向かう。


戸口から家を覗いてみると気配通り二人の子供がいた。


一人は10歳くらいの男の子でくすんだらオレンジ色の短髪の子で頭部に猫耳が生えてる。


容姿は良くて大きめなオレンジ色の瞳が保護欲を誘い、小動物みたいでしかも中性的で将来お姉さん系の人にモテモテになること間違いなしだ。


もう一人も10歳くらいの女の子で双子なのか、男の子とだいぶ似た容姿をしてる。


けれどショートカットの髪の毛の上から垂れ犬耳が見えた。


どうやら二人とも獣人種の子供らしい。


その二人が今にも泣きそうに抱きあって震えながらこっちを凝視してる。


「もう大丈夫だよ。

怖いお猿さんは俺が懲らしめたからね。

そうだ。

お名前教えてくれるかな?

俺はムツキって言うんだ」


しゃがみこんで同じ目線で怖がらせないように優しくにこやかに話しかける。


「…………カルマです……」


「…………ミーアです……」


恐る恐るだけれど、話しかけてくれた。


それに堪らなく嬉しさを感じる。


「そうか。

カルマ、ミーアありがとう。生きていてくれて。本当にありがとう」

救えた嬉しさに涙が溢れてきてしまう。


泣きたいのはカルマたちなのに、俺が泣いちゃいけないのに。


絶望を味わったカルマたちの前で喜んではいけないのに。


「…………おと……お父さんとお母さんは…………お父さんとお母さんは…………どうなったんですか……?」


怯えながらも親の安否を訊いてくるカルマ。


この問いに嘘も誤魔化しも無言も許されない。


本当の事を言わなくちゃいけない。


彼らが訊きたいのは真実だから。


「……………生きている人は…………君らだけだよ。

たぶん君らのお父さんかお母さんはもう亡くなってる」


だから偽りなく伝える。


そして謝らない。


それは偽善だから。


俺一人だけで全てが救えるわけじゃないから。


「……そう…………ですか…………」


真実を受け止めようとするカルマ。


「うぅぅっ……うぇぇぇぇん!

おどぉーざん!おがぁーざん!うぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!」


そして泣き出してしまうミーア。


「…………ミーア……」


カルマは優しく泣いているミーアを抱きしめる。


兄が妹を労る慈愛に満ちていた。


「カルマは……強いんだね……」


俺は白い世界でミーアのように泣くことしかできなかった。


カルマのように誰かを想うことはできなかった。


だから、カルマは強い。

「…………僕はミーアの兄ですから…………」


まだ子供なのになんて強いんだ。


俺なんかよりもずっと。


苦しくても自分より、相手を想いやる。


絶望のなかでうちひしがれ、嘆くのではなく、例え、自分が無力でも、相手を第一に。


普通にやれることじゃない。


「そうか。後でまた来るからね。

ミーアを頼むよ」


だから、俺はカルマに頼むしかない。


カルマは俺よりも強いから。


「はい……助けてくれてありがとうございます……」


「……うん」


俺は絶対に今のカルマの顔を忘れない。


地獄に咲くえがおは美しかった。


強く生きているってことだから。



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